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teach me, please!

唐突に湧きました。



 どうして水原さんは勉強が苦手なんだろう。

 もう何度目か覚えていないくらいになってしまった自室での勉強会──といっても勉強するのは可奈であって延々と教えている側なのだが──で、燈馬は重いため息をついた。
 向かい合わせに座った相手は眉間にしわを寄せながらノートと参考書を交互に見比べる。
 その度に、あれ?とか、え?違うの?とか声を上げ、首を傾げてちらり、とこちらを窺う。

 一から十まで教えてしまっては全然彼女の頭に入らない、というのはもう何度も教えたがゆえに解った事実で、そのため本当に行き詰まったときに助け船を出すようにと、教えるときには心がけている。
 こうやって視線を投げてくるのは教えてほしいのサインだ。
 ……先ほどその前の問題について説明したばかりのはずなのに。
 仕方なしに、解いたばかりの問題の下に丁寧にもう一度、今度は別の式を書き始める。
 細かく動いて小さな文字を紡いでいく燈馬の指先を見ようと、可奈は身を乗り出した。

 先に全ての式を書いてから可奈の方にノートを向け直し、補足をしながら説明する。
 もう何度もそれを繰り返しているのに、そこまで待てないとでもいうように、その都度その都度身を乗り出すのだ。
 乗り出した上半身からさらり、と髪が落ちる。
 落ちる度に、甘い香りがする。
 ずっと凝視されているのは仕方がないと判っていても気恥ずかしい。
 気に留めていないと装いながら、なんとかさらさらと公式を書き連ねた。




 可奈はそもそも頭が悪いのだろうか。
 否。
 頭が悪いわけがない。むしろ逆で、かなり頭はよいだろう。
 普段からその聡さに助けられていることは痛感している。

 何か事件が起こった際にその場に燈馬がいなかったとしても、事件を説く上で必要だと思われるような人が言った事や調べた事柄を細かく覚えている。
 その上、解りやすく伝えてくれるので彼としてもかなり推理がし易い。
 記憶力はもとより、どのような事を欲しているかを考え、調べる能力も長けているのだろう。
 普通、こちらから尋ねても即時に情報は返ってこない。それこそ、打てば響くくらいの反射速度だ。





「水原さんは地頭がいいんですから、もっと勉強に興味を持てば赤点なんて取らないはずなんです。もうちょっと努力してみませんか?」
 いくら記憶力がよくても、興味のない物は覚えられない。それはこうやって勉強を見ているだけで明らかだ。
 ここがこうですよ、と燈馬が説明しても可奈は聞いているんだかいないんだか。
 調子よく頷いたりはするものの、実際に応用をやらせてみても同じところで詰まってみたりする。
 やる気は感じる、感じるが、覚えようとする気迫は感じられないのだ。
 能力があるのに勿体無い。
 
「……難しいから興味なんて持てないんだもん仕方ないじゃん」
 可奈は唇を尖らせて、苦々しい顔の燈馬を睨む。


 正直なところ、可奈は興味がないわけではない。
 むしろ、面白そうだと思うのだ。
 数学の知識も、言語表現も、科学や物理といった類も、燈馬が語ると解りやすい。もっと突っ込んだ所まで聞きたい、とさえ思ってしまう。
 けれど、それを認めてしまうのは嫌だった。

 ……だって、数学とか物理とか、そのへんは燈馬君がずっと勉強してきてて、今でも時間があればそのことばっかり考えてるんでしょ?
 思考するとき頭の大半は、彼の大好きな数字で埋まってしまい、私なんてかけらも存在してないだろう。
 そういう、燈馬君の中での居場所を取り合う相手に興味を持つなんて、なんだか負けた気がする。


 言葉にしてみればなんてことのない、ただの意地、というか嫉妬だ。
 理屈ではないから性質が悪い。




「でもさ、こうやって燈馬君が教えてくれるのは好きだよ」 
 可奈の何気ないようなその一言に、燈馬の手がはた、と止まる。
「燈馬君が教えてくれるものなら、興味持てるかな」
 数学だろうが、物理だろうが、難しい経済用語がごろごろ並んでいようが。
 燈馬の口から語られるのであれば、その言葉には、意味には、音には興味が湧く。
 事柄自体に興味が無くても、燈馬が知っていて燈馬が教えてくれるのであれば、その全てが興味のあるものに変わるのだ。
「じゃあ、僕はずっと水原さんに教えることになるんですか?」
 学生でいる間はもちろんの事、学校を卒業しても人として学ぶものは沢山ある。
 一生かけても、終わるものではない。
「教えてくれるなら。どんなことだって。ずっと聞いていたいよ」

 書き終わり燈馬が視線を上げると、可奈と視線が絡まった。
 両肘をつき、嬉しそうに、にこにことこちらを眺めている。
 眺めながら、燈馬が語るのを期待しながら待っている。
 その姿は、何度も見ているはずなのに、見飽きることはない。
「それは……悪くないですね」

 燈馬は微笑んで可奈にノートを差し出した。
 鉛筆を赤ペンに持ち直しながら、可奈にまたきちんと座るよう促した。

「それではきちんと興味をもってもらえるように、誠心誠意、教えるとしますか」
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