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Re:(中)

現在エピローグ的なおまけをちょろちょろ書いてたり……あとちょっとで終わるかなぁというところです(>_<)

修羅場しかないお話ですが、あともう一回、お付き合い下さいっ






 カラオケに誘われたり、遊園地に誘われたり、買い物に誘われたり。卒業式での別れ際、もう一緒に遊ぶのもあんまり出来なくなるね寂しいねぇとに泣いたのにもう忘れたのか? というくらいひっきりなしに、可奈の携帯には友達からの連絡が毎日のように入ってくる。
 何もしていないよりはした方が気が紛れるだろうと誘いに乗って出かけ、盛り上がっているうちはいいけれど、どうしても、みんなと別れて一人になるとぼーっと考えてしまう。周りに気を遣わせてしまって申し訳ない気持ちと、行き場のない感情が混じり合い、あてもない出口を求めている。

 整理もついて理解しているのだ。
 燈馬が居なくなったのは可奈のせいではない。前々から決まっていたことだから仕方がない。関係は変わらないのだから、燈馬が気になるのであれば気軽に連絡をすればいい。一ヶ月弱は春休みなんだから時間は有り余っているし、それこそ、なんで帰国することを早く言わないんだよ、と殴りに行ったっていいのだ。今まで通りの関係ならば。
 現状維持、とは言葉のあやで。実際は後退しているのと同じだった。
 あの瞬間は、自分の気持ちを抑えれば出来るかも知れないと思った。けれど、離れてから日が経つにつれてそれは無理だと悟った。
 出来っこないのだ。可奈の気持ちはどうやったって燈馬に傾いてしまう。
 名前を付けず自然にこなしていたからこその関係であったから、自覚しそういう心持ちで見てしまうなら、自分の行動はどうしたって全てに気持ちを伴った物になる。下心無しでなんて出来っこない。もしかしたら、いつかは、そう心の奥底で期待してしまうのだ。自分自身、それが理解できるからこそ、嫌で仕方がなかった。
 いっそ、新しい恋でもしたらどうか。
 ちょうど生活が変わるのだから燈馬のことなんて忘れてしまってさ、と何度か勧められたこともある。でもそういうのはしようと思ってする物でもないし、第一、燈馬を忘れることなんて出来ない。燈馬は現状維持がいいと言ったのだ。それは友達関係のままがいいということ。忘れていいものなら忘れてしまえれば楽なのに。いや、こんな仕打ちをされているのだから律儀にそんなのを守る必要は無いんだけど自分自身で現状維持に付き合うと言ってしまったし云々。

 いつもの通りに、ひとり部屋に閉じ籠もってぐだぐだと頭の中で騒いでいる傍らで、テーブルに置いてあった携帯電話が振動音と共に着信音をけたたましく鳴らす。また誰かしらからのお誘いか。みんな示し合わせて可奈を暇にさせないようにとしているのだろうか?
 どれどれ、と取ろうと手を伸ばし、液晶に表示された発信者名にぎくり、と手が止まった。

