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零れ落ちる夕映えの、⑤

ようやく完結しました……!
きっと直しがいっぱい入るとはおもいますが、なんとか平成のうちに終わらせられた!!!
長々とお付き合いいただきましてありがとうございました!!!!

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「お集まりいただき、ありがとうございます」
 燈馬君は恭しく頭を下げた。

 会議室には香坂、梅宮、クイーンとミステリ研のメンバーだろう男子生徒二人。前に被害者だと教えてもらった女生徒と付き添いの男子。教頭先生と私の付き添いで保健の先生。あとは校外の人間だろう男性二人。
 全員、燈馬君を、固唾を飲んで見つめている。

「犯人が解ったって聞いたんだけど」
 うつむいてる女の子の付き添いできたっぽい男子が口を開く。確か筑紫さんて人だっけ。
 一通りここに来る前に名前は教えてもらったけれど、実は誰が誰だか解っていない。
 あのきれいな顔の女の子緋本さん。あと、校外から来てる二人が朱田さんと橙山さん。どっちがどっちだったっけ? と、とてもじゃないけど聞ける雰囲気ではない。 
「はい。ようやく解りました」
 不敵な笑み、とでもいうんだろうか。目はまっすぐこちらをとらえたままに、
燈馬君はにこりと笑った。
 私達は燈馬君に相対するように会議室のテーブルについていた。
 どうやらミス研のメンバーも犯人やら推理やらをまだ聞いていないらしく、お互いに小声で予想を話し合っている。漏れ聞こえてる感じだと、全く参考にならない感じだけれど。
 記憶をなくしてから捜索ドロップアウトしてるから犯人なんか解りっこないし明らかに記憶無しの私は部外者っぽいからここにくるのは辞退したんだけど、燈馬君はそれを許さなかった。
 記憶がなくたって関係者なんですから、と言われてしまったら断りようがないし。
 場違いな感じで居心地悪そうにしている私と目が合うと、燈馬君は表情を柔らかくして、私だけのために微笑んだ。
 現金なもので、それだけで気持ちが上向いちゃうんだからおかしなもんだ。

「今回の事件は、難しいことなんて何もありませんでした。ただ、慎重になりすぎて時間がかかっただけの話だったんです」
 確かに、階段から落ちて記憶喪失になる人的被害が出なければただの連続盗撮事件なだけだった。
 犯人がどのような立場のどのような人間か把握しなければこれ以上の被害が出るかもしれない。そう想定して動くのは間違いじゃない。慎重に越したことはない。
 結果時間がかかったけれどきちんと裏付けが取れたことで燈馬君が招集をかけたんだろう。
 さてその推理は。
 この場にいる全員が、燈馬君を注視している。 

「今年の初め頃から、咲坂高校で盗撮が始まりました。
 被害者の緋本さんの動画が違法アダルトサイトに上げられたのは一月半ば。
 筑紫さんがそれをうちの学校のトイレだと特定し、ミス研に持ち込んだのが一月の終わり。
 その後何度かサイトに他の生徒の動画が上がり始めたので緋本さんを狙った犯行ではなく、トイレや更衣室の使用者全員を狙った犯行、ということが判りました。
 緋本さんの動画ばかりをまとめていたのはたまたまで私怨ではなかったようです」

 今までの事実に基づく推理と事実の確認。
 全員、物音も立てずに聞いている。 

「動画の種類やアップロードの回数から撮影は一度や二度ではなかったと思われます。
 ミス研の面々が総当たりでカメラ探しをしている期間も続いていました。
 ぴたりとカメラの設置が止まったのは水原さんが怪我をしてからです」

 みんなが一斉に燈馬君の視線を追って私を見る。
 
「もし犯人が水原さんと接触をしておらず、自ら足を滑らせて怪我をしたのであれば、撮影はずっと続いていてもおかしくない筈なんです。
 犯行が止まったという事はリスクを回避しようとした結果に違いありません」

