あかねいろ。

　薄暗い部屋の中に、ゆらゆらと白い背中が見える。
　髪を掻き上げる指も血色がなく。
　元々線は細い方だけれどこんなに華奢なヤツだったっけ？　と可奈は後ろ姿に言葉を失った。
　ずっと様子を伺っていたエバがロキと目配せして首を振る。また、こちらの言うことに耳を貸さなかったようだ。もう何度も、この繰り返しらしい。
　入れ替わるようにして、可奈も部屋に入ってみる。けれど部外者に気がつかないまま、燈馬はパソコンをずっと睨み付けて視線を動かそうともしなかった。

　音がしようとも、風が吹こうとも、燈馬には関係ないのだろう。目の前のことだけが、今の燈馬の全てだから。


「なんか、荒んでるね」
　かちゃかちゃとキーボードを鳴らす手がぴたり、と止まる。振り返るでもなく。狼狽えるでもなく。ただ、手を止めたままで。
「何しに来たんですか？」と、ただ一言、燈馬は呟いた。

「酷いんじゃない？　せっかく『友達』が遊びに来てやったのに」
　あくまで『友達』を強調しつつ、可奈はすたすたと燈馬の背後まで近寄る。顔を見たらまだ整理のついていない頭が余計に絡まってしまいそうだ。
　それでもこちらを見ることなく、燈馬は気にしていない素振りで肩を竦めた。
「来る前にきちんと連絡を貰えれば迎えに行ったのに」
「そのボロボロな状態で？」
「流石に迎えに行くときは身なりくらいは気にしますよ」
「でもさ、燈馬君だって知ってるでしょ？　私がアポを取るタイプじゃないって」
「……本当に、水原さんはいつも突拍子もないですね」

　重そうな燈馬の溜め息を聞いて、可奈はくるりと背を向け椅子に寄りかかる。
　二人の間にまるで何事もなかったかのような会話。
　今までなら造作もないことだったのに、可奈も燈馬も意識して『普段通り』を装っている。相手の様子を伺いながら、言葉を選んで発している。
　穏やかに見えるのに、二人の間には緊張感が漂っている。

「優ちゃんに呼ばれたの。燈馬君がこっちに帰ってきたと思ったら休む間もなく寝食忘れて研究漬けになってる！　死んじゃったらどうしよう！　って」
「死ぬわけないじゃないですか」
「どうかな。こんな生活続けてたらいつかはだめになるんじゃない？」

　可奈はよく、「心配かけんな」と燈馬を叱っていた。きっとここでの在り方も周りに心配されるものだったのだろう。そこまで気を回していなかったし回すつもりも毛頭なかった。
　自分は元々独りで瞑想に耽るのを好むしそれは周りの人間も理解している。だからそんな煩わしい物を一切受け入れずに、ここでは生活をしていた。周りのことを見ようとせず、自分自身にすら目を瞑って。いつものことなのだからなんら問題はないと。

「水原さんには関係ないですよね」

　僅かに、棘のある声が出る。
　言ってぎりりと歯噛みする。そんな言い方をするつもりなんてなかったのに。
　苛立ちをぶつける相手が違っている。
　可奈に当たるのは筋違いだ。
　なのに、もう、装うことが上手く出来ない。

「関係あるわよ」
　
　キシ、と椅子の背もたれが鳴る。
　反射的に振り返りそうになるのを何とか堪え、画面を睨み付けて息を止める。
　膝に置いた手が汗ばんでいる。立てた爪の痛みに意識を集中し、わき上がる感情を抑えつけた。
　可奈は背もたれから手を離し振り返り、燈馬の肩にそっと手を置いてみる。びくりと肩が震えたが、払われないことに安堵し、一息つく。至近距離で久しぶりに見る燈馬の背中は、思った以上に細く感じた。

