Re:(前)
ホワイトデーまでにおわりませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
しかしホワイトデーな話かというとそうでもないなぁどちらかというとバレンタイン……orz
そんなわけでなんとか前半折り返しまでは出来ました……m(__)m
世間は所謂バレンタインというやつだった。
買い物しててもテレビを見てても、雑誌を読んでもチョコレートの話題ばかりで、学校内でも誰が誰に告白するかとかそういう噂話で満ちている。
「今年も可奈は燈馬君に告らないの?」と話を振られる度、当の本人は曖昧に笑って誤魔化していた。ムキになったりしない辺り肯定しているのと変わらないのだが、そこまで気が回っていない。
一昨年、昨年とチョコレートを渡しているものの、それは日頃世話になっているからのれっきとした義理チョコだった。
持て余していた気持ちの正体を薄々感づいてはいたものの、認めたくはなくて目を閉じる。認めなければ友達のまま面白おかしく一緒に過ごせる。そうやってもう三年近くやってきた。
さすがに、もうそろそろ潮時か、というのは可奈自身も解っている。
進路や諸々が各自決まりつつあり、あと数週間もすれば卒業だ。自分自身はお陰様でまだ学生の身分が続くのだけれど、燈馬は既に大学を出ているし、何せ元々はアメリカ暮らしなのだ。卒業後どうするかはまだ決めてませんなんて今は言ってはいても、どうなるんだか解らない。
気安く話も出来なくなる可能性もあるのなら、気まずくなって会わなくなるのと何ら変わりないじゃないか。
だったら言いたい事を言ってハッキリさせた方が気が楽だし、何よりもしも応えてもらえるなら、その言葉を免罪符にどんな事だって出来る気がする。
そう自分に言い聞かせ、勇気を振り絞り手の中を見る。
昨年までも確かに手作りだったけれど、今年は言い訳を叫びながら作ったものではなく、燈馬の食べる姿を思い浮かべながら心を込めて作った物だ。ラッピングも気合を入れて、大事に大事に包んできた。
これを渡しただけで伝わるなんて思ってはいない。要するにこれは告白するための自分に対する後押しだ。
「燈馬君」
意を決して、声をかける。
可奈の声に反応して、燈馬はずっと睨んでいたディスプレイから目を離した。
可奈の手には小さな包みが握られている。お菓子くらいの大きさか。
あぁそう言えば今日は14日、バレンタインデーだったか、と思い出す。
一昨年昨年と欠かさずに義理だからね !勘違いすんな!! と前置きをしながら顔を赤らめてお菓子をくれた姿を記憶の底から引っ張り出す。
今年も律儀に持ってきたのか。
「ありがとうございます」
嬉しそうに、ふわりと燈馬が微笑んだ。
「まだ何も言ってないだろ?」
「でも、それのことですよね?」
指差しされてかあっと可奈の頬が熱くなった。
おや、と燈馬は目を見開く。
いつもと少し、様子が違う。
受け取ろうと可奈の前まで歩み寄ると、非常に落ち着きの無い様子でわたわたと焦っている。
「毎年、ありがとうございます」
「……あ、あぁ、うん、毎年食べてくれてありがとう!」
自分でも何を言っているのやら解らない。
可奈はどう切り出していいものかと、包みを渡しながら思案する。
燈馬は不思議そうにこちらを見つつも、いつもと同じようにその場で包みを開けて中身を取り出した。
「美味しそうです」
いつもよりも、かなり力を入れて作ったガトーショコラだった。美味しくない訳がない。
いつもならじゃあお茶入れるからと手の中のものを皿に移して用意したりとするのだが、生憎、今回だけは違う。
その前に、言わなきゃいけない事があるのだ。
「あのさ」
緊張で狭まった喉から、半音高い声が出る。
自分の鼓動が煩いくらいに耳元で鳴っている。手先も脚も強張って、地に足が着いている気がしない。可奈から発する緊張感が、辺りの空気を張り詰めていく。
普段燈馬と話すのに、こんなに緊張したのなんて覚えがない。気持ちに気づいた後も、意識してドキドキしたりはしたものの、歩くのさえやっとなくらいになりはしなかった。
一方の燈馬も、ただならぬ可奈の様子に手元に落とした視線を可奈の方に戻す。
何を言うのかは大体は想像がついた。今日の日付。渡された物。今現在の可奈の様子。そのどれもが、想定されるものに直結していた。
「私、……燈馬君の事、……好きだよ」
まっすぐに燈馬を見据えて、可奈ははっきりとした声で、そう言う。
あり得ないと思っていた、というのは嘘だ。実際はそうなる可能性はいくらか考えてはいた。しかし、燈馬はその可能性に目を瞑っていた。自分自身の気持ちと可奈の気持ちは、等しい筈がないと。
