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shower snow after chocolate(後)(2/16加筆)

なんとか、終わる見通しはついたので見切り発車っ!
今日中に終わったらホントにいいなぁと思いながら。。。
終わったらまた記事更新シマス……

題名にチョコレートとか言ってるのに全然糖度がないです。
あまあましたい。。。
そんな感じで。


追記:02/15 07:00 ちょっと進みました。
   02/16 00:19 終わりました……なんだこの文章量(滝汗)
   02/16 21:49 つじつまあわせのための加筆入りました。





 酷い顔だな。昨日、香坂に促されて見た時より酷いんじゃないの、コレ。
 鏡を前にして、内心つっこむ元気はあるのかと可奈は苦笑せざるを得なかった。

 苦しくて、ずっと痛んでいた胸のせいで碌々眠れた気がしない。無意識で泣いていたらしく、目の周りが大変なことになっている。もう、どう手をつけていいのやら。

 まぁ、とにかくとしてだ。
 どうにかこの顔を誤魔化して、学校に行かなきゃいけないわけだ、と。顔を洗い、支度を始める。腫れぼったいのはもう冷やすしかない。行くまでに何とかなるようなもんでもないけれど、やれることはやるしかない。
 食事をとる時間をギリギリまで犠牲にしてなんとか形を作ることには成功し、急いで食べ物を口に詰め込み、飛び出すように学校へと向かう。
 出る前に思い出し、友達との交換用にと、だいぶ前に買っておいた、一口チョコの詰め合わせの袋を、無造作にぎゅっとカバンに詰め込んで。

 具体的にどうするかなんて決めてない。どうしたらいいのかも解らない。
 土壇場で勇気が出なくて、ただ遠巻きに見つめるだけかもしれない。
 だけど。
 何か行動を起こさないといけないことだけは解った。燈馬君と、繋がる何かを。


 「おはよう」
 「おはようございます」
 心の準備もまだという時に、唐突に、下駄箱で燈馬に出会った。
 気まずかろうが、目線があってしまったんだから仕方がないと声をかける。
 うあ、声上ずってなかったかな、と途端に可奈は気恥ずかしくなり、燈馬の目の前をさっさと通過しようと脱いだ靴を急いで下駄箱に詰めた。

 「水原さん、昨日のことなんですが」
 呼びかけられて、ぎくり、と足が止まる。
 本当に、まだ心の準備が整ってはいない。
 何かをしようという気持ちはあれど。
 面と向かって何を話せばいいのだろうと、それすら判らない。
 「水原さんが離れる理由は何なんですか?」
 矢継ぎ早にそう問われても、正直に話すことは憚られた。
 流石にそれは可奈が明かしていい話ではない。今日、これから、その理由が解るから。

 またズキズキと胸が痛みだし、思わず押さえて下を向く。
 胸の中で、本音と建前がせめぎ合っている。
 いいカッコしぃなんて辞めて、楽になればいいのに。
 でもこれは、こればっかりは筋を通さなければ人としてどうなのさ。
 二つの思いが言い合いを始め、煩くて思考が定まらず、ぶんぶんと頭を振る。
 両方の言い分を吹き飛ばすように。
 今はまだ保留にしていたいのだ。何をすればいいのか考えるにはまだ時間はあるはずだ。
 早くても多分昼休みだろうし、放課後に渡すというのが一般的だ。それまでに、頭の中で作戦会議をして、練らなければいけない。
 いつもならばこんな頭脳労働は燈馬の仕事であって、可奈は肉体労働に専念できるのに。その燈馬は当事者なんだから仕方がない。
 なんでこんなにも、面倒臭いことになってしまったんだろうと、理不尽なのは重々承知の上でも、燈馬が憎らしく思えてきた。 

 が、睨みそうになるのを堪えて、にこりと笑う。
 「乙女の秘密よ」

 なんとか、ぐるりぐるりと普段よりも余計に回る頭から答えをひねり出す。
 香坂が「笑えてないよ」と言った、あの怖い顔になってなければいいなと心配したが、燈馬の様子からすると、きちんと笑えているのだろう。非常に不愉快そうに、眉を顰めた。