『優ちゃん』

 黒い背景に、白い文字。
 自分側か燈馬側かと問われれば、優は燈馬の妹なのだから燈馬側である。ロキやエバも可奈の友人だが燈馬を介しての繋がりだから当然燈馬側。関係は変わらない、と決めたのだから燈馬側も可奈側もない。身構える必要も無いけれど、心情的に、電話に出るのを一瞬躊躇った。
 躊躇う必要なんてない。優だって大事な友人なんだから。
 気を取り直し、通話ボタンを押し、Helloと応える。
「もしもし? 可奈?!」
 切羽詰まった声が聞こえてくる。
「……優ちゃん?」
「良かった! 出てくれなかったらどうしようかと思ったよ!」
 想ったら帰ってきてから何にも言わないし、可奈と喧嘩でもしてたら私からかけても出てくれないかもしれないと思って。
 早口でそう言われ、同じようなもんだけど、と内心えづいた。
 あの後ろくに会話もしないで帰ったのだから燈馬にも引っかかることがあっただろう。
 お互いにきちんと消化しないままで現状維持でいよう、と飲み込んだのだから。
「どうしたの?」
 ただならない様子でまくしたてるように喋る優に、訊いてみる。
「可奈、お願い……想を助けて欲しいんだ」
 燈馬君を、助ける。
 可奈が息を飲むのが聞こえたのか、優は実は、と話を続ける。
「想が、研究室に篭ったまま出てこないんだよ。こっちに帰ってきてからずっと」
「それは……普段通りじゃないの?」
 寝食忘れて没頭するなんて、燈馬にしては日常茶飯事だ。
 中断させればなんですか?と手を止める。帰って休めと言われれば文句も言わずに帰るだろう。仮眠を取れと言われれば、その通りに。
 少なくとも、自分が燈馬を止めるとそういう反応を示した。だから、誰も止めなければずっと思考の海に沈んだままだろう。それは普段となんら変わらないものだと思えた。
 しかし、優は違うんだよ、と震える声で言う。
「研究室に入ってから、本当にただの一度も、言葉通りに、部屋から出てこないの。食事を渡しても食べた形跡がほとんどないし、仮眠部屋も使われてないみたいだし。私も、ロキもエバも何度も何度も訪ねて行っても、止めてもムリで」
 全然違う。
 日本で、可奈の前で、自分の世界に籠もっている時とは。優が心配するのも当然だ。生きるための全てを投げ打って、燈馬は何をしているのだろう。
 そんなに大事な研究なんだろうか。だから突然帰国したんだろうか。それならもっと嬉しそうな顔で帰ればいいのに、そんな素振り少しもなかった。何のために命を削るような真似をしているのだろう。
「食事もろくに摂らない、睡眠もとってるんだかどうか。このままじゃ、想が死んじゃうよ」
 普段は楽天的な優が、憔悴しきった声で電話を掛けてきたのだ。きっとよっぽどの事なのだろう。そんな無理して、周りに心配かけて、自分を傷つけていい訳がない。
 でも。

「……優ちゃんに出来ない事を、私が出来るわけないじゃん」

 普段の可奈であれば、こんな電話を貰おうものなら、既に自宅を飛び出して空港に向かってるだろう。引っ叩いてでも部屋から出して無理矢理に食事を摂らせたりしただろう。
 でも。
 燈馬にとって、自分はどんな存在なんだろうと考えると体が竦む。名前なんて無かったから出来たことが、名前をつけたせいで出来なくなってしまう。
 燈馬にとって、可奈は何か。
 可奈にとって、燈馬は何か。

 恋人同士にはなれない。今のままがいいと言った。
 今のままの関係って何だろう。
 恋人でなければ、友達なんだろうか。
 肉親が居て、親友と呼ぶ友達がいて。じゃあ自分は?と考えると、きっとそれより劣る。
 いくら言葉では好きだとか愛してるだとか言ったって、簡単に諦められるくらいの代物なのだ。