気持ちを吐露した可奈の視線は、燈馬の気持ちの所在を尋ねている。
投げられた問題。
解は出されなければいけない。
自然と答えは、口をついて出てくる。
「僕も、水原さんの事が好きです」
それは真実。
それは解答。
燈馬の気持ちは可奈にあり、他に行き場なんてありはしない。向けられる好意はあたたかで嬉しくてかけがえがない。享受するのが勿体無いくらいに。側に存在するだけで狂おしい程の愛情が湧き上がってくるのに、その上気持ちまで傾けてくれるなんて。
燈馬の解答に、可奈は息を飲み、目を見開いた。
自分の気持ちを受け入れてくれた。
両思いだったと打ち明けてくれた。
思わず抱き締めたい衝動に駆られて足を踏み出した瞬間、身体は手一つで遮られた。
「……だから、このまま、友達のままでいましょう」
明らかな、拒絶。
押さえられた肩が熱い。
言葉が頭で反響する。友達のまま。友達のまま。なんで。だって今、好きって言ってくれたのに。このまま。今のまま。友達同士で。
「……え?」
辛うじて、訊ねるための音が出る。
「水原さんの言う“好き”と、僕の“好き”は多分違うものですから」
“好き”が違う。どういう事か。訳が解らない。お互いに好きだと思っているなら問題なんてあるはずがない。
燈馬はずっと笑顔のままだ。いつもの優しげな笑顔。いや、こんな話をしているのにどうして笑っていられるのだろう。何を考えているのか全然解らない。自分はもう、どんな顔をしているのか、自覚すら出来ないのに。
「……燈馬君は、私を、」
声を出して胸に詰まる。
息を吐くようにして発声しているのに、声と一緒に出てくるのは涙だ。泣くもんか、と寸でのところで堪え、息を整える。
「……そういう風に、女の子として、私の事を、“好き”だと思ってないって事?」
ようやく続きを紡いだ所で、そっとまた、燈馬を見据える。
笑顔のまま首を振る姿を見ながら、堪えたはずの涙がつ、と頬を伝う。拭っても拭っても勝手に溢れ落ちていく。止めようがない。
「違います、僕は水原さんの事、好きなんです……愛してます」
「だったら」
「だから……今のままの距離感が一番いいんです、お互いのために」
解らない。燈馬の意図が解らない。
お互いのためというのなら、どうして、今のままがいいんだろう。
「私は、自分の気持ちに名前をつけた。自分を誤魔化しきれなくなったんだよ、燈馬君……」
燈馬に触れたい。もっと燈馬の近くに居たい。このままいずれ離れてしまうなんて嫌だ。誰にも燈馬の隣を渡したくない。
「何で友達のままがいいの? 私はやだよ、気がついちゃったんだもん、きちんと形にしたい……」
涙で震える声をそのままに。でも、もう燈馬の顔を見つめるのは怖くて。だんだん小さくなる声が、視線と共に足元に落ちていく。
「……形にしたら、水原さんを傷つけてしまいそうなんです」
ぽつり、と燈馬が零し始めた。
「抑えきれないんです、自分の中にある衝動を」
噛みしめるように言う声を、可奈は爪先を睨みながら聞いている。
もう燈馬の表情には、笑みなんて残っていなかった。自分自身の言葉で可奈が傷ついている様をずっと目の当たりにしている。傷つけたくないなんて言いながら、今もなお、傷を広げている。作り笑いだろうがなんだろうが、そんなもの。浮かべる余裕なんてありはしない。
肩に手を置き、顔を覗き込む。泣き濡れた顔が痛々しい。
愛しい、という感情は暴力的なのだ。全てを手に入れなければ気が済まない。いや。手に入れても更にさらにと貪欲に求め続けるだろう。そんな一方的な蹂躙を、可奈に強いる訳にはいかない。
まだ、今なら間に合う。心の傷も浅くて済む。深みに嵌ってからでは遅い。心も身体も傷つけるくらいならいっそ。
「……お願いですから……水原さんの好きな“燈馬君”のままでいさせてください……」
「私の好きな“燈馬君”って、何だよ……燈馬君に解るの?」
しゃくり上げる中に、ぼそりと不満げな声が混じる。
解りますよ、と燈馬が前置きをすると、何が? と問う涙でぐしゃぐしゃになった視線が絡まってくる。その刺すような視線に、燈馬の胸はつきん、と痛みを覚えた。
「……あなたに際限なく優しいんです。甘いんです。あなたが大事だから、離れて行って欲しくないから。精一杯大事に扱うんです。自分の欲求を隠して、押し殺して」
それが、あなたの燈馬君です、と結ぶ。
可奈は何か言いたげに二度三度、喘ぐように口を開いた。
何が違うというのだろう。燈馬は燈馬だ。たかだか三年の付き合いだけれど、その間にひととなりは見てきているのだ。