 「それは、具体的にはどれくらいの期間なんですか?」

 突然宣言され、一方的に決められて。それだけでも腹立たしいのに、この上理由もはぐらかされる。燈馬にとっては、不快以上の何物でもない。
 どういった心境の変化でこんな結果になったのか、それくらいは理解したいと思っていたのに。その理由が納得できれば、こんなにもイライラせずにすむのに、と。燈馬の唇は自然と尖ってくる。
 けれど、そんな苛立つ様子を見て、どうしてそこまでイラついているのか、そうする必要がどこにあるのか、可奈には理解が出来なかった。苛立たれるほどに、自分の事を想われているとは全く想定していなかった。
 自分の気持ちや、大義名分や、その他諸々で、視野狭窄を起こしていた。

 「んー、場合によっては無期限になっちゃう、かな」
 声に出して、またずきんと可奈の胸は痛んだ。無期限なんて、考えたくもない結果だと、悲鳴を上げる。いやいや、今は考えるな。どうにかして、切り抜けなければ気まずすぎて息もつけない。
 そのことにばかり気を取られて、燈馬の様子を一切見なかった。
 燈馬の顔が、目と目が、数センチのところまで、近づく。
 そこまで来てやっと、肩を押さえられて、向き直らされていることに気がついた。
 昨日の夕方から、真っ直ぐに交わしていない、視線。
 たった半日ちょっとのことなのに、もうずっと、燈馬の顔をきちんと見ていなかったような気になって、自然と頬が赤くなるのを感じた。
 気恥ずかしくて逸らした可奈の視線を逃がさないとでもいうように、燈馬は両手で頬を押さえた。
 「僕には、選択権はないんですか?」
 静かに、言う。
 見つめる目の中には、火が灯っているようだった。
 強くて、熱い。燃えるように激しい、怒り。
 「……なんで?」
 何の選択権か、は訊かなくてもわかるけれど。
 どうして、燈馬がそこに拘るのか判らなかった。
 どうせ一緒にいたって、面倒事や無茶振りを引き受けざるを得なくなるだけで、燈馬にこれっぽっちもメリットがない。
 選択の余地なんて、全くないと。
 可奈はずっと、そう思っていた。 
 そんな、選択権がないくらいで怒るほどのことではないと、そう思っていた。
 気圧されて、息が止まる。
 そんなに激しい感情を、燈馬にぶつけられた事はなかった。
 
 「僕は、水原さんに居て欲しいんです。隣に」
 激しい瞳はそのままで。
 あまりにも引力が強すぎて逸らすことを忘れる。
 また、大きく。どきんと可奈の胸が跳ねた。
 抉るように強い視線が責めるようで。じくじくと苛んでいる胸に沁みる。
 ツンと痛くなる、胸の奥の切ない感じに居心地の悪さを感じる。
 どうにも、背中がむずむずとして、じっとしていることが出来ない。 
 「……ゴメン! その話はまたあとでしようっ」
 あまりにも近すぎて呼吸が出来ないほどの距離を、燈馬の胸を押すことで広げる。
 多分これ以上話をすると、叫び出したい衝動に駆られるだろう。自分自身のことすらよく見えていないのに、燈馬の気持ちを理解するなんて到底無理な話だ。
 それならば逃げたい。
 逃げ出したい。
 答えが見つかるまでは、見逃してほしい。
 逃れるのも一苦労だと思えた視線は、離れてしまえばそれほど怖いものではなくて。いともたやすく、結ばれた視線を解くことが出来た。
 「水原さん、話はまだ済んでないです!」
 逃げ出した数歩後ろで、燈馬が搾り出すような声で言う。
 朝の雑踏の中でも、その声だけはよく聞こえる。
 ほかの誰もが振り返らずとも、可奈だけは。

 
 ずるいよね、私。
 でも、ホントにちょっとだけでいいから。
 どうすればいいかを考える、時間を頂戴、お願い。


 階段を駆け上がりながら、可奈は口の中だけでこっそり謝った。
❄  ❄  ❄  ❄  ❄
 カバンに詰めた色とりどりの友チョコを取り出し、配りながら、そっと窓の外を眺める。
 視線の先は、向こうの校舎の屋上だ。
 いつも通りに、燈馬はそこにいた。
 