 そうなのか。
 私は素直にそう思った。
 そりゃそうか。凶悪犯罪があってテレビやら新聞やらで報道されたならともかく救急車が来たなんて別段変わったことではないから警戒なんてしないのか。
 盗撮が止まったイコール私と接触して顔バレしてるってことなのか。
 なるほどなぁと頷いていると、燈馬君は呼んだ関係者一人一人をじっくり見つめながら目を細めた。

「朱田さんは緋本さんに個人的な恨みがあったために犯行に及び、犯行目的をぼかすために他の生徒の動画をあげた、とするならば、水原さんの事故の事も知っているはずですし何より犯人なら学校内で迷うことはありません。よって朱田さんは犯人ではありません」

 言われた朱田さん(メガネの男性の方らしい)はあきらかにほっとした顔をする。個人的な恨みってのが気になるけど、その辺はクイーンがすごい顔してこの人を見てたから逆恨みっぽいなにかだったのかな? とか好き勝手に想像する。
 あとで聞いてみよう。

「橙山さんは撮影の行われた期間は旅行に行っていたので犯行は物理的に不可能でした。よって橙山さんも犯人ではありません」

 もう一人の男性も、当然だという顔でおおきく頷いた。
 こっちのチャラそうな方が橙山さんらしい。
 旅行に出てたならカメラの設置も回収もできないから当たり前か。
 こうやって容疑者を外しながら推理していくのが、燈馬君のやり方みたいだ。

「犯人は水原さんがまだ記憶障害だと知る人物です。と、いうことは自然と学校内部の人間に絞られていく」

 ぐるりと燈馬君の視線が回る。
 呼ばれてびくりとする学校関係者。
 でも燈馬君が見ていたのは被害者と付き添いの男子と。
 そして、じっと、私と、私の隣を見つめた。
 え? どういうこと? と私が首を傾げたタイミングで、保健の先生は息を飲んだ。

「被害者である緋本さんと、相談者である筑紫さん、保健室の桜庭先生」

 先生の名前が挙がるとは誰も思っていなかったらしくて、ざわざわとまわりがうるさくなる。かく言う私もびっくりしている。
 一番関係ないはずの、ただの私の付き添いなだけのはずなのに。

「緋本さんの自作自演、とするには動機がないし、わざわざ自分を晒す行為を起こすのもおかしい。
筑紫さんが緋本さんを庇護する大義名分を得るため、とするにはリスクが高すぎる。
何より二人には水原さんの様子を事細かには伝えていません。
噂程度で様子を知る状態で、犯行を再開しようとは思いませんよね」
 急に名指しされて強張った顔をしていた二人の肩から力が抜ける。
 そうだよな。被害者なのに犯人扱いされちゃたまったもんじゃない。
 ……そうなると、犯人は。

「桜庭先生はどうでしょうか。
目撃者だった水原さんと常に一緒にいますし、通院するときも同行していますよね。
容体の変化は真っ先に把握できる。
従って、容体が安定して何の兆候もない今なら再犯しても顔の割れる心配がない」