際限なく優しい? 甘い? 確かにその甘さに付け込んでいた所はあると自覚している。でも、可奈に見せる顔だけで燈馬を好きになったわけではない。
「……見くびるなよ! そんなもんで今更見る目が変わるワケないだろ?! ……私の気持ちがそんな軽いもんだと思ってんの?」
感情のままに、襟首を引っ張り、目前に顔を寄せた。腹立たしさから力任せに引かれた燈馬の身体は、されるがまま傾く。それすら、もう。可奈と話をすることを放棄しているようで焦燥感を煽られた。
燈馬には関係をどうこうする気がない。だからもう、可奈の言い分にはもう意味はないのだ。解ってて、それでもなんとか縋り付こうと足掻いている。感情に折り合いがつかない。どうしようもない。
「軽くないからこそ、変わられるのが怖いんです」
感情の起伏が、あまり感じられない声。
見つめられた顔に、見覚えがある。
これは「諦めた」時の表情だ。
その表情を見るのが苦しくて嫌で、何度燈馬の尻を叩いたか知れない。
自分の感情より論理を優先するから、自分をいつも後回しにしてしまうから、だからこそ、可奈は自分の前でだけはそういう顔をさせたくないと無理矢理にでも背中を押してきた。
その顔を、今は自分がさせている。
燈馬は、「諦めた」のだ。
可奈を。
可奈の変化する気持ちを受け止めるのを。
自分自身の本性を知られたら離れて行くと信じて疑わず。
「……勝手な言い分だね……」
好意の質が違えば、きっと燈馬に対する接し方も変わるだろう。それは確かに受けてみなければ解らない。でもそんなの、人間誰しも同じだと思うし、特別な事ではい。
怖いのはお互い様だ。自分だって、変わってしまうのが怖かった。
けれど、どうしても、燈馬の側に居たかった。
今以上に、近い位置に存在したいと思った。
でも。
燈馬は、今の距離感の方がいいと望んだ。
それは多分、彼の中では可奈を守っている気持ちなんだろう。
誰からも、自分からも傷つけないように。
大事に大事に、ガラスケースに入れて抱きかかえてる。そんな感じ。
いつまで経っても、ガラスの向こうとこちらは、交わらないままで。
表情も声も聞こえるのに、ただ、ガラス越しでしか触れあえない。
「解った。……燈馬君は、現状維持がいいんだね」
顔をすくい上げられていた手を払う。
燈馬が諦めたものを、今までは可奈が無理矢理にでも拾いに行かせた。
けれど今は、その役目を果たせるものなんて居やしない。
「いいよそれで。……ずっと、友達でいよう」
もう、抱きしめられない。
触れられない。
こういう所は燈馬は頑固だ。
きっと、結論づけたからにはずっと節度を持って接してくるだろう。
「別に態度変えたりはしない。今まで通りに接するよ。……実際、何にも変わらないし」
そう、何も変わらない。昨日までと同じ。
ただ、自分が失恋しただけだ。
どんなに想ったって、相手は応えてはくれないだろう。そんな日なんか絶対来ない。けれど、どうしたって期待してしまう。普段通りに、お互いに接するなら。まして相手も、自分に好意を持っていると理解しているのなら。そうして期待して期待して、応えてくれないのにずっとずっと想い続ける。
……友達のままというのは、なんて残酷なんだろう。
泣きすぎてぼんやりする顔を、腕で拭う。
呼吸は大分収まっていたので、再度深呼吸をして、服を正す。
みっともなく取り乱すほど燈馬が好きだったんだな、と今更ながらに自覚する。
大丈夫。
大丈夫。
もう、気持ちを捨てる。
ちゃんといつも通りに接するくらい出来る。
可奈が落ち着こうとしている様を、燈馬は間近でぼんやり見つめていた。
この選択が合っているかどうか何度も何度も考える。
自分の主観は捨てて考える。主観が入ると正しい答えは導き出せない。人の感情は理屈では無いから、外的要因から考えた方が確実だ。
自分は確実に可奈を傷つける。肉体的にも、ともすれば精神的にも。そんなのは解りきっている。
だから、この選択はどこからどう見たって正しい。
たとえ、可奈の辛そうな表情を見て胸が痛んでも。立ち去ろうとする背中を見て、身が切られるように痛くても。
「帰る」
身支度を済ませ、背を向けたまま。可奈は呟いた。
燈馬は、縫い止められたように一歩もその場を動けない。
可奈ももう、燈馬の顔を真っ直ぐに見つめられる気分では無かった。
そのまま、玄関に向けて足を進める。
「水原さん」
乾ききった喉からやっとの事で、声が出る。
後ろ姿が遠ざかっていくのを、なんとか引き留めたくて。
「あの」
「また月曜日ね」
靴を掃き終えた可奈は一瞬振り返り、手を振る。
努めていつも通りにと振る舞った、精一杯の笑顔を燈馬に見せて。