 教室の中では、特にこれといって何もなかった。
 その辺はお互いに弁えていた。
 昨日の廊下でのやりとりの後で、下駄箱前のやりとりだ。その瞬間は周りなんて目に入っていなかったけれど、ギャラリーは少なからず居た訳で。
 何だ痴話喧嘩かと視界に入らないところでひそひそ話されているのに気づかない程には、二人共鈍くはなかった。 
 言いたいことは山ほどあるだろうに、燈馬は、騒がれることをよしとしない可奈を尊重して近づこうとしなかった。そして今は、+教室から抜け出していつもの定位置だ。特にこれといって言伝もなく。ふらりと教室を後にしてそのまま向こうに居着いている。
 それもこれも、可奈の為だろう。
 ……そういうところはホントに律儀なんだよな。
 内心ほっとしながらも、そんな燈馬に感心する。
 今朝の事は、あの子の耳にももう届いているだろう。多分、尾ヒレがついて、大げさに。
 それは、彼女の背を押すことに、なるのだろうか。
 嬉しいような、怖いような。


 頬杖をつく、指に力が篭る。
 一人しかいなかった屋上に、もう一人現れた。
 昨日見た、あの子だ。
 きょろきょろと燈馬を探し、給水塔の上に見つけると、大きく手を振り、合図をした。



 ……ああ。
 これから告白するんだ。
 燈馬君に。
 あの子が。



 授業なんて手つかずで、ずっと一日考えたけれど答えは出なくて。
 燈馬君とは、物言いたげな視線は何度も受けたけれど、言葉を交わすことはなくて。
 あの子が燈馬君に告白することは、怖いけれど嫌じゃないな、という気持ちもあって。
 ホントに、自分でどうしたいんだか判らなくて頭が痛い。

 保護者ぶってるつもりは全くなかったんだ。
 ただ、燈馬君が気になって。
 いいヤツなのに、誤解されて損をいっぱいしているようで、気になって。
 いい所を、もっとみんなに知って欲しくて。
 私はこいつのいい所いっぱい知ってるから。
 だから、好きになってくれて、すごく嬉しかった。

 いい所をいっぱい知ってるということは、それだけ燈馬君を見てきたってことだ。
 いいやつだなぁと理解出来るのは、それだけ、目で追ってきたからだ。
 それは、燈馬君の事が好きだからだ。
 間違いなく、私は、燈馬君の事が好きなんだ。
 人間として、友達として好きなんだよ、と逃げたところで、やっぱり特別なのは変わらない。
 私の中では、燈馬君は別格だったんだ。


 結論は出ずとも、少しずつ絡まって塊になってしまった思考の糸はほどけてきた。
 ぐちゃぐちゃになってしまった感情は治まり、今は薙いでいる。
 痛い胸はそのままに。窓の外、これから起こる光景を落ち着いて見守ることは出来そうだな、と目を細めた。

 告白を邪魔するつもりはない。気にはなるけれど。
 立ち聞きするのは趣味が悪いから、近寄りたくはない。
 けれど、彼女の話が終わったら、すぐにでも話しかけたい気持ちもある。
 燈馬君は、付き合うんだろうか?
 合理的な理由か。
 逆に、全く断る理由がなければ、多分。


 祝福できても、できなくても。
 やっぱり、燈馬君と話はしたいな、と思った。
 恋心に自覚するのが遅すぎた。
 あの少女に比べたらいくらでもチャンスはあったのに、自分自身の気持ちに気づきもしないで。ただ、隣に座って、笑っているだけで。それで、もう、満足していた。

 行って、話をすれば、最終宣告を受けるだろうことは目に見えている。
 そうしたら、もう、可奈の気持ちを打ち明けることもないだろう。
 洗いざらいぶちまけても、燈馬を困らせるだけだ。
 それは、可奈の望むところではない。


 何を話すかは、全く決めていない。
 けれど、最後に。
 燈馬の顔を見て、話したい。
 それだけは結論として、一つ、胸の中で大きく形作られた。



 「可奈?」
 出て行く背中を目で捉え、香坂が声をかけた。
 「ちょっと行ってくる」
 その声に、あぁ、と小さく声を上げた。
 瞳は死んでいない。
 非常に穏やかな、落ち着いた目をしている。

 ……答え、見つかったんだね。良かった。
 自分の行動が、きっかけだったとするならば嬉しいな、と高坂は手を振りながら思った。
 大切な友だちの力になれるなんて、これ以上誇らしいことなんてないんだよ。
 頑張れ、可奈。
 言葉ではなく、念を送る。
 受け取ったのか、可奈は非常に大きく頷き、綺麗に微笑みながら背を向けた。