「……私は、燈馬君のただの友達の一人なんだよ?」

 言いながら、ずきずきと胸が痛む。
 言葉にしてしまうと、なんて簡潔になるのだろう。
 うだうだと思考していると堂々巡りで結論が出なかったのにこんなにもわかりやすく、事実が見える。
「優ちゃんは、知らないだろうけど……私、燈馬君に……この前振られたんだ……」
 嘘、という呟きに、本当だよ、と応えると、嘘だ信じない、と優は叫ぶ。
「友達のままでいようって、言われたんだ」
 なるべく静かに。感情的にならないようにと気をつけて呟いたそれは、息巻いていた優の言葉を止めるのに十分だった。
「私の気持ちがどうであろうと、燈馬君は私と友達のままがいいんだって。だから……私には燈馬君をどうこう出来る権利も資格も、優ちゃんほどは持ち合わせてない」
 自分で喋っているはずなのに、ひどく遠くに聞こえる声。冷静に、機械的に、静かに。事実だけを述べている。燈馬君みたいだな、と頭の端でそう思う。
「優ちゃんは勘違いしてるよ。もともと私は、燈馬君にとってはただの友達で……私が燈馬君をどうにかできるわけないじゃん」
 燈馬は燈馬。可奈は可奈。
 無理矢理に引きずり回してはいたけれど、それが許される権限を、可奈は持ち合わせていない。
 燈馬が仕方ないなぁと許していたからこその、境界があやふやだったからこその関係で、意思疎通も出来ない今では他人同士なのだから不可能だ。
 理路整然と並べていくと、いかに今までが特異だったか見えてくる。周りにそれが、どう見えていたのかも。
 形に囚われてしまって、それに拘ったから関係が壊れてしまったのだと、話しながらようやく理解する。
 あぁ。名前なんてつけなければ。
 もっと燈馬の近くにいたいなんて思わなければ。

「可奈は……想のこと、キライになった?」
 心の声を聞かれた気がして、呼吸が思わず止まる。
 そんなわけない、そう言いたいのを飲み込み、下を向く。
 嫌いになれればどんなに楽だろう。
 告白されて友達でいましょうなんて答えるのは、断りの常套句だ。自分も好きだけど、と前置きをしてから断るなんて自分勝手だし理不尽だ。いっそすっぱりそんな気ありませんって言ってもらえればショックだろうけど凹みきれば復活出来る。下手に希望を残して置くのは狡い。
 そうはされても嫌いになれないのは、希望を残されたからだけではなくて、中途半端な関係に甘えてきた自分の負い目もあるからだ。一概に燈馬を責められない。燈馬も、きっと自分に対してどう断ればいいのか解らなくなっていたんだろう。
 変に距離が近かったばかりに。
 
 答えられず、無言のままの可奈に、優は何かを感じ取ったのか、ゴメンね、と小さな声で謝った。
「あのね……もし、想のことを憎からず思ってくれてるなら……こんなの、可奈に頼める事じゃないって解ってるけど……お願い、想を助けて、力を貸してください……」
 泣きそうな語尾が消えるか消えないかの辺りで、ぷつりと通話が切られ、等間隔で発信音が鳴らされる。
 可奈は耳に当てたまま、言われた言葉を反芻する。

 お願い
 想を助けて
 力を貸してください



*****************************


 空港に着いて連絡を取ろうと鞄を弄る最中に、可奈、可奈、と声が聞こえる。見回すと両手を振った優とロキが少し離れた場所に見えた。
 抱きしめられ、泣きながら「来てくれてありがとう」と言われ、胸が痛くなる。自分が来たところでどうこう出来るとは到底思えない。ありがとうなんて、言ってもらえるだけの価値があるんだろうか。


 研究室に向かう車中、帰ってきてからの燈馬の様子を、ロキは順を追って話し始めた。
 最初は普段通りだったそうだ。それはあくまで雰囲気で、もしかしたら最初からおかしかったのかもしれない。
 仕事の内容は可奈には解りづらいだろうから割愛して、要するに人海戦術的なものだから人手が欲しくて呼んだだけ。そう難しいものでもないし、終わればまた日本に帰るんだろうと思っていたら、自分の分が終わっても次の仕事を要求する。また終わればその次を。上は渡りに船と手薄になっている方面の仕事をどんどん渡して行っては、燈馬はそれをものの数日でこなしてしまう。
「多分、燈馬のお陰で納期よりもずっと前に完成しちまうぜ」
 そうして、都合がいいと次の仕事を押し付けられるんだ、とイラついたようにロキは膝を叩く。
 時間に追われている訳ではない。燈馬が頑張ったお陰でみんなも一息ついてゆっくり眠る時間が出来た。だからお前も休めと何度も何度もロキもエバも、仕事仲間も言ったらしい。けれど燈馬は首を振るだけ。没頭している方がラクなんです、と一度だけ答えたきり。