静かに、ドアをパタンと閉めた。
*****************************
数日後。
お世話になりました、とただ一言だけ告げて。燈馬は日本を発っていった。
あんなに世話になっておきながら突然に、それだけしか言うことが無いのかよ、と内心で舌打ちすることはすれど、可奈は口に出すことはしなかった。
晴天の霹靂だった。
可奈が告白したその日も、そんな素振りなんて見せもせず。マンションにある物はおいおい片付けますが取り敢えず身一つでもと請われていたと、別れ際になって言われた。前々から、帰ることは決まっていたのだ。
卒業式まで半月なんだからそれまで待てばいいのに、と学校側にも言われたようだけれど、どうにもそういう訳にはいかないようだった。
本当に、本当に突然に。あっという間に。
燈馬は可奈の前から居なくなった。
合点がいった。
燈馬は現状維持がいいと言ったのだ。
きっと燈馬にとって、可奈の気持ちが重かったのだろう。今まで通りの、軽口を言い合うくらいの関係が丁度良かったのだ。近すぎない、友達同士の距離であれば後腐れなく別れられる。
また再会したとしても、気まずくなんかならず、元のように関係を結びなおせる。
これがもし、恋人同士になって離れ離れになるとしたらおかしな事になりかねない。会えないことによって生じる可奈自身の衝動やそういった諸々。理屈じゃないいろいろな感情を抱えて黙っていられるほど、可奈自身、自分が出来た人間じゃ無いのは理解をしている。それは、燈馬も同様だろう。
ともすれば。遠距離恋愛に業を煮やした可奈が一方的に無理難題を突きつけて、燈馬を傷つける。そして、傷つけてしまったことに自己嫌悪して自分も傷つく。そんな未来が容易に想像できる。
……なんだよ。自分を悪者にする形で振ったんじゃないか。
燈馬君が傷つけるんじゃない。
もし、そんな一歩進んだ仲になったら。きっと、私自身、私が許せなくなる日が来るからだ。
自分の中の欲求をぶつけて、ぶつけられて、それをお互いに享受出来るんなら幸せだ。
そんなのはお互い様なのだ。
だって、それだけ、相手を想ってるってことなんだから。
だけど、その後は?
一緒に居られれば幸せとか、それだけじゃ足りないから、私は気持ちに名前を付けたんじゃないか。
この先、その欲求がどんどんエスカレートするのは解りきっている。
手を繋ぎたい、抱きしめたい、キスをしたい。
こうしたい、ああしたいとどんどん欲張りになっていくだろう。
でもそのとき。
燈馬は隣には居ない。
燈馬が帰国してから卒業式まではあっという間だった。
周りが気を遣うのを大丈夫大丈夫! と、可奈はあっけらかんと笑いながら受け流す。
一年の頃から、燈馬と可奈はいつも一緒だった。付き合う付き合わないは別としても相棒同士であったのだ。
惚れた腫れたの仲ではなくとも、周りから見たら半身が居ない状態が危なっかしく見えたのだろう。
本当に大丈夫。燈馬君の家はもともとアメリカじゃん! 帰るの当たり前だし!!
そんなの、解ってたよ。
気を遣われる度に、同じ台詞を口にする。
不思議と可奈の気持ちは落ち着いていた。振られた時以来取り乱すこともなく。可奈も諦めた、というのがしっくりくるのかもしれない。思いを遂げるには、あまりにハードルが高すぎた。
燈馬には燈馬の生きる道があり、可奈にはそれを邪魔する権利は無い。
燈馬と近い位置にいるためには恋人同士になるのではなく、燈馬に誇れる自分である方がずっとずっと重要だ。きっと。
そう自分に言い聞かせて。
可奈は、気持ちを閉じた。
同じ制服の群れと歩く通学路。
騒がしい下駄箱。
肌寒い廊下。
人気の無い屋上。
もう使われることのない、教室の机。
式が始まる前に独り、確認するように巡っていく。
そのどこにも、当たり前だが燈馬は居ない。
並べられたパイプ椅子に行儀良く座り、高い天井を見つめる。
返事の無い名前が呼ばれるのを、目を細めて聞いている。
もう少ししたら、自分の名前も呼ばれるだろう。
そうしたら、もう。燈馬と自分を繋ぐ共通点が、無くなってしまう。
最後にもう一度、屋上に上って景色を見てみる。
細い梯子を登って、高い場所。
教室にいないときは、いつだってここに、燈馬は居た。
可奈が上ってくるのに気がつくと、嬉しそうに微笑んでどうしたんですか?と声をかける。
そんな日常が、ここにあった。
ただ、それだけで幸せだった。
欲張ったから、罰が当たったんだろうか。
燈馬が居れば、それだけでよかったのに。
手の中に収まる白い紙がほんのりと湿気ていくのを、掌だけが、感じていた。