 香坂のお陰で、私は勇気が貰えたよ。
 ホントに、ホントに、ありがとう。
 結果が出たら、真っ先に報告するからね。


 ぐっと握り締めた手の中に、少しの怯えや恐れや怖さを閉じ込めて。
 可奈は、いつもの場所へと足を進めた。
❄  ❄  ❄  ❄  ❄
 「随分勝手な言い分ですよね」
 屋上までの階段の踊り場。
 そこまで登って、燈馬の声が聞こえた。
 あんな重い扉に閉ざされた、その向こうから聞こえているはずなのに、はっきりと。
 ぴたりと、登る足が止まる。
 寒くて空気が済んでいるからよく響くのか。それとも、それだけ大きい声ではっきりと、燈馬が喋っているのだろうか。珍しい。聞いたこともない、冷たい声だ。
 肌寒さと相まって、背筋がぞくりと粟立った。
 「僕が水原さんに構われることによって不自由していると、どうして思うんですか?」
 一緒にいるはずの女の子の声は聞こえない。
 音としては微かに捉えられるけれど、何を言っているかまでは、聞き取れなかった。
 ただ、告白をしているはずなのに、不穏な空気だ。
 熱っぽさも何もない。
 ただただ、突き放すように、冷たい。

 「あなたは、随分と傲慢ですね。自分が、水原さんの代わりになれると思うんですか?」

 ちょっと待って、燈馬君。
 あんた、無関心で人が寄り付かないってことはいっぱいあったけど、自分から相手を攻撃して、寄せ付けないなんてことはなかったじゃない。
 いつもと、何かが違う。
 あの、燈馬君だ。
 このまま、こいつが攻撃し続けたら、彼女は。


 もう、深く考えはせず、衝動だけで。
 階段を駆け上り、扉を一気に開けて、見た。
 ばん、という金属の大きな衝突音が耳障りだったけれど、気にせず。

 音に反応して、びくりと小さな肩が跳ねた。
 振り返った顔は、今にも泣きそうだった。
 身を縮こませるようにしているからか、昨日見たときよりも、さらに小さく見える。
 その手には、抱きしめすぎて少し皺の寄った、赤と茶色の包み紙。
 きっとその瞬間までは、折り目もない、綺麗な状態だったはずの。
 「燈馬君」
 彼女の向かい側に立つ、燈馬を睨む。
 「あんた、何したの?」
 「別に、会話をしているだけです」
 燈馬はしれっと、肩をすくめながら、言う。

 そりゃ、会話だろうよ。
 燈馬君の言い分しか聞こえなかったけれど、かなり一方的な。
 理詰めにされたら、こいつに敵うやつなんていないだろう。
 私みたいに将棋盤をひっくり返したり出来ない限り。

 「どんな会話かは知らないけどさ、一方的に断罪するように責める必要があるの?」
 あんたの声だけは、まる聞こえだったんだけど?と目の前の少女を庇うように、可奈は立った。
 隠された少女は、そのまま後ろへと回り、きゅ、と可奈の上着の端を掴む。
 二人が会話を始めた時から、可奈がここまで来るには十分くらいは経過していただろうか。いつから会話の雲行きが怪しくなってきたのかは定かではないが、多分、それなりの時間、燈馬からこんな風に、突き刺さるような言葉の攻撃を受けていたのではないだろうか。
 昨日、あんなに気が強そうに見えたのに。今はそんなものも見る影もなく。
 精一杯、ライバルに対して虚勢を張っていたのかと思うと、やっぱり可奈は憎からず思えた。

 「告白をされました。そのために、水原さんに意思確認をしたと。そう言われました」
 いとも簡単に、燈馬は先刻までしていた会話の内容を、明かした。
 振り返ると、もう俯いて動かない、少女の姿。
 ……少しは配慮ってもんをしろよ、この無神経!
 あまりにも、痛々しく見えて、燈馬に腹が立ってきた。
 「そうだよ。この子から聞いたから、私は燈馬君とちょっと距離を置こうと思ったんだよ。悪い?」
 「……それが、水原さんの気持ちなんですか?」
 声のトーンは若干落ち着いてきたが、眼光は、鋭いまま。
 ……朝の続きだな、コレ。
 嫌な汗が噴き上がる全身をなんとか鼓舞して息を吐く。
 「……ただ、この子は、燈馬君の事が好きなだけじゃない」
 燈馬の問いには答えない。
 今、燈馬に言いたいのは、自分の気持ちじゃない。
 この場にいる、この少女が、どれだけ頑張ってここまで来たのか。
 その気持ちを、覚悟を。
 ねぎらいもせず、無下に踏みにじるという行為が許せなかった。
 どうしても、それだけは解ってもらいたかった。