「可奈ちゃんが関係してんだろうなぁ、と思って連絡しようとしたんだけどよ、燈馬に止められたんだ。『水原さんは関係ないです、僕がそうしたいからしてるだけ』っつってさ。で、優ちゃんと相談したんだよ、どうするか。で、やっぱりここはどういう問題だろうが燈馬を上手く扱えてた可奈ちゃんの方が適任だろうと連絡してもらったんだよ」

 隣を見ると、申し訳なさそうに優は俯いている。
 両親とも連絡がなかなか取れなくて心細かったに違いない。だから、藁にも縋る思いで『関係ない』と言われた可奈に電話をかけたのだ。

「結果は、やっぱり私が原因だとそこで解ったわけだ」
「優ちゃんからは詳しく聞いちゃいないがな」
 振った振られたなんて繊細な話は流石にロキには伝えてないか、と優の優しさに感謝する。……言わなくたってロキには解るんだろうが。
 燈馬が籠城してしまった原因は、と問われればバレンタインのやりとりぐらいしか自分には思い当たらないわけで、他の要因があるとするならそれはロキの方で探って検証をしていた筈なのだ。
 本当の解を知るためにはすべての式を照らし合わせなければいけないと、それくらいは燈馬と普段一緒についていたのだから学んでいる。
 考える頭は多い方がいい。それなら事実を事実として伝えた方がいいのだろう。
 どう伝えようか考えて、ふう、と一息ついた。

「私さ、燈馬君に振られたんだよ。一ヶ月前に」

 思ったよりも軽く、言葉が出てくる。流石にもうだいぶ時間が経ったし、落ち着いたんだなぁ、と自分勝手に感心する。ちょっと前まではそんなのを独り言でも言おうものなら涙腺が崩壊したというのに。
「マジか? 可奈ちゃんが振ったんじゃなくて?」
 信じられない、という風に大げさに首を振る後ろ姿に、真面目に運転しろと喝を入れつつうんうんと可奈が肯くと、ロキの肩が下がり、大きな溜め息が漏れた。
 小声で英語でぶつぶつと何か言っているのが聞こえるが、可奈は聞かないフリをする。
「そ。『今まで通りでいましょう』だってさ」
「逆なら解るけどさ、燈馬は可奈ちゃんにベタ惚れだったじゃねぇか」
「ロキにどう見えてたか知らないけど、気のせいじゃない?」
「そんなこたぁねぇよ」
「そうだよ可奈。どう見たって想は可奈の事大好きだったじゃない」
 電話してからずっと信じられなくて、どうしても聞きたかったと優も頷く。
 そんなこと言われても、事実は事実なんだよ。
 そうとしか言えなくて自分も溜め息が出る。

 自惚れていた訳じゃ無いけれど、燈馬からある種の好意というか、信頼みたいなのは受けていたとは思うのだ。きっと応えて貰えるとかそういう打算的なことを考えての告白ではなかったけれど、どこか片隅では、そういう驕った考えをして勝手に期待していた所はあったかもしれない。実際は現状維持と言い渡されてしまったわけだけれど。
 可奈から見て勘違いするくらいなのだから、他者からも恋愛的な雰囲気に見えたのだろう。

 そんなんじゃなかったんだよ。
 勘違いだったんだよ。
 私は、ただの友達なんだってば。

 どんどん卑屈になっていく胸中に嫌気がさして窓の外を睨んでみる。
 一ヶ月前、マンションで、燈馬の言っていた理屈が少しでも理解出来たのであれば、こんなにもやもやしたりしなかったのだろうか。振られた悲しさとはまた別のものが胸を苛んでいるというのに、この時やっと気がついた。
 燈馬だけの理屈で勝手に締められてしまった悔しさや、理解出来なかった腹立たしさ。その他諸々が複雑に絡み合ってしまったからこそこんなに自分の中で拗れてしまったのだと、ようやく。


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