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しかしホワイトデーな話かというとそうでもないなぁどちらかというとバレンタイン……orz
そんなわけでなんとか前半折り返しまでは出来ました……m(__)m
世間は所謂バレンタインというやつだった。
買い物しててもテレビを見てても、雑誌を読んでもチョコレートの話題ばかりで、学校内でも誰が誰に告白するかとかそういう噂話で満ちている。
「今年も可奈は燈馬君に告らないの?」と話を振られる度、当の本人は曖昧に笑って誤魔化していた。ムキになったりしない辺り肯定しているのと変わらないのだが、そこまで気が回っていない。
一昨年、昨年とチョコレートを渡しているものの、それは日頃世話になっているからのれっきとした義理チョコだった。
持て余していた気持ちの正体を薄々感づいてはいたものの、認めたくはなくて目を閉じる。認めなければ友達のまま面白おかしく一緒に過ごせる。そうやってもう三年近くやってきた。
さすがに、もうそろそろ潮時か、というのは可奈自身も解っている。
進路や諸々が各自決まりつつあり、あと数週間もすれば卒業だ。自分自身はお陰様でまだ学生の身分が続くのだけれど、燈馬は既に大学を出ているし、何せ元々はアメリカ暮らしなのだ。卒業後どうするかはまだ決めてませんなんて今は言ってはいても、どうなるんだか解らない。
気安く話も出来なくなる可能性もあるのなら、気まずくなって会わなくなるのと何ら変わりないじゃないか。
だったら言いたい事を言ってハッキリさせた方が気が楽だし、何よりもしも応えてもらえるなら、その言葉を免罪符にどんな事だって出来る気がする。
そう自分に言い聞かせ、勇気を振り絞り手の中を見る。
昨年までも確かに手作りだったけれど、今年は言い訳を叫びながら作ったものではなく、燈馬の食べる姿を思い浮かべながら心を込めて作った物だ。ラッピングも気合を入れて、大事に大事に包んできた。
これを渡しただけで伝わるなんて思ってはいない。要するにこれは告白するための自分に対する後押しだ。
「燈馬君」
意を決して、声をかける。
可奈の声に反応して、燈馬はずっと睨んでいたディスプレイから目を離した。
可奈の手には小さな包みが握られている。お菓子くらいの大きさか。
あぁそう言えば今日は14日、バレンタインデーだったか、と思い出す。
一昨年昨年と欠かさずに義理だからね !勘違いすんな!! と前置きをしながら顔を赤らめてお菓子をくれた姿を記憶の底から引っ張り出す。
今年も律儀に持ってきたのか。
「ありがとうございます」
嬉しそうに、ふわりと燈馬が微笑んだ。
「まだ何も言ってないだろ?」
「でも、それのことですよね?」
指差しされてかあっと可奈の頬が熱くなった。
おや、と燈馬は目を見開く。
いつもと少し、様子が違う。
受け取ろうと可奈の前まで歩み寄ると、非常に落ち着きの無い様子でわたわたと焦っている。
「毎年、ありがとうございます」
「……あ、あぁ、うん、毎年食べてくれてありがとう!」
自分でも何を言っているのやら解らない。
可奈はどう切り出していいものかと、包みを渡しながら思案する。
燈馬は不思議そうにこちらを見つつも、いつもと同じようにその場で包みを開けて中身を取り出した。
「美味しそうです」
いつもよりも、かなり力を入れて作ったガトーショコラだった。美味しくない訳がない。
いつもならじゃあお茶入れるからと手の中のものを皿に移して用意したりとするのだが、生憎、今回だけは違う。
その前に、言わなきゃいけない事があるのだ。
「あのさ」
緊張で狭まった喉から、半音高い声が出る。
自分の鼓動が煩いくらいに耳元で鳴っている。手先も脚も強張って、地に足が着いている気がしない。可奈から発する緊張感が、辺りの空気を張り詰めていく。
普段燈馬と話すのに、こんなに緊張したのなんて覚えがない。気持ちに気づいた後も、意識してドキドキしたりはしたものの、歩くのさえやっとなくらいになりはしなかった。
一方の燈馬も、ただならぬ可奈の様子に手元に落とした視線を可奈の方に戻す。
何を言うのかは大体は想像がついた。今日の日付。渡された物。今現在の可奈の様子。そのどれもが、想定されるものに直結していた。
「私、……燈馬君の事、……好きだよ」
まっすぐに燈馬を見据えて、可奈ははっきりとした声で、そう言う。
あり得ないと思っていた、というのは嘘だ。実際はそうなる可能性はいくらか考えてはいた。しかし、燈馬はその可能性に目を瞑っていた。自分自身の気持ちと可奈の気持ちは、等しい筈がないと。
気持ちを吐露した可奈の視線は、燈馬の気持ちの所在を尋ねている。