 「好きだから、水原さんを遠ざけたんですか?」
 「そりゃそうでしょうよ。いい気がしないでしょ、好きな人にいつも自分以外の人がひっついてたら」
 あまつさえ、今日はバレンタインだ。
 告白したいのに第三者が常について回っていたら、チョコレートだけでさえ渡すタイミングが掴めなくなる。
 空気を読んで、席を外したとしても。
 声をかける瞬間は、同じ場所に居るのだ。
 気まずくなるに決まっている。

 拗ねるように、刺す視線が横に僅かに流れた。
 寄せた眉根に深々と皺が出来る。
 本当に、苦々しい、表情で。
 「僕の気持ちはどうでもいいんですか」
 絞り出すように、小さく、燈馬の本音が漏れた。
 「それは……」
 可奈は、言葉を見失う。
 『僕は、水原さんに居て欲しいんです。隣に』
 確かに、朝のやり取りで燈馬はそう言った。
 可奈が勝手に離れることを決めて、実行しようとしたことに対して、怒っていた。

 けれど。
 でもさ。
 言いたい事はいっぱいあるのに、いい言葉が見つからなくて嫌になる。
 探して、探して、見つからなくて。
 それでも、どうしても伝えたいことは、いっぱいありすぎて。
 どうしたらいいのか解らないから、とりあえず、まだ理解ができる事柄から、言葉を紡いでみることにした。
 「あのね、燈馬君」
 呼んで、一息つく。
 苛立った声で話をするのは逆効果だ。
 燈馬が怒っているのなら。
 こちらは、逆に落ち着くべきだ。
 上着を掴んだ震える小さい手に、指を重ねる。
 緊張して冷え切った指先は、興奮して熱を持った手には、丁度良いひんやり感だった。

 ……あぁ、なんて、可愛らしいんだろう。
 恋をする子は、みんな頑張り屋さんで、可愛い。
 私には、そんな可愛げがないから、羨ましいし、行動力にも、勇気にも、全て憧れる。
 勇気がないから、保留をしまくっている私には眩しすぎて、憧れるしかできない。

 「私さ、この子の気持ちすごく解ったし、嬉しかったんだ。それは本当なんだよ。ちゃんと燈馬君の良さを解ってくれる人が居るんだって、嬉しかったんだよ」
 口にして、この子が燈馬君を好きになった要素は何だろう、と思う。
 可奈の知らない燈馬像が彼女の中には存在するのかもしれないし、ずっと見てきたそのままの、不器用な少年を愛おしく思っているのかもしれない。
 でも、何であれ。好きになったという事実は変わらない。
 それは、本当に、本当に嬉しかった。もう、理屈ではなくて。自分の事のように。
 「だから、協力してあげたいと思ったんだ。そのことに対して、私は全然悪いことをしたとは思ってないよ」
 たとえ、燈馬の意思を無視したとしても、距離を置くという事は間違いではないと思う。
 全てが丸く収まるということはありえない。どこかしらで角が立つ。それはひとりひとり別個の人間なんだから仕方がないことで、その摩擦はどんなにどんなに最小限に抑えようとしたって起こる。

 燈馬君の側に立つか、この子の側に立つか。
 そんなの、決まってるじゃない。
 私の力が必要な方に加勢する。

 自分の思いとか、そういった難しいものは後回しで体が勝手に動く。
 その結果はなるようになればいいや、と楽観視して。
 自分の望むものかどうかは、受け取ってみなければ解らない。

 でも、もう、答えには怯えない。
 整理がついた頭で、それは理解できた。
 結果がどうであろうと、燈馬の事が好きなのは変わりないし、好きでい続けるのは自由だろうし、友人として一生過ごすのだって多分悪くはない。

 手を繋ぐことが出来るくらいには、近い位置にいると思う。
 一緒に居たいと、言ってくれるくらいには。
 それなら、私は安心して、今は手を離すことが出来るんじゃないかな、と。
 そう、思った。