 がたん、と隣の椅子が大きな音を立てた。

「それは……! 私には責任がありますし!
それに水原さんの症状は職員全員が把握している筈です! 
そんなことを言ったら教職員全員が容疑者ということになるじゃないですか?! 
ですよね? 教頭先生?」
 立ち上がった先生は後ろの方に座る教頭先生に呼びかけた。狼狽えてるせいか普段のやさしい声からは想像のつかない太い声。
 燈馬君はそんなことは構わないとばかりに、トーンも変えず続けた。
「他の先生方はそこまでは把握していませんよ。記憶が戻るか戻らないかなんて話、犯人が職員にいなくてもどこからか漏れたら大変じゃないですか。状態が安定していて記憶が戻る兆候はない、というのは学校関係者ではあなたしか知ることができないんです」
 はっきりと言われて、桜庭先生は言い返せずに唇を噛んでいた。
 きっと私が事件から隔離されて日常生活を送っている裏側で、燈馬君やミス研の人たちや香坂たちが色々調べたり裏付けを取っていたのだろう。
 蚊帳の外だった私は事実確認も出来ないまま、ただただ話を聞いているだけだ。
「おそらく、水原さんはカメラを回収した桜庭先生を追ったのでしょう。
クイーンが階下から響く水原さんの声を聞いたという証言があります。
驚いた先生は逃げようと非常階段を上った。水原さんはそのままそれを追う。
水原さんの声に驚いたクイーンは中央階段から一階に降りて水原さんたちが辿った経路だろうと非常出口から外に出た。
そして非常階段の上の階から争う声と大きな音を耳にします。
水原さんが転落した音です」
 私の記憶にない行動を、その顛末を、燈馬君が語っている。
 不安な訳ではないけれど、やっぱり自分自身の覚えていない行動や記憶喪失の原因の話はなんとも言えない気分になる。
 微動だにできない私に気づいたのか、燈馬君がこちらに視線を投げて一瞬だけ気遣わしげにふわりと笑う。安心させるためだろうか。ちょっぴり嬉しい。
「突き落とすつもりはなかった先生は、その場を離れた。けれど罪悪感からかあまり離れた場所に移動できなかった。
そこに上の階を探索していた香坂さんたちが音を聞きつけてやってきて、見回りでその場にいたと思った桜庭先生に声をかけた。
先生は勘違いさせたまま「校内を回っていたら気になって」と香坂さんたちと一緒に非常口から再度外に出た。そこからは、僕たちが知っている通りです」
 うんうん、と香坂たちが頷いた。
 そうして私の意識が戻り、救急車で病院に運ばれて入院して、犯人が見つからないまましばらく犯行は止み、寛解して私が登校し始めてしばらくしてから盗撮が再開された。
 あれ?
 でも、そうしたらなんで先生は一緒にいてくれたんだろう?
 確かに近くにいて常に病状を伺える利点はあったかもしれないけれど、私の記憶が唐突に戻って捕まる可能性だってあったはずだ。
 そんなリスクを背負うより、何かしら理由をつけて転職なり何なりして学校から離れてしまえば逃げ果せる可能性が高いのに。
 何せ私は顔を見たとはいえ、もう数ヶ月前になるし、記憶障害を患っていたし、そもそも現場自体を押さえられたわけじゃない。状況証拠だけで物的なものは残ってないんだから。
 物言いたげな様子で見つめる私に、燈馬君は手で制止をかけた。
 がたがた震えだした桜庭先生の前に立ち、静かな声で話しかけた。
「先生。あなたは水原さんの様子を伺いつつ、もし記憶が戻ればすぐに自首をしようとずっと気を配っていた。捕まってもいいと思っていた。罪悪感と常に葛藤しながらも、献身的に水原さんを看護して、逃げようとは思わなかった」
 そう考えれば辻褄は合う。
 最初から先生は逃げる気が無かった。
 私の記憶が戻らなければ御の字だけれど、思い出してもその時は観念しようと思っていたのなら。
 私もハッとして桜庭先生を見つめた。
「犯行に及んだのは理由がある。あなた自身も脅されていましたよね?そこにいる橙山さんに」