投げられた問題。
解は出されなければいけない。
自然と答えは、口をついて出てくる。
「僕も、水原さんの事が好きです」
それは真実。
それは解答。
燈馬の気持ちは可奈にあり、他に行き場なんてありはしない。向けられる好意はあたたかで嬉しくてかけがえがない。享受するのが勿体無いくらいに。側に存在するだけで狂おしい程の愛情が湧き上がってくるのに、その上気持ちまで傾けてくれるなんて。
燈馬の解答に、可奈は息を飲み、目を見開いた。
自分の気持ちを受け入れてくれた。
両思いだったと打ち明けてくれた。
思わず抱き締めたい衝動に駆られて足を踏み出した瞬間、身体は手一つで遮られた。
「……だから、このまま、友達のままでいましょう」
明らかな、拒絶。
押さえられた肩が熱い。
言葉が頭で反響する。友達のまま。友達のまま。なんで。だって今、好きって言ってくれたのに。このまま。今のまま。友達同士で。
「……え?」
辛うじて、訊ねるための音が出る。
「水原さんの言う“好き”と、僕の“好き”は多分違うものですから」
“好き”が違う。どういう事か。訳が解らない。お互いに好きだと思っているなら問題なんてあるはずがない。
燈馬はずっと笑顔のままだ。いつもの優しげな笑顔。いや、こんな話をしているのにどうして笑っていられるのだろう。何を考えているのか全然解らない。自分はもう、どんな顔をしているのか、自覚すら出来ないのに。
「……燈馬君は、私を、」
声を出して胸に詰まる。
息を吐くようにして発声しているのに、声と一緒に出てくるのは涙だ。泣くもんか、と寸でのところで堪え、息を整える。
「……そういう風に、女の子として、私の事を、“好き”だと思ってないって事?」
ようやく続きを紡いだ所で、そっとまた、燈馬を見据える。
笑顔のまま首を振る姿を見ながら、堪えたはずの涙がつ、と頬を伝う。拭っても拭っても勝手に溢れ落ちていく。止めようがない。
「違います、僕は水原さんの事、好きなんです……愛してます」
「だったら」
「だから……今のままの距離感が一番いいんです、お互いのために」
解らない。燈馬の意図が解らない。
お互いのためというのなら、どうして、今のままがいいんだろう。
「私は、自分の気持ちに名前をつけた。自分を誤魔化しきれなくなったんだよ、燈馬君……」
燈馬に触れたい。もっと燈馬の近くに居たい。このままいずれ離れてしまうなんて嫌だ。誰にも燈馬の隣を渡したくない。
「何で友達のままがいいの? 私はやだよ、気がついちゃったんだもん、きちんと形にしたい……」
涙で震える声をそのままに。でも、もう燈馬の顔を見つめるのは怖くて。だんだん小さくなる声が、視線と共に足元に落ちていく。
「……形にしたら、水原さんを傷つけてしまいそうなんです」
ぽつり、と燈馬が零し始めた。
「抑えきれないんです、自分の中にある衝動を」
噛みしめるように言う声を、可奈は爪先を睨みながら聞いている。
もう燈馬の表情には、笑みなんて残っていなかった。自分自身の言葉で可奈が傷ついている様をずっと目の当たりにしている。傷つけたくないなんて言いながら、今もなお、傷を広げている。作り笑いだろうがなんだろうが、そんなもの。浮かべる余裕なんてありはしない。
肩に手を置き、顔を覗き込む。泣き濡れた顔が痛々しい。
愛しい、という感情は暴力的なのだ。全てを手に入れなければ気が済まない。いや。手に入れても更にさらにと貪欲に求め続けるだろう。そんな一方的な蹂躙を、可奈に強いる訳にはいかない。
まだ、今なら間に合う。心の傷も浅くて済む。深みに嵌ってからでは遅い。心も身体も傷つけるくらいならいっそ。
「……お願いですから……水原さんの好きな“燈馬君”のままでいさせてください……」
「私の好きな“燈馬君”って、何だよ……燈馬君に解るの?」
しゃくり上げる中に、ぼそりと不満げな声が混じる。
解りますよ、と燈馬が前置きをすると、何が? と問う涙でぐしゃぐしゃになった視線が絡まってくる。その刺すような視線に、燈馬の胸はつきん、と痛みを覚えた。
「……あなたに際限なく優しいんです。甘いんです。あなたが大事だから、離れて行って欲しくないから。精一杯大事に扱うんです。自分の欲求を隠して、押し殺して」
それが、あなたの燈馬君です、と結ぶ。
可奈は何か言いたげに二度三度、喘ぐように口を開いた。
何が違うというのだろう。燈馬は燈馬だ。たかだか三年の付き合いだけれど、その間にひととなりは見てきているのだ。
際限なく優しい? 甘い? 確かにその甘さに付け込んでいた所はあると自覚している。でも、可奈に見せる顔だけで燈馬を好きになったわけではない。