 「だから、ちゃんと謝って。話を聞いてあげて」
 理不尽に、私に対する怒りをこの子にぶつけないで欲しい。
 そんな気持ちを込めて見る。
 きちんと、話を聞いてあげれば。
 この子がどんな思いでここに立ったか解るはずなのだ。
 私よりかは鋭い洞察力というか、人間観察力をもっているのだから、いつものように俯瞰で相手を見るのではなく、自分自身への事柄として、真剣に向き合って欲しい。
 それくらいは、解ってくれるよね?と目配せをすれば。
 溶けるように。
 燈馬の目に灯っていた火は消えた。
 可奈は、どうやら通じたと、満足げに。
 目を細めて頭を傾けた。
 


 燈馬は、可奈の真摯に語りかける様子を手を握り締めたまま、聞いていた。
 『ちゃんと燈馬君の良さを解ってくれる人が居るんだって、嬉しかったんだよ』
 そう、言った時の、目を伏せた様子に、胸が詰まった。
 いつも、可奈は自分がしたいからしてるんだ、という体で実際のところは燈馬の為になっている行動を起こす。
 結果、自分の為にはなってない、むしろマイナスになっていたとしても、笑顔で受け止めて。

 いつだって、あなたは。
 自分以外の人の事ばかりなんですね。

 言いたい事は、よく解った。
 自分に告白しに来た少女の為でもあり、燈馬の為でもあると思っている。
 いつも通りの、おせっかいだ。
 いつも通りだからこそ、可奈も怒ったのだ。
 自分を好いてくれている子にそんな言い方があるか!と。
 毎回毎回失敗すると怒られる、人とのコミュニケーションの取り方についてだ。
 
 目の前の、少女に対する怒りはもう無い。
 理不尽に場所を明け渡せと言われた当人は、自ら望んで場所を譲った。
 それは、彼女に対しての敬意の表れで。
 可奈は可奈なりの、考え方があるのだ。


 だが、しかし。
 場所を譲ったからといって、それを燈馬が望むかどうかまでは、決める権限なんて持ち合わせていない。
 その権利は、あくまで燈馬にしかなくて。
 そして、それは、彼女と、燈馬の間の話なのだ。
 今回ばかりは、僕も譲れないんですけど、それは仕方がないですよね?


 そう、心の中では呟いて。
 しっかりやんなよ、と少女の肩を叩いて来た道を戻る背中を見つめる。

 


 水原さんが、好きなんです。
 それだけは、解ってほしい、です。




 扉の向こうに消える姿を目で追いながら。
 燈馬は渇いた唇を噛み締め、再度近寄る、少女を見た。

 今度は、誰も近寄らせないように、鋭い視線ではなく。
 穏やかな、表情で。

❄  ❄  ❄  ❄  ❄
 「やっぱり、ダメでした」
 教室で机に突っ伏していた所で、顔を上げるとあの少女が立っていた。
 儚げに笑う顔を見て、胸がまた、痛くなった。
 やっぱり、昨日の宣戦布告は、精一杯の強がりだったんだなぁと理解する。
 素顔は、普通の女子生徒だ。
 いとも簡単に、傷つく、か弱い。

 「水原先輩、やっぱり格好良いです。憧れます」
 急に、そんなことを言われたものだから、え?と思わず声を上げた。
 自分は、彼女の恋のライバルであり、敵だ。
 格好良いとか、憧れるとか、そういった対象になるとは思っていなかった。
 「燈馬先輩も、水原先輩も、ずっと見てました。二人でいると何でも出来る、そんな二人がとっても羨ましくて素敵で。私も先輩みたいになれればいいのにって、そう思ってました」
 そうか、この子は。
 私が見ていた燈馬君の横顔を、見ていたのか。
 私の好きな、燈馬君を。

 ちくちくと痛む胸の奥で、申し訳なさがいっぱいになる。
 
 もし燈馬君とこの子が付き合ったとしても平気だ、友達としてでも全然大丈夫、なんて自分では思っていたはずだけれど。
 そんなのは嘘で。
 多分、頭のどこかで、燈馬君が断ってくれると信じていた。
 私は知っていたんだ。
 朝、下駄箱で、燈馬君に一緒にいたいと、言ってもらったことなんて、決定的で。
 私は、この子にチャンスをあげてるつもりで、傷つくのを解っていて、けしかけていた。
 なんて、傲慢なんだろう。
 羨ましいとか、素敵とか、そんなことを言ってもらえる人間じゃ、ない。


