あかねいろ。

　連日曇りやら雨やら続いていて、久しぶりの晴天だった。
　想は思わず空を仰ぎ見る。
　朝方の空気はまだ排気やチリをあまり纏わず澄んでいる。澄んでいるからこそ、余計に、青さが際立って見えた。
　湧き上がる気持ちに覚えがある。何だろうな、と思い返してもそれが何やら像を結ばない。自然と思考が沈んで行き、無意識に身体は学校へと向かう。

「燈馬君、おはよ」
　突然に、眼前を遮る顔。
　ぱちくりと、瞬きを思わず一回。
「ああ、水原さん。おはようございます」
　気分良さげに微笑みながら、顔を覗き込む可奈を目視する。
　想が返した挨拶に気を良くしたのか、後ろに結わいた髪が楽しそうに跳ねる。
「久しぶりに晴れたねぇ！」
「そうですね」
「空気が美味しいね」
「それは……うーん……場所によりけりなんで同意しかねますけど」
「わかってないなぁ、気分だよ気分」
　差し障りのない、ただの世間話。考えていた事柄が、少しの間だけ停止する。
　久々の朝の強い日差しに目を細めると、可奈はえへへ、と笑い出した。
「ずっと天気悪かったとこからこう、一気に晴れた空を見ると気持ちいいね！　明るい気持ちになるっていうかさ」
　光を遮るように目の上に手をかざす可奈の横顔に見惚れながら、ああ成る程、と想の腑に落ちた。

　空を見て感じたあの感情は、思考に耽る自分を現実に引き戻した先程の可奈を見たときのそれと同じだ。
　曇天が続いた後の晴天は一際輝いて見える。吸い込まれそうな青色に、切ないような嬉しいような、舌筆し難い感情が湧いてくる。
　可奈の顔を見た瞬間にも感じるのだ。その、胸が苦しいような暖かいような、不思議な気持ちを。
　きっと、これは。同じ名前の感情なのだろう。
　可奈曰く、「気持ちがいい」「明るい気持ち」というやつだ。
　もちろんそんな単純な感情ではなくて、もっと色々なものが渦巻いている。それをどう表現したらいいのか解らないので、このまま、可奈の言葉を借りることにする。


「水原さんと空は似てますね」
　ぽつりと思わず呟いた一言に、可奈は不思議そうに首を傾げた。
「見上げると幸せな気分になります」
　言葉通りの笑みを浮かべる想を見ながらなぜか熱くなる頬を持てあましつつ、可奈は想の隣について、歩幅を合わせた。