「……見くびるなよ! そんなもんで今更見る目が変わるワケないだろ?! ……私の気持ちがそんな軽いもんだと思ってんの?」
感情のままに、襟首を引っ張り、目前に顔を寄せた。腹立たしさから力任せに引かれた燈馬の身体は、されるがまま傾く。それすら、もう。可奈と話をすることを放棄しているようで焦燥感を煽られた。
燈馬には関係をどうこうする気がない。だからもう、可奈の言い分にはもう意味はないのだ。解ってて、それでもなんとか縋り付こうと足掻いている。感情に折り合いがつかない。どうしようもない。
「軽くないからこそ、変わられるのが怖いんです」
感情の起伏が、あまり感じられない声。
見つめられた顔に、見覚えがある。
これは「諦めた」時の表情だ。
その表情を見るのが苦しくて嫌で、何度燈馬の尻を叩いたか知れない。
自分の感情より論理を優先するから、自分をいつも後回しにしてしまうから、だからこそ、可奈は自分の前でだけはそういう顔をさせたくないと無理矢理にでも背中を押してきた。
その顔を、今は自分がさせている。
燈馬は、「諦めた」のだ。
可奈を。
可奈の変化する気持ちを受け止めるのを。
自分自身の本性を知られたら離れて行くと信じて疑わず。
「……勝手な言い分だね……」
好意の質が違えば、きっと燈馬に対する接し方も変わるだろう。それは確かに受けてみなければ解らない。でもそんなの、人間誰しも同じだと思うし、特別な事ではい。
怖いのはお互い様だ。自分だって、変わってしまうのが怖かった。
けれど、どうしても、燈馬の側に居たかった。
今以上に、近い位置に存在したいと思った。
でも。
燈馬は、今の距離感の方がいいと望んだ。
それは多分、彼の中では可奈を守っている気持ちなんだろう。
誰からも、自分からも傷つけないように。
大事に大事に、ガラスケースに入れて抱きかかえてる。そんな感じ。
いつまで経っても、ガラスの向こうとこちらは、交わらないままで。
表情も声も聞こえるのに、ただ、ガラス越しでしか触れあえない。
「解った。……燈馬君は、現状維持がいいんだね」
顔をすくい上げられていた手を払う。
燈馬が諦めたものを、今までは可奈が無理矢理にでも拾いに行かせた。
けれど今は、その役目を果たせるものなんて居やしない。
「いいよそれで。……ずっと、友達でいよう」
もう、抱きしめられない。
触れられない。
こういう所は燈馬は頑固だ。
きっと、結論づけたからにはずっと節度を持って接してくるだろう。
「別に態度変えたりはしない。今まで通りに接するよ。……実際、何にも変わらないし」
そう、何も変わらない。昨日までと同じ。
ただ、自分が失恋しただけだ。
どんなに想ったって、相手は応えてはくれないだろう。そんな日なんか絶対来ない。けれど、どうしたって期待してしまう。普段通りに、お互いに接するなら。まして相手も、自分に好意を持っていると理解しているのなら。そうして期待して期待して、応えてくれないのにずっとずっと想い続ける。
……友達のままというのは、なんて残酷なんだろう。
泣きすぎてぼんやりする顔を、腕で拭う。
呼吸は大分収まっていたので、再度深呼吸をして、服を正す。
みっともなく取り乱すほど燈馬が好きだったんだな、と今更ながらに自覚する。
大丈夫。
大丈夫。
もう、気持ちを捨てる。
ちゃんといつも通りに接するくらい出来る。
可奈が落ち着こうとしている様を、燈馬は間近でぼんやり見つめていた。
この選択が合っているかどうか何度も何度も考える。
自分の主観は捨てて考える。主観が入ると正しい答えは導き出せない。人の感情は理屈では無いから、外的要因から考えた方が確実だ。
自分は確実に可奈を傷つける。肉体的にも、ともすれば精神的にも。そんなのは解りきっている。
だから、この選択はどこからどう見たって正しい。
たとえ、可奈の辛そうな表情を見て胸が痛んでも。立ち去ろうとする背中を見て、身が切られるように痛くても。
「帰る」
身支度を済ませ、背を向けたまま。可奈は呟いた。
燈馬は、縫い止められたように一歩もその場を動けない。
可奈ももう、燈馬の顔を真っ直ぐに見つめられる気分では無かった。
そのまま、玄関に向けて足を進める。
「水原さん」
乾ききった喉からやっとの事で、声が出る。
後ろ姿が遠ざかっていくのを、なんとか引き留めたくて。
「あの」
「また月曜日ね」
靴を掃き終えた可奈は一瞬振り返り、手を振る。
努めていつも通りにと振る舞った、精一杯の笑顔を燈馬に見せて。
静かに、ドアをパタンと閉めた。
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数日後。