 犯人じゃないと言われたはずの橙山さんが、驚きのあまり椅子から立ち上がる。

「橙山さんが言い争いながら桜庭先生の自宅から出てくる所を、モルダーが見ていました。
後をつけたら他の男性に「臨時収入」だの「金蔓が使えないから直に払ってもらった」だのと言いながらパチンコ店に消えていったそうですね」
 桜庭先生と繋がりがあるように見えなかったのに、実は繋がっていたのか。
 慌て具合からそれは事実らしい。てかモルダーさんすごいスクープ見たんだな。
 どう考えても、その証言内容と今の反応じゃじゃアウトコースだろう。
「それは!別にそいつの事とは限らないだろ?!」
 一生懸命否定しようとしているけれど、正直、もう誰も信じてないと思う。
「それに俺は旅行に行ってて犯行は不可能だったってさっき自分で言ったじゃないか!」
「違います!」
 さっきまで俯いていた先生が、勢いよく立ち上がりキッと橙山さんを睨んだ。
「私は……確かに脅されてました!
私自身も盗撮されて……写真をばら撒くって……!私はこの人に言われる通りにカメラを設置したりSDカードを回収したりしただけです……!!中身だって知らない!全部、この人のせいなんです!」
 そこからやれお前はだのどうだのと、二人で罵声合戦が始まった。
 お互いに叫んでいる単語や内容は外野な私たちにはわからないけど、恐らく犯人同士しか知り得ない内容なんだろうな、ということだけは推測できた。
 ただ、犯行目的とかそういう話は出てないっぽいから興味ないし、ただうるさいだけなんだけど。
 呆れた顔のまま、全員がじっと二人をみつめている。
「状況証拠だけでしたが、こうやって本人からの証言も得られましたし、調べたら物的証拠も得られるでしょう……以上、証明終了です」
 騒いでいても構わず燈馬君がそう結び、騒いでいた二人が周りの空気にようやく気づいて辺りを見回す。
 もう弁明のしようもないからか言い争いを辞めて顔を見合わせ、バツの悪そうな顔で二人はお互いに外を向いた。

 しんとした会議室に、教頭先生がふぅとため息をつく音が響いた。
 犯人が判明したんだからそのままにはしておけない。
 朱田さんと目配せをして二人がのそのそと立ち上がった瞬間、隙を窺っていたらしい橙山さんがばっと室外へと駆け出した。
 みんなまさかここまで来て逃げるとは思っていなかったから退路を断つことができずにそのまま廊下への脱出をゆるしてしまった。
 私は突き飛ばされて崩れ落ちた先生をその場に置いて橙山さんめがけて走り出した。理屈じゃなくて本能で身体が跳ねる。
「駄目です!」という燈馬君の言葉も聞かず。
 だって逃しちゃダメだろ!この中の誰がアイツに追いつけるっていうの?!
 渡り廊下を抜け、非常階段の扉を勢いよく開いて、橙山は上に駆け上がる。
 その差はさすが私、どんどん縮まっているのは目視で判る。特に階段で橙山さんのスピードが落ちると、みるみるうちに手の届く距離まで近寄れた。
 私が腕を伸ばして服の裾を掴むと、橙山さんは両腕を大振りしながら回してきた。
 反射神経に物を言わせて私はひょいひょいと躱して懐に潜ろうと足を踏み出す。
 けれど体格差や場所の狭さもあって思うように動けない。
「水原さん、大丈夫ですか?!」
 下から声がする。
 ここでごたごたしてる間に私の後を追って何人か来てるらしい物音が聞こえてくる。
「大丈夫、今捕まえるから!」
「無茶しないでください!」
 ばたばたと階段を上ってくる音が聞こえる。
 橙山さんは焦ったのか踵を返そうともがくけれど私がそれを許さない。
 今度こそと近づこうとした瞬間、闇雲に振り回された橙山さんの肘が、運悪く私の鳩尾に当たった。
 とっさの事だったから避けきれなくて私は足場の狭さのせいでバランスを崩した。
 高校生の私だったら、こんなの難なく避けられたんだろうか?
 そんな仮定をしたとしたって意味はない。
「水原さん!」
 燈馬君のすぐ横を、私は重力に逆らえずに滑り落ちて行く。
 悲痛な顔だけ目に焼き付けたまま、どんどんどんどん燈馬君から遠ざかる。手を伸ばしても、もうどうにもならない。大きな衝撃が何度も何度も背中を襲う。
 ああ、また。
 燈馬君にそんな顔をさせちゃった。
 衝撃の痛さよりもただただ、そのことばかりが私は悲しくて涙が出てくる。上手く勢いを殺すことができなくて、身体はどんどん階下へと滑り落ちていく。

「また」 
 私はたった今、思ったことを反芻する。
 私は、燈馬君のあの悲壮な顔を知っている。同じような角度で、声で。
 あぁ、そっか。そういうことか。「戻る」んだ、私。
 そう思うとすとんとお腹に落ちる。

