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shower snow after chocolate(中)

2回で終わりませんでした。
いつものことですねっ!
今日中には、決着をつけたい、です。





 帰り道にちょっと買い物したいから寄り道していい?と友達に訊かれ。
 特にこれといった用事もなかったのでそのままついて行った先。
 特設された大きなカートに色とりどりの箱の山。
 ガラスケースも周りに置かれ、ひっきりなしに女性が立ち寄る。

 「あぁ、そっか、もう明日、バレンタインなのか」
 あんまりにも縁遠いイベントなので、可奈はすっかり忘れていた。
 あげるとしても、友チョコを交換し合うくらいか、義理チョコを自分の父親と燈馬ぐらいしかあてはない。
 そう思い浮かべた頭の中に燈馬の姿を見つけて、ずきんと胸が鋭く痛んだ。
 つかえた破片が、しつこく刺さって抜けない。
 ガラス片のように。
 「あんた、忘れてたの?」
 一緒に付き合って来た香坂が、呆れた声をあげた。
 「そっか……だからあの子、必死だったんだ」 
 「あの子って、教室に来て可奈に宣戦布告してた子?」
 うんそう、と可奈は首を縦に振り、ふふふ、と笑い声を上げた。
 「チョコ渡して、告白、かぁ……いいねぇ、青春だねぇ」
 可愛らしい、あの子にぴったりなシチュエーションだ。真っ赤になりながら、きっとチョコを渡すのだろう。その時の燈馬の焦る姿が目に浮かぶようだ。その瞬間は目にすることは出来ないから、ちょっと残念だなぁと呑気に思った。

 「……可奈、それでいいの?」
 「何が?」
 楽しそうな笑い声を上げた可奈に、香坂は心配になって思わず声をかける。
 長年可奈を見てきたからこそ、可奈のおせっかいはよく理解しているし、今、何を思っているのかもある程度予想出来る。だからこそ、見えていないものも、手に取るようにわかった。
 「燈馬君とその子が、万が一にも付き合い始めたら、あんた今までみたいに燈馬君とどつきあったり出来ないよ」
 可奈は、そんな彼女の心配をよそに、ごくごく軽く、うーん、と考える風をしてまた笑い声を上げる。
 「そんときは、そんときかな」

 その顔を見て。
 香坂は無言で肩を持ち、くるりと一気に方向転換をさせた。
 買い物途中の友達にも、ちょっとトイレいってくるわ、と声を掛けて、押しながら、喧騒とは全く逆の方向へと足を進めていく。
 戸惑う可奈の声に返事もせず、ただただ建物の外れまで、黙々と。


 「鈍すぎるから、一応言っておくわ」
 押し込まれた、化粧室の入り口で、ぼそりと耳元に一言。
 「あんた、今笑えてないよ。すごい顔してる。鏡見てきてごらん」
 すごく、真面目な面持ちで、最後にとん、と背を押されて。
 言われるがまま、恐る恐る、鏡を覗いた。

 そこに映った、顔は。




 とぼとぼと化粧室から出て来ると、香坂はすぐ前にあるベンチに座って手を振っていた。誘われるままに、すとんと可奈は隣に腰を下ろす。下ろしたところで、ぽんぽんと背を叩かれた。
 別に泣いていたわけではないのに。そうしてもらうだけで、ちょっとだけ、打ちひしがれた心が温かくなった気がした。

 「私さ、どうして、笑えてないんだろ」
 鏡の中の自分を見て、愕然としたのだ。ちっとも笑っていなかった。香坂の言うとおり。上がってると思ってた口元さえも。
 沈痛な表情で、不安げに、こちらを見つめる、自分。
 到底、理解が出来なかった。
 隠し事の類はすぐに顔に出るくらい、感情と表情は直結していると信じていた。
 それなのに。
 気持ちと、表情が、リンクしていない。
「嬉しいんだよ?ホントなんだよ?」
 祝福する気気持ちは、これでもかというくらいに溢れている。
 それなのに、どうしてこんなにも悲しい顔になっているのだろう。
 いつまで経っても、胸の痛みは解消されないんだろう。
 どうして?どうして?と、疑問符ばかりが目について息もつけない。

 「あんたのその保護者っぽい頭なんとかしたら?」

 見兼ねたように、香坂はこつんと頭を叩いた。
 可奈は、単純で思いこみが激しい。だからこそ、物事を一方向でしか見られないのだ。
 こと、自分のことに関してなんて全然見てもいなくて、興味のあることのみを追う。だから、こんなことですぐ道に迷うのだ。
 「燈馬は、興味のないものに関しては徹底的に無関心だよ。可奈が絡んだものしか反応しないし」
 どこをどう見たって、この二人の間には誰も割って入ることなんて出来るわけないし、少なくとも燈馬自体にその気がないだろう。
 可奈だけが「特別」で、可奈以外は「特別ではない」ものだ。
 そんな周りに居るクラスメイトや部活の仲間や、燈馬と可奈のやりとりをいつも見てる誰でもが理解してるところを、この鈍感女はすこんと見落としている。
 「そのへんは解っててやんないと、流石に可哀想だよ」
 燈馬が、とは、あえて口に出さずとも解るだろうと言葉を止めて可奈を睨む。
 可奈は、思い当たることもない、とでも言うように、ぽかんと喋る香坂を見つめていた。
 もともとこういった事に関して考える頭を持っていないからか、情報の整理にえらく時間がかかってるなぁと見てとって。
 ここでだべっていても埒があかないかな、と理解した。
 なんにせよ、これは可奈自身の問題であって、必要以上に首を突っ込む謂れはない。
 あんまり藪を突っついても、いいことなんて無いだろう。
 ただ、最後に、一言だけはどうしても言ってやりたいと思った。
 この不器用な友人の背を押す、一言を。