「私たち、『友達』なんだろ？」

　身体が強ばるのを肩越しに手で感じるが、燈馬はその言葉には応えない。
　『友達』の定義ってなんだろう。燈馬の言う『このまま』の状態って何だったんだろう。彼の考える可奈との付き合い方、距離感はどういった物なのだろう。燈馬の言った言葉は、どこまでが本当でどこからが建前だったのだろう。
　理解できるのであればしたかったし、訊けるのであればすぐにでも問いたい。
　けれど多分、燈馬は何も言わない。
　線を引いたのは燈馬だ。燈馬自身を守るために。可奈を守るために。
　それを彼は、自分から破ることはしないだろう。

　燈馬は勘違いをしている。
　可奈は確かに、拒絶をされて一歩引いた。けれど、それは一過性のものだ。納得が出来なければ何度だって詰め寄り、諦めることなんてない。

「……放っておいてください」

　返す言葉が思いつかず首を振る。何を言えばいいのかすら、思いつかない。
　自分で望んだ事であり、その選択に後悔なんてない。節度ある付き合いであれば、自分自身勘違いをしないし、可奈を傷つけたりもしない。
　物理的に離れられるのは丁度よかった。距離が、時間が、自分の頭を冷やしてくれる。だから、ギリギリまで迷っていた渡米の誘いに頷いた。
　手を伸ばせば可奈の全てを手に入れられる。その現実に、理性を保っていられる自信がなかった。

　しかし現実は違っていた。離れてからというもの、可奈の事を考えない日はなかった。
　毎日可奈の声を思い出す、可奈の姿を探してしまう。目の前に居ないからこそ、自分が愛しいと感じた瞬間の可奈ばかりが脳裏に浮かぶ。
　こんなにも精神的に依存していたのかと、むざむざと思い知らされる。
　なにかに没頭している限りは思い出さなくて済む。そう思いずっと仕事に集中して来た。
　結果それで自分がどうなろうとも、それは自業自得なのだと、そういう覚悟でいた。



「あんたさ……どうしてそうなっちゃったの？」
　頭越しに見る両手は土気色で筋張って見えた。
　可奈には苦手な色々なことを、器用にこなしていた、見慣れた手。意外と大きいんだな、と手を取ったときに感じた筈なのに、今は細く、小さく見える。
　たった数週間会わなかっただけなのに、こんなにも豹変してしまうものなのだろうか。
　ロキは、心当たりがないと言っていた。
　ならば、原因はやはり自分だろうと可奈は思う。
　自分が燈馬に告白なんてしたから、そう確信をした。

「……私の事、気にしてんだろ？」
「…………」

　燈馬は、答えない。
「そりゃさ、振られた時はショックだったけどさ……仕方ないじゃん、こういうのってお互いの気持ちの問題なんだから。燈馬君が私の気持ちを重いって思うのも無理ないと思うし、気に病む必要ないと思う」
　好きのベクトルが違うのも、それによる欲求も違ってくるのも仕方がないことだ。友人関係のまま、名前がついていない関係のままで満足していた燈馬にそれ以上を求めるのは酷だ。関係が変わりその先を想像し悲観してしまうのだって、可奈には口出しする権利はない。価値観の違いというやつだ。それはもう、どうしようも出来ない。
「燈馬君を苦しめようと思ってた訳じゃないけど、別れ際とかもし棘のある言い方しててそれずっと気にしてんならゴメン。あの時は余裕がなくてさ」
「違います」
　微動もせずに、燈馬は可奈の言葉を遮った。
「重いのは……僕の方なんです」
　血色が無くなるほど力の込められた指先が、さらにぎり、と音を立てて膝に食い込む。震える肩をどうしたらいいのか解らずに、可奈はそっと両手で抱いてみた。
　こつんと頭を寄せてみると、頬にぱさついた髪の感触を感じる。手入れのされてないざらざらの肌。腕に収まったままの身体を確認するように力を込める。しっかりとした手応えがあり、ちゃんと燈馬が存在してるんだと、今更ながらに感動した。
　燈馬はどう言おうか戸惑いながら、言葉を探した。可奈は自分のせいだと思っている。その誤解は解かないといけない。
「水原さんのせいじゃないんです。僕が……僕が気持ちを捨てきれないから悪いんです」
　うまく伝えられている気がしない。どう伝えようとも悪い結果ばかりを思い描いてしまう。
　されるがまま可奈に抱かれてはいるけれど、緊張したまま身体は強ばっている。
　怪我をしてしまうくらいに力んでいる燈馬の手が側から見ていて壊れてしまわないか心配で、可奈は自分の手を置いてみる。しかし触れられても、そのままの状態でびくりとも動かない。
　上から指をそっと絡めてみると、流石に若干緩んだものの、まだ力は抜けなかった。
　自分に対して怯えているのか怖がっているのか。それくらいは、可奈でも解っていた。