 ぐるぐるぐるぐるハレーションを起こしながら、ゆっくりと空が回る。
 この前胸に焼き付けた薄紫の、ピンクの、オレンジの。茜に焼けた、格子越しの空が、跳ねる視界で、全てが滲む。滲んで、ぽろぽろ零れて落ちる。
 目を閉じても、私の目の前には茜色の空が広がっていた。
 意識が夕闇に染まっていっても、私の心はまだそこにある。

 大好きだった、燈馬君。私を、また、好きになってくれた燈馬君。
 大丈夫。この数日の記憶が消えたって、この気持ちは忘れない。
 空を見る度思い出す。空を見る度、何度だって、燈馬君を好きになる。

 私は安堵しながら眠りにつく。
 きっと、目が覚めたら



 燈馬君が居てくれるから。



■■■■■



 目を覚ましたら、見知った顔が心配そうに、私の顔を覗き込んでいる。
「……犯人捕まったの?」
「えぇ、水原さんのおかげで」
 差し出された手を取り上体を起こすと、後頭部がズキズキと痛んだ。どうやら意識を失った原因はコレらしい。我ながらヘタこいたなぁと全身を見ると、擦り傷だらけで大変なことになっている。なんじゃこりゃあ! と叫びたい気分だ。頭が痛すぎて体の傷に意識がいってなかっただけで、気が付いたら今更ながら全身辛い。
 確か、私は保健室の先生を追って足を滑らせちゃった、筈。
 おかげと言われても声を上げただけだから実際捕まえたのはそれを聞いて駆けつけてくれた誰かだろう。
「私は結局のところ階段から落ちただけじゃん、何にもしてないよ。それより、なんで先生盗撮なんかしてたの? 聞いた?」
 燈馬君の顔が、強張った。
 何か変なこと言ったかな? と考えるけど、思い当たるフシがない。

「……覚えてないんですか?」
「何を?」

 私が首をかしげると、燈馬君は苦しそうな表情を一瞬だけ浮かべて首を振った。
「……いえ。何でもありません」
 いつも通りのトーンでそう言って、私の上半身を助け起こしながら傷の様子を確かめている。幸いにして落ちた割には裂傷はあまりない。骨折とかも無さそうだ。打撲と擦り傷ぐらいで済んでるから日頃の行いが良いからかな? とか笑ったら燈馬君にすごく眉間を寄せられた。
「病院に行かないとダメですよ。今は感覚が麻痺しているから大した事が無いように感じているだけで。短期間に何度も頭を打ってるんですから精密検査も必要です」
「何度も?」
「話せば長くなりますけど。水原さん、この一ヶ月の間、記憶が無かったんですよ? 階段から落ちたの、コレ二回目なんです!」
 言いながら携帯を出して燈馬君は私にくるりと背を向けた。
 どうやら父さんに電話してるようだ。来てもらってこれから病院に直行ということだろう。

「……そんなの、知ってる」
 聞こえないくらい小さい声で、私は後ろ姿に呟いた。

「何か言いました? 」
 と電話を終えて振り向く燈馬君に首を振って
「んーん、なんでもない」
 と言って、精一杯笑ってみる。
 けど、やっぱり痛いから、笑顔は相当にぎこちなさそうだ。
 

 痛いのは頭や身体だけじゃなくて。切なくて切なくて、胸がずきずきと疼いた。
 ここに残ってる幼い恋心は、幻じゃない。……本物だ。


 茜色だと形容した私の気持ちは、ここに確かに残っている。
 今の「私」の気持ちはどちらの私なのだろう?
 今まで積み重ねてきた気持ちか。この数ヶ月で芽生えた感情か。
 それを理解するには、まだまだ私には荷が重い。
 だから区別をするのではなく、一緒に積み重ねていこうと思う。
 二人の気持ちじゃなくて。私の。私達の気持ちとして。


「じゃあ、久しぶり?  ただいまかな?」
 私は燈馬君に握手をするように手を伸ばした。
 燈馬君は何とも形容しがたい、泣いてるような、笑ってるような難しい顔をした。
 そうして一歩、近寄って、
「お帰りなさい」
 と、私の手を取って、微笑んだ。
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