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軌跡。

50巻までの軌跡というか、高校二年生現在までの軌跡というかそういうもの捏造。
pixivに上げてあったんですがこっちに貼ってなかったので(汗

燈馬君が延々と過去の話を可奈ちゃんに話してる、という設定です。
うちの燈馬君はこんな感じですっ(`・ω・´)



 え?
 アメリカに住んでた頃の話ですか?
 特に、面白い事は無いと思いますけど。水原さんと変わらないんじゃないですか?

 まぁ……そうですね、環境も違いますし、学校も違いますし。何です? アメリカの学校のことを聞きたいんですか?

 そうじゃない?
 面白いとは、思いませんけど………


 エレメンタリー……小学校や中学校の記憶はあまり無いんです。気がついたらもうハイスクールに通っていたというか。話は周りの友人とは合わなかったですし、実際、知識欲の方が勝っていましたし。優と一緒に通った記憶なんて殆ど。
 優には寂しい思いをさせたかも知れませんね。父さんも母さんもあまり家に居ませんでしたから……

 僕ですか?
 ……考えたことがありませんでした。
 いえ、……そうですね、水原さんの言うように、考えないようにしてたのかも知れませんね。


 飛び級でハイスクールに通いましたけど、歳が違い過ぎますから当然以前以上に話は合いませんし、色々な人間は居ますから。どんどん僕は数学の世界に没頭していきました。
 思考に耽っていれば、外界なんて気になりませんし些細な事。
 数学というフィルタを通して見る世界はキラキラしていて、人間関係とかそういった細々とした悩みなんてちっぽけな物に感じていました。ハイスクールの友人に『お前はロマンチストだ』とよく言われましたが、そんなことは無いんです。

 ……現実を直視することを僕はどこかで諦めていただけで。ただ、自分自身が諦めていることに気づいていなかった。あんまりにも幼すぎて。

 そんな、泣きそうな顔しないでくださいよ。もうずっと昔の事ですよ?
 ほら、面白くないでしょう?
 ……そうですか?


 MITにいた頃の僕は望めば得られる知識の海に浮かれていました。
 何より年齢のせいで見下したりされず、対等に意見を言い合い、尊重し尊重される生活。必要とされるのも嬉しかった。

 初めて僕は、外の世界に興味を持った。……けれど、僕が関わりすぎると周りが不幸になると体感した。

 ……そう、アニーさんのこととか。色々。
 あれ? 僕、水原さんにアニーさんの事を話しましたっけ?
 そう……優が話したんですか。
 あの時も、僕を追いかけて来てくれましたもんね。
 えぇそうです。真相は違いましたけど、あの時は僕が理由としか思えなかった。


 僕は怖くなりました。
 僕の力が誰かの役に立つのなら嬉しい。僕の得た知識が、知識としてだけでなく実際に使われて、形になるのは嬉しい。
 けれど、そのせいで大変なことになったらどうしよう。

 ずっとそんなことを思ってました。


 ロキと出会って、色々やって。すごく、楽しかったんです。同時にすごく怖くなりました。
 ロキは色々なものを与えてくれる。だからこそ、僕と関わって迷惑をかけないか、心配だった。
 そして、それとは別に。
 ロキは僕とコミュニケーションをとってくれる。それは年上として、年相応の事が抜け落ちている僕を気遣ってくれてることも多くて。
 コミュニケーションというものは楽しいものだと。他者となんの気もなく、ただ関わるだけでも楽しいのだと。そういうことを、ロキに教わりました。
 だから怖くて恐れている反面、とても、外の世界に憧れました。

 内面だけで完結する、自分だけの世界でなくて。他者と関わることで成立する、外の世界。


 そんな時に、論文の事件が起きました。
 そう、水原さんがエバから聞いた、僕が日本に来るきっかけになった、紛失事件です。

 やっぱり、って思いました。
 同時に、チャンスなのかな、とも思いました。


 僕は、遮二無二勉強をしてきました。勉強以外から目を逸らして。流行りのものも、テレビ番組すら知らず、ただひたすら。
 僕には、知識しかない。蓄えてきた知識しか。一人の人間として、色々なものが足りない。
 それを補うチャンスが、巡ってきたのかと思いました。


 エバを庇ったつもりも、ロキに気を使ったつもりもないんです。あの時はただ……結局は、「知識欲」ですね。自分の持っていない経験に憧れて。興味を惹かれて。それで、そういう道もいいかもな、と思ったんです。
 もう一度、年相応の学校に入って、そういう環境を学ぶ、ということを。


 どこでも良かったと思います。
 僕の欠落した、そういった経験を補える場所。
 日本は両親の故郷で、僕のルーツです。国籍も持ってましたし。ただ、それだけの理由。
 高校を選んだのも、住居とするここから通いやすかっただけ。

 全然、用意周到ではなかったです。
 行き当たりばったりで。
 ……水原さんみたいだ。

 怒らないでくださいよ。
 だから水原さんに会えたんですから。


 水原さん、最初のクラスの自己紹介、覚えてますか?
 僕は水原さんの事を覚えてますけど……ですよね。水原さん、自分の番まで寝てましたし。
 最初はみんな興味を持ってくれましたけど、見ての通り、取っつきやすいタイプではないですし、そのうち、肩書きが一人歩きしてしまって敬遠されるし、無理に輪の中に入って拒否されるのも怖いし……周りと年は同じ筈なのに、ハイスクールの頃と変わらないな、とも思ったり。
 意外、ですか?
 我関せずって確かに思ってました。だってそうすれば傷つかないじゃないですか。
 でも、本当は。心の底では。
 誰かと、何でもないような時間を一緒に過ごしたかった。
 今みたいに。

 一年の一学期。ゲームセンターで水原さんに助けて貰ってから、僕の世界は変わりました。

 え?自覚がないですか?……そうですね、水原さんにとっては特別なことじゃないんでしょうし。


 僕は、人と関わることに興味がありました。だけどやっぱり、怖かった。関わり方のいい方法を知らないし、相手を不快にしたり不幸にしたりすることを恐れてました。

 自分の時間は自分の為に使いたい。
 半分本当で、半分は虚勢。
 だって、必要以上に関わったら……また酷いことになったら嫌じゃないですか。


 けれど、そんなのお構いなしに、水原さんは僕をどんどん外の世界に関わらせた。その度、僕に実績を積ませてくれたんです。
 相手を必ずしも不幸にしない、という実績です。


 情けは人の為ならず。
 友達が困ってるんだから助けるのが普通。

 ……水原さんには当たり前なんでしょうね。僕には出せない第一歩を、いとも簡単に踏み出せる。

 水原さんが居るから僕は、安心して隣を歩いていけるんです……


 水原さん。
 ありがとうございます。
 えぇと、その……これからも、よろしくお願いします。

 僕の隣に、いて下さい。
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