 「チョコレート、無駄になっちゃいました」
 皺だらけになってしまった、包み紙をびりびりと、彼女は破いた。
 中から出てきた、丁寧に丁寧に包まれた小箱の、蓋を取る。
 ココアで化粧をされた、綺麗に四角くカットされたチョコレートが、行儀よく並んでいた。
 「先輩も、食べますか?」
 「……いいの?」
 おずおずと、視線を上げる。
 「本当は、先輩にも、あげたかったんです」
 まだ涙の残る顔で、少女はまた笑顔を作った。
 「だから、遠慮しないでください。気合入れて作ったから、きっと美味しいはずです」

 何度も試作を重ねた、と言われたそのチョコレートは、甘すぎず、ちょうどよくほろ苦くて。
 想いがいっぱいこもっている分、美味しくて。
 頬張りながら、知らずに、涙が溢れてきた。


 
 ごめん。
 ごめんね。
 謝るのは、私の方だ。
 いたずらに、恋心を弄んでしまったのは、私なんだ。





 差し出す主も、ぽろぽろと涙を零しながら。
 二人で、声もなく、泣きながら。
 小さな箱を啄きあった。






 「ありがとうございました」
 深々と頭を下げて、少女は教室を足早に去っていった。
 先程まで泣いていた素振りも、全部飲み込んで。
 背筋を伸ばして。
 その仕草すらも、全て。とても綺麗だと思った。


 恋をする女性は綺麗だ、とよく言ったものだ。
 強さや脆さや、暗さや明るさや、いろいろな要素を抱えて、複雑に絡み合って輝いてる。
 失恋、とはいうけれど。
 好きだったという気持ちは、崩れ去った瞬間にぱっと消すことはできない。
 きらきらと、その破片が、体中から舞っているようだ。
 ずっと好きでい続けるかもしれないし、しばらくしたら違う人を好きになるかもしれない。それは、誰にもわからない。
 でも、恋をしていれば、こんなにも、輝けるものなのかな、と思った。

 自分は、どうなんだろうか。
 こんな風に、これから、輝いていけるんだろうか。
 正直、自信は全くないけれど。
 それでも。
 気持ちだけは、変わらず持っていられるということは確信できた。
 それだけがあれば、きっと、どうにかなるんだろう。
 そう、信じられるだけ、信じることにした。






 「断っちゃったんだ。勿体無い」
 また上がった屋上で。
 いつも通りに、給水塔の上で寝そべる燈馬を、自分も登って、上から眺める。
 目は、閉じたままで。聞いているんだか聞いていないんだか。
 けれど、狸寝入りだというのは解りきっているので、そのまま隣に座って続ける。
 「もう燈馬君の事好きだ!なんて言ってくれる女子、いないかもよ」
 わざと大げさに笑うように言うと、ころり、と寝返りを打って、可奈の方に燈馬が向き直る。見上げるように上目遣いで可奈を見て、視線が合うのを確認してから目を細める。
 「そうですね」
 自分の膝のすぐ横でそう相槌を打たれてなんとも言えない気持ちになり、耳まで熱を持つのを感じながらもそっぽを向く。
 心臓が早鐘を打つ。
 苦しいくらいに、どきどきと。
 「でも、いいんです。このままで」
 言ってふんわりと微笑む顔を、こらえきれずに振り返り見て。
 息苦しいような、嬉しいような、暖かいような。可奈の胸中に複雑な感情が沸き起こった。
 

 ごそごそと、制服のポケットを探る。
 無造作に教室を出るときに入れた、四角い小さな塊を数個、手で捕まえた。ピンクや、赤や、水色や。色々な柄をした小さな包みが手の中で踊る。
 あの子の出した、すっごい手の込んでそうなチョコと比べたらこんなもの。そうは思うけれど。
 形のあるものを、今、ここで渡したい。それがどんなものであろうとどうしても。
 急に、そう、思い立った。

 「今日がバレンタインって気がついたのが昨日だったから。なんにも準備してなくてさ」
 握りこんだ拳を、燈馬の手に向ける。
 仕草だけで手を開くことを促して、一気にばっと手を開く。
 陽の光を反射して、包みがキラキラ反射しながらこぼれ落ちていく。ころんころんと掌の上で跳ねて、小さな山を作り出す。さばっと掬って乗せたそれは、質量的にはさほど多くもないだろう。
 けれど、質でも、量でもなくて。
 あげたい物は、チョコレートとは、別の物だ。
 「こんなのでもよければ、……貰ってくれる?」
 そっと、掌から視線を上げる。
 逆光に照らされて、眩しくて、薄目でそっと見る。
 真っ直ぐ見つめるほどには、まだ、勇気は出なかった。