「あのさ……燈馬君は、私の事、どう思ってんの？」
　意を決して、もう一度問うてみる。

　告白した日から、何度も何度も考えていた。燈馬の言葉の意味を。燈馬の気持ちを。
　可奈の事を好きだと言った。愛していると言った。
　可奈の好きな燈馬でいさせて欲しい、と言った。
　自分の中にある衝動を抑えきれない、と言った。
　自分の感情を押し殺している、と言った。
　可奈に変わられるのが怖い、と言った。

　最初は、両想いなのにどうして？と思った。直後、燈馬に信用して貰えなかったと悔しくなった。別れてからしばらくは憤っていたけれど、日を跨ぐと悲しくなってきた。その後、帰国する旨を聞いたとき、解らなくなった。燈馬の言葉の真意は別にあるんじゃないかと思った。ああかもしれない、こうかもしれない、色々考えてはみたものの、答えは出ず。可奈の頭ではもう、収集がつかなくなっていった。

　本当の所はどうだったのだろうか。
　置かれている状況やそういったものをすべて抜いて、打算も無しに考えるのであれば、燈馬は自分に対してどんな感情を持っているんだろうか。シンプルに、異性として好きなのか嫌いなのか、それだけを考えるのであれば。
　

「その話は、前に終わりましたよね」
「私の好きな燈馬君は本当の燈馬君じゃないってやつだろ」
「そうです」
　煩わしそうに、燈馬は答えた。
　燈馬を好きだと可奈が言い、燈馬も可奈が好きだと言った。
　その後に色々理論づけられ友達のままでいましょうと言われ、可奈もそれをのんで今に至る。


　燈馬は問われたら真実しか語らない。
　そのことに気付いて可奈はハッとした。

　それならば、あの日に言っていた言葉は建前でも何でもない、本心なんだろう。
　離れるから気を回してとかそういった小細工を、燈馬が出来るという気もしない。
　　
　可奈の事を好きで、自分の衝動を抑えきれなくて、そういう自分を見せて可奈の自分に対する気持ちが変わるのが怖い。だから、このまま、今のままの距離がいいと。
　最初から、燈馬は何も難しいことなんて言ってなくて。全てが真実で。
　小難しく考えて勝手に拗ねて、燈馬に問いたださなかったのは、自分だった。
　その場でちゃんと向かい合って話せばよかった。
　悔しくて悲しくて、その場から逃げてしまわなければ良かった。
　ただそれだけで、きっと、こんな事にはならなかったんだと、気がついた。


「……燈馬君は、勘違いしてるよ」
　絡めた指に力を込める。
　少しでも気持ちが伝わればと、そう願いながら。
「燈馬君の抱えてる衝動とか感情とかそういうのも、私は全部欲しいんだよ」
　同じ方向を向いているから、表情は解らない。
　息が頬を抜けていく。
　生きてる。
　存在する。
　すぐ隣に燈馬がいる。
　それだけで一人勝手に幸せになってる自分がおかしくて仕方がない。
「欲張りなんだよ、私」
　知らず呟かれた言葉に、燈馬の肩の力がゆるゆると抜けていく。