 「そろそろなんで燈馬の事が気になるのか、世話を焼きたくなるのか。考えてごらんよ、早急に」
 
 目を見開いて、その言葉を受け取った可奈を見て。
 あぁ、ちゃんと言った言葉は届いたな、と確認をする。
 表情は硬いまま。
 でも、確かに。
 瞳に色は戻っているようだ。
 ぱちくりと繰り返されるまばたきを見て、少しだけだが肩の荷がおりた気がした。
 「いざ事が起こってから後悔したって、遅いんだからね」
 そう付け加え、とん、と背中を叩く。
 さっきまでの死んだ表情とは、やっぱり違う。
 どんなに笑みが無かろうが、明らかに、憑き物の落ちた様子だ。

 ありがとう、香坂、とほんの少し口角をあげた顔を、誇らしく見る。
 まぁ、ちょっとは可奈の力にはなれたかな。
 伊達に親友やってないし。


 待ちくたびれたって何か奢らされる前に戻らなきゃ、と。
 可奈の背を、来た道とは逆に押しながら、こっそり、香坂は期待する。
 可奈が、素直になりますように。
❄  ❄  ❄  ❄  ❄
 

 結局チョコレートは買わなかったなぁと、帰ってきてから気がついた。
 買いに行くにも、なんだか億劫だし、気持ちの整理のつかないまま準備するのも気が重いしで、どうしても、改めて出かける気にはなれなかった。
 父さん、ごめん。
 明日帰って来たら即効で買ってくるから。
 心の中で謝りながら、ころんとベッドに寝転がり、天井を見た。

 『なんで燈馬の事が気になるのか、世話を焼きたくなるのか。考えてごらんよ』

 なんでだろう?
 いつからか、可奈は燈馬に構うのが当たり前になっていた。
 あいつ、日本の事、知識としては理解してるくせに正しく理解はしてないというか、危ういというか。目を離すと地雷原に足を平気で踏み入れるやつだからなぁ。
 どうしたって、目が離せないと、思ったんだよ。
 うんうん、私は悪くない、と自然、首が縦に動く。
 見てないと毎食惣菜パンとか固形食とかだし、そういうの気になっちゃうとちゃんと生活出来てんのか?と心配になる。だからついつい食べるものに口出ししちゃうし、作りにまで行ったり、家に誘ったりしてしまう。
 でも、これは普段世話になっているお礼も兼ねているから、別段、特別ってわけでもないんじゃないかな、と思う。

 考えても、考えても、可奈の頭の中には特記事項は見つからなかった。
 胸のつかえは、相変わらず自己主張を続けているのに。
 寝心地が悪くて、寝返りを打ってみる。

 『いざ事が起こってから後悔したって、遅いんだからね』
 燈馬君と、あの子が、付き合ったら。
 想像したら、急につかえた破片がズキズキ熱を持つように痛みを増した。
 あまりの痛さに、胸を思わず押さえ込む。
 そこに、ガラスの破片なんて刺さっていない筈なのに。
 どうしても、どうしても。痛くて堪らない。
 痛みに喘いで涙が出るくらいに、痛くて苦しい。

 『あんたのその保護者っぽい頭なんとかしたら?』
 燈馬君は、見守る対象なんかじゃない。
 そんなの、もう、解りきってるんじゃないの、と自分の中で声がする。
 ガラスの破片の正体は。
 多分、きっと、この声だ。





 気がつかないうちに刺さって。
 その瞬間はちくりとするけれど、透明だから見ても判りづらくて。
 判らないから、そのまま放置をしてしまって。
 気がつけば。
 どんどん傷つけながら深く潜り込んで行き、手遅れになる。

 
 探しても探しても、もう、最初に刺さった傷跡は判らない。
 掘り返すためには、ただならぬ労力がかかる。
 しかも、何度も掘り返し、ガラスのつけた傷以上のものを何個も作ることになるだろう。




 もう、遅いよ。
 私は、あの子の恋を応援しようと。
 燈馬君が、幸せになるのを応援しようと決めてしまった。




 じくじくと痛んで、見えない血を流している傷跡を探るように。
 止血をするように。
 ぎゅっと、胸元を握り締める。
 けれど、痛みは増すばかりで、だんだん体中を駆け巡っていった。


 『いざ事が起こってから後悔したって、遅いんだからね』

 今、まさに後悔してる。
 事が起こる、恐怖に。
 でも、それを覆す勇気だって出ない。
 あの子の、燈馬の事が好きな故に、自分に敵意を真っ直ぐ向ける勇気に。
 敵うものなんて何一つ持ち合わせていないから。
 



 香坂が、背中を押してくれた暖かさを想う。
 こんなに、鈍くて、馬鹿な私を心配して、助け舟を出してくれた。
 まだ、間に合うよ、と言外に言ってくれた、優しさを想う。



 まだ、間に合うのかな?
 本当に。
 本当に。







 嗚咽の上がりそうな喉元を抑えながら、目を閉じる。
 明日、起き上がれる勇気がありますようにと。
 ちゃんと、立ち向かえる勇気が出ますようにと。
 祈りながら。
❄  ❄  ❄  ❄  ❄
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