 「有難うございます」
 表情は見えないけれど、笑っている。
 声と気配で、そんな気がした。
 それだけで、何故だかホッとして。胸が暖かくなって。
 もやもやも、ひっかかりも、溶けて跡形もなく消え去った。
 なんて現金なんだろう。でも。やっと心の迷路から解き放たれた安堵に、今は浸っていたい。喜んでいたいなぁと、心底思った。


 燈馬が、包み紙をひらいてぱくりと食べた。
 その場で。
 情緒もへったくれもない。
 まぁ、そもそもそのチョコレートに情緒なんて存在しないだろうけれど。どこからどう見たって、義理チョコ以上の意味は見いだせないチョイスだ。
 それでも、一応、可奈にとっては、特別な意味を持ったチョコだったのに。
 憤る気持ちを、なんとか収める。
 そんなチョコしか用意しなかった自分をまず呪わないと。
 「美味しいです」
 思わず真っ直ぐ見てしまったところに、とろけそうな笑顔を見せ付けられる。
 悔しい。
 ムカついているのに、瞬時にどうでもよくなってしまう。
 「そりゃ、美味しくなけりゃ売り物になんないでしょうが」
 見とれていることを認めたくなくて、わざとぶっきらぼうに返事をする。
 手作りとか、そういうものではなくて、本当に、ただの廉価チョコなのだ。それをことさら美味しいなんて言われたら嫌味に聞こえるよ、と抗議も兼ねて、外を向く。
 そんな可奈の意図を知ってか知らずか。
 「でも……水原さんがくれたものだから、美味しいんです」
 燈馬はさらに満面の笑みを浮かべて、可奈を見つめた。
 もう、照れてしまって視線なんか戻せない。
 見つめてしまったら心臓が止まってしまうだろう。
 どうしてコイツはこんなにも簡単に、歯の浮くような事をさらっと言えるんだろう。ある意味羨ましい。


 「……来年は、さ」
 燈馬の手の中のチョコレートが粗方片付いた頃、火照りの収まった頬を手で摩りながら、可奈が視線をまだ戻せずに、そのままぽつりと口にした。
 「はい?」
 平常の色にに戻った横顔を、眺める。
 遠い遠いところに焦点が合っているのを、確認する。
 見ている先は、何日先か、何ヶ月先か。
 少なくとも、遠い未来ではないんだろう事は、理解できた。来年、と言ってはいるが、本当に、近いうちに。
 それくらいには、意志の疎通は出来た気がする。
 可奈と、燈馬の間隔は、狭まったとは、思いたい。

 「来年は、ちゃんとしたの渡すからさ。……覚悟してろよ」
 覚悟してろよ、は照れ隠しによる後付けで。やっぱり、若干、気にはする。
 こんなのは狡いと思うのだ。
 不幸な結果になったけれども、あの女の子はきちんと本命に筋を通して、手作りチョコを作って告白したというのに。
 かたや可奈は、告白も明確にせず、たった数粒のチョコレートで。
 けれど。
 そんなちょっとの安っぽいチョコレートでも、燈馬は美味しいと食べてくれる。
 それなら私も応えなきゃ、と変に力が籠もるのを感じてまた、気恥ずかしくなった。

 「はい、楽しみです」
 燈馬はそう言い、一人で勝手に盛り上がっている可奈を後目に最後のチョコを頬張った。
 カカオ分がとか、ミルクの質がとか、そう言ったものは一切関係なくて、ただただ甘い、ごく普通のチョコレートだ。
 それでも、顔を真っ赤にした、可奈が差し出した。
 きらきら光りながら降ってきた、大事な宝物だった。
 惜しい気もしたけれど、来年もまた可奈がくれると言ってくれたので、安心して口に運んだそれは、歯を立てずとも、いとも簡単にゆるゆると溶けていく。

 せめて、口の中で溶けて消えるまでは。体中を駆け巡っている、衝動を抑えておこうと心に決めた。
 やっと見つめ返して貰えた嬉しさは、言葉じゃ表現しきれない。

 可奈に貰ったこの気持ちを腹に納めて。
 それから。
 自分自身のすべてを使って、この気持ちを伝えよう。
 そう思いながらまた赤みを増す頬を見つめた。
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