お世話になりました、とただ一言だけ告げて。燈馬は日本を発っていった。
あんなに世話になっておきながら突然に、それだけしか言うことが無いのかよ、と内心で舌打ちすることはすれど、可奈は口に出すことはしなかった。
晴天の霹靂だった。
可奈が告白したその日も、そんな素振りなんて見せもせず。マンションにある物はおいおい片付けますが取り敢えず身一つでもと請われていたと、別れ際になって言われた。前々から、帰ることは決まっていたのだ。
卒業式まで半月なんだからそれまで待てばいいのに、と学校側にも言われたようだけれど、どうにもそういう訳にはいかないようだった。
本当に、本当に突然に。あっという間に。
燈馬は可奈の前から居なくなった。
合点がいった。
燈馬は現状維持がいいと言ったのだ。
きっと燈馬にとって、可奈の気持ちが重かったのだろう。今まで通りの、軽口を言い合うくらいの関係が丁度良かったのだ。近すぎない、友達同士の距離であれば後腐れなく別れられる。
また再会したとしても、気まずくなんかならず、元のように関係を結びなおせる。
これがもし、恋人同士になって離れ離れになるとしたらおかしな事になりかねない。会えないことによって生じる可奈自身の衝動やそういった諸々。理屈じゃないいろいろな感情を抱えて黙っていられるほど、可奈自身、自分が出来た人間じゃ無いのは理解をしている。それは、燈馬も同様だろう。
ともすれば。遠距離恋愛に業を煮やした可奈が一方的に無理難題を突きつけて、燈馬を傷つける。そして、傷つけてしまったことに自己嫌悪して自分も傷つく。そんな未来が容易に想像できる。
……なんだよ。自分を悪者にする形で振ったんじゃないか。
燈馬君が傷つけるんじゃない。
もし、そんな一歩進んだ仲になったら。きっと、私自身、私が許せなくなる日が来るからだ。
自分の中の欲求をぶつけて、ぶつけられて、それをお互いに享受出来るんなら幸せだ。
そんなのはお互い様なのだ。
だって、それだけ、相手を想ってるってことなんだから。
だけど、その後は?
一緒に居られれば幸せとか、それだけじゃ足りないから、私は気持ちに名前を付けたんじゃないか。
この先、その欲求がどんどんエスカレートするのは解りきっている。
手を繋ぎたい、抱きしめたい、キスをしたい。
こうしたい、ああしたいとどんどん欲張りになっていくだろう。
でもそのとき。
燈馬は隣には居ない。
燈馬が帰国してから卒業式まではあっという間だった。
周りが気を遣うのを大丈夫大丈夫! と、可奈はあっけらかんと笑いながら受け流す。
一年の頃から、燈馬と可奈はいつも一緒だった。付き合う付き合わないは別としても相棒同士であったのだ。
惚れた腫れたの仲ではなくとも、周りから見たら半身が居ない状態が危なっかしく見えたのだろう。
本当に大丈夫。燈馬君の家はもともとアメリカじゃん! 帰るの当たり前だし!!
そんなの、解ってたよ。
気を遣われる度に、同じ台詞を口にする。
不思議と可奈の気持ちは落ち着いていた。振られた時以来取り乱すこともなく。可奈も諦めた、というのがしっくりくるのかもしれない。思いを遂げるには、あまりにハードルが高すぎた。
燈馬には燈馬の生きる道があり、可奈にはそれを邪魔する権利は無い。
燈馬と近い位置にいるためには恋人同士になるのではなく、燈馬に誇れる自分である方がずっとずっと重要だ。きっと。
そう自分に言い聞かせて。
可奈は、気持ちを閉じた。
同じ制服の群れと歩く通学路。
騒がしい下駄箱。
肌寒い廊下。
人気の無い屋上。
もう使われることのない、教室の机。
式が始まる前に独り、確認するように巡っていく。
そのどこにも、当たり前だが燈馬は居ない。
並べられたパイプ椅子に行儀良く座り、高い天井を見つめる。
返事の無い名前が呼ばれるのを、目を細めて聞いている。
もう少ししたら、自分の名前も呼ばれるだろう。
そうしたら、もう。燈馬と自分を繋ぐ共通点が、無くなってしまう。
最後にもう一度、屋上に上って景色を見てみる。
細い梯子を登って、高い場所。
教室にいないときは、いつだってここに、燈馬は居た。
可奈が上ってくるのに気がつくと、嬉しそうに微笑んでどうしたんですか?と声をかける。
そんな日常が、ここにあった。
ただ、それだけで幸せだった。
欲張ったから、罰が当たったんだろうか。
燈馬が居れば、それだけでよかったのに。
手の中に収まる白い紙がほんのりと湿気ていくのを、掌だけが、感じていた。
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