　
　可奈は、燈馬の抱える気持ちも全て欲しいと言った。
　可奈から向けられるキラキラとした好意を受け取っておいて、自分からはどす黒い欲望しか返せない。
　それが許せなくて自分を制していたのに。
　だから可奈を傷つけてでも距離を取って汚さないようにしたのに。

　それでも、可奈は心配して来てくれたし、まだ好意を持ってくれている。
　その上、そういう汚い感情すらも、受けても構わないと言っている。

　どうして？と問う前に、可奈が訊いてくる。
「私がさ、燈馬君を誰にも渡したくないって他の人に嫉妬したり、燈馬君と一緒に居たいとか、そういう風に思って行動すんの……燈馬君から見て、嫌だなって思う？」
　そんなこと、と首を振ると、可奈はようやく顔を覗き込んで、笑う。
「同じだよ」
　燈馬の血色の無い頬が、苦しげに揺れる双眸が痛々しくて自分の熱を少しでも移そうとするかのようにすり寄せてみる。こんなになるまで思い悩んでいたのかと、胸が痛む。
　ずっと、自分自身を責めていたんだろうか。ぶつけどころの無い感情を抱えながら。
　それだけ想ってもらえてたんなら、こんなに嬉しいことはない。

「好きで好きで、どうしようもなくて。何も手につかなくなっちゃって。自分の欲求ばっかり大きくなっちゃって、そういうのぶつけたら相手に嫌われるんじゃないかって不安になったりして。……でもね、これって普通なんだよ」
　きっと、燈馬は普通が解らない。
　だから可奈よりも、相手の気持ちの変化に臆病になってしまったんだろう。男女間の機微は、いままでの信頼の積み重ねでどうこうできる物でもない。
「ぶつけてみて、向き合って、そうして理解しあっていくんだよ」
　燈馬は、人の気持ちを読み取ることに関して不器用だ。どこまでが許されてどこまでがダメなのか、その境界が解らずに臆病になっていたのだろう。ならば、そのサインが相手から示さなければ、永遠に交わることはない。
　自分も意地っ張りで相当面倒臭いと思うけれど、燈馬も輪をかけて面倒臭い。
　面倒臭い者同士、ちょうどいいのかもしれない。


　
「水原さんに、」
　かすれる声を出して、こほんと咳を零してみる。
　今まで空気がうまく喉を通っていなかったらしく、再度呼吸を意識してみる。
　頑なに拒絶していた身体が、可奈の熱で解けていくのを感じた。可奈に嫌われるのが怖くて萎縮していた全てが、徐々に徐々に戻っていく。寄せられる好意は何があっても変わらないと、添えられた手から伝わって来るようで、自然と、震えは止まっていった。
　怖くて怖くて堪らなかった筈なのに。いとも容易く。
　全く。可奈の力には、敵わない。


「触れたら……歯止めがかからなくなりそうで。水原さんを壊してしまいそうで。だから……」
「そんなんでいちいち壊れてたら、今頃世界は滅びてるっての」
「嫌な思いをさせるかもしれません」
「私を好きだって思ってする事だったら、全部肯定するよ」
「……キスしたり、触りたくなって手を出したりするかもしれません」
「してよ。私は、……燈馬君となら、したいよ」　


　張り詰めていた空気が、会話によって柔らかくなっていく。
　ぎこちなかった“いつもらしさ”が本物の“いつもらしさ”に戻っていく。
　今まで意地を張りあっていたのが馬鹿らしくなるくらい、あっけなく。いつも通りの二人に戻る。

　名前が付いたからと言っても、関係ががらりと変わるわけではない。
　ただ、二人で進んでいくだけなのだ。
　いつも通りの、その先へ。

　ここにきてやっと、二人はその結論を見出せた。
　思った事を言い合い、笑えば、きっとそれで大丈夫だと、確信する。



「私、……燈馬君の事、……好きだよ」
「僕も、水原さんの事が好きです」

　それは真実。
　それは解答。
　建前でも駆け引きでもない、ただ純粋な気持ち。
　証明はお互いの中にある。
　それが全てで、それで充分。


「もう、友達のままでいましょう、なんて言って逃げないよね？」
　と、可奈が笑いながら訊ねると、まさか、と笑う。
「……ずっと、僕の側にいて下さい」
　添えられた手を握り返しながら、燈馬は愛おしそうに可奈を見上げた。




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「ところでさ、今日何日か解る？」
　可奈はちらりと時計を見た。
　現地時間はそろそろ昼刻。日本では深夜で日を跨いでしまったけれど。
　日付を気にしない生活をしていた燈馬は、ちらりとパソコンの端の表示を見る。
　３月１４日。
　可奈からチョコレートを受け取ってから、ちょうど一ヶ月。
「すみません。もう、日にちなんて気にしてませんでしたから……」
　毎年それなりにお返しをしているはずなのに、今年は考えている余裕が無かった。
　まぁ、そうだよね。と可奈は頷くが、なんだか見ていて申し訳ない気持ちで一杯になる。
「今から、一緒に買いに……」
　急いで立ち上がろうとし、ふらつく身体を大急ぎで支える。
　そんな状態じゃないのは、可奈も、本人も解っているだろう。
「いいよ、物じゃなくて」　
　物じゃなければ何ですか？　そう問う瞳ににこりと笑い、
「燈馬君をちょうだい」
　そう言って、唇を燈馬に差し出した。
　
　燈馬は支えてくれる腕を取り、肩を抱きよせた。可奈は急に気恥ずかしくなったのか、頬に朱に染まっていく。
　徐々に赤くなっていく様子が綺麗で。手を頬に添えると、可奈の熱が伝わってきた。
「……いいんですか？」
「もう一回告白からやり直さなきゃダメなの？」
　そろそろ顔の筋肉が限界なんだけど、と可奈が頬をぷるぷるさせながら催促をすると、燈馬は苦笑する。
「いえ……」
　限界なのは、僕の方です。
　そう言って、燈馬は静かに、唇を落とした。




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「まずはきちんとロキやエバや優ちゃん、他の人に謝ること」
「はい」
「ご飯を食べること。いきなり沢山じゃなくて、量は徐々に増やすんだよ」
「はい」
「あと、ちゃんと寝る時はベッドに行くこと」
「はい」

　支えられながら、部屋の外へと向かう。
　自分では気付かなかったけれどどうやら身体はとうの昔に限界だったらしい。
　歩くのも難しくて、可奈の肩を借りてやっとの状態だった。
　受け答える返事だけは、現金なもので、楽しげに弾んでいる。
　可奈に言われる小言が、とても嬉しい。

「水原さん」
「何？」
　ひょこり、と首を傾げるのが解る。
「寝てる間に、居なくなったりしませんよね？」
「まさか」
　声を上げて、可奈は笑う。
「元気になるまで付き合うよ」
　ひょこりひょこりと動く頭に軽く頭突きをしながら、添えた手をぎゅっと握る。
　燈馬が側に居ないのはもう沢山だ。許されるならずっと側に居たい。
　何を見るのも、何を考えるのも、何を感じるのも。
　全部一緒でいたいと思う。
「元気になった後は？」
　おずおずと、燈馬が訊いてくる。
　二人を取り巻く環境や、その他、色々な要素があるだろう。　
　それでも、二人で居たいというのなら、きっといっぱい話し合って、見つけていかなきゃいけない。
　だから、そこから先は。
「二人で決めよう」
　きっとお互いに一人でもやもや考えるより、もっといい考えが浮かぶはずだから。　
　燈馬は、そうですね、と呟いて、吐息を一つ零した。
　何をするにも二人一緒なら、もう何も怖くないと、そう思いながら。




　真っ白なリノリウムの床に寄り添う影が二つ。
　こつん、こつんと等間隔に音を立てながら、光の方向へと歩いていく。
　やがて戸の開く音と共に、長い尾を引きながら一つに重なり、やがて伸びて、消えていった。