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This drunkard!②

よく考えたら付き合ってないのにお付き合い前提マーク■で書いてますね……
うーん、ネタ的にアダルティだからいい気もするんですけど実際はまだ付き合ってない状態で一線を超えちゃってるって、うーん…………

まぁ、いいか(爆


とりあえず予定では次で終わらせるつもりなんですが、やっぱり長くなりそうです……orz





 ベッドが軋み、何やら前に置かれる気配がする。
 「服、着たよ。燈馬君も着ちゃいなよ」
 どうやら、可奈が着ながら拾ってくれたらしい。
 あ、でも燈馬君は昨日のじゃなくて新しいのあるんだからそっちの方がよかったか、と立ち上がりかけたのを、布団から手だけ出して大丈夫です、有難うございます、と引き止める。
 そのまま冷えた衣服を手繰り寄せ、狭い布団内でどうにか身に付ける。

 布団から出ないのは、寒い訳ではなく、ただ単に顔を合わせづらいからだ。
 多分、可奈も同じ気持ちだろう。
 顔を見たら嫌でも昨日を思い出す。
 こうなる経緯も、その結果どうしたかも。
 覚醒するにつれて、想の脳内にしっかりと再生されてしまい、今顔を見たら自制出来るか自信もない。
 汗ばむ掌で自分の頬をぺちぺち叩いた。

 「……身体、大丈夫ですか?」
 未だ布団の塊のまま、そっと可奈に訊いてみる。
 「あー……うん、平気だよ。歩きづらいくらいかな」
 可奈は、言いにくそうに、でもなるべく軽く聞こえるように答える。
 十中八九、想は、全て自分のせいだと抱え込むと予測出来る。
 そんなのは、意図する所じゃない。
 「てか、やっぱり覚えてるよ、ね?」
 「……はい」
 どこからどこまで、とは怖くて訊けない。
 ただ、自分が覚えているくらいは、想も覚えているのではないかと可奈は思う。
 自分は途中で、思考がおかしくなったけれど、想は最後の最後まで、少なくとも自分よりは冷静だったように、見えた。


 もそもそ動く布山に目をやる。
 気が重いのは、想と関係を持ったからではない。
 酒の勢いでしてしまったから、という訳でもない。
 想がこの先言い出すだろう事と、自らの抱える気持ちが思う以上に大きすぎた事に気付いてしまった事に由来しているな、と考える。
 十五、六で出会ってから、もう既に十年近くは経っている。
 その間、思う所はいくらでもあった。
 それでも、色恋沙汰にしなかったのは、好きだという気持ちより、友人として一緒にいる時の楽しさや安らぎを優先してきたからだ。
 想の隣は居心地が良い。
 色恋沙汰になったら、隣は確保出来るだろうが、居心地はどうなるか想像出来ない。
 万が一にも駄目になれば、多分、それっきりになるだろう。
 自分以外がその場所に陣取るのは我慢ならないな、その時にはどうしようか、とは考えていたが、ついぞ今まで現れず。

 だから、完全に油断をしていた。
 自分の気持ちは、友愛なんだと。


 身体を重ねた今なら解る。
 そんなのは勘違いだ。
 私は、最初っから燈馬君が好きだった。



 昨日のことを考えると、顔から火が出る程恥ずかしいけれど。
 嬉しい、幸福だ、愛しい。
 そう感じる気持ちも確かに存在している。
 だからこそ、許せないな、と思う。
 想が言うだろう、『責任』という言葉を。
 いや、許せない、と思いたい。
 少なからず、その言葉に歓喜する自分存在することが、腹立たしかった。



*****



 「いきなり何言ってんですか」
 可奈の唐突な発言に、想は思わず素っ頓狂な声を上げた。
 もしかして聞き間違えたかと思ったが、
 「挨拶がノーカンなら、今私がして、これは挨拶だって言ったらノーカンになるよね?って言ったの」
 可奈は座った目のまま、改めて投下した爆弾発言を言い直す。
 別段、その言葉に深い意味はなく、ただ単に思いつきなのだろうことは、理解できるが。
 ごくり、と唾を飲み込む音が、妙に大きく頭に反響した。

 グラスを置いて、ひと呼吸つく。
 流石に、これは。
 売り言葉に買い言葉になっている現状の自分の頭では、最悪の結果にしかならないことは明白だ。
 悪あがきではあるけれど、新鮮な空気を頭に送り込む。

 「……なんでする前提なんですか」
 多少は考えが働くぐらいに戻った頭で、なるべく冷静に言葉を選ぶ。
 なんとか、可奈が我に返ってくれることを期待しつつ。
 「なによ、したらいけないの?」
 そんな想の意図も理解せず、朱に染まった険しい顔が、寸での所まで急に近づいた。
 酒の匂い以外にも、可奈の普段纏っている、甘い花のような香りがする。
 凶悪的に、蠱惑的だ。
 取り戻したはずの理性が、ぐらりぐらりとあっけなく廻る。

 「いや、そういう問題でなくて」
 言ったものの、声は上擦る。 
 躙り寄る可奈を避けようと後ずさるが、構わず距離を詰められ困惑する。
 理性と本能の鬩ぎ合いを、一体誰のためにしているのか、と。
 この、酔っぱらい、と罵りたくなる気持ちが芽生えた。
 こっちがどんな気持ちで付き合ってると思ってるんだ、と罵倒してやりたい。
 してやりたいが、多分今は逆効果だ。
 そんなのいいじゃん、と一蹴されて終わるだろう。
 
「……後悔しませんか?」
 肩を押さえ侵攻を阻止しつつ、真っ直ぐ見据えて、静かに、真剣に可奈に語りかけた。
 なんとなくの、気まぐれから思いついただけなのだ。
 それなのに、こんなにもあっさりと唇を許していいものなのか。
 言い出したのは可奈なのだから自己責任ではあるけれど。
 だからこそ、思い留めて欲しかった。
 「しないしない。だってノーカンなんでしょ?」
 生来の、明るい笑みで、なんでもないような風に可奈は笑う。
 大事にしたい、という気持ちは確かにあるはずなのに。
 いとも容易く、破壊される。
 「それは、各々の気持ちの問題であって、実際はノーカウントにはならないと思うんですけど」
 言って、心中で息をつく。
 ……もう、形ばかりの言い訳だ、免罪符が欲しいだけの。
 拒むフリになってきているのが、自分でも痛いほど理解できた。 
 「絶対酔いが醒めたら後悔しますから」
 こんなにも、求められることは今まで一度も無かった。
 それは、可奈が恋愛感情を持って見ていたのではなく、あくまで友情として、自分を見ていたからだと理解していた。
 同性相手に絡むように、自分にも絡んでいるのかとも思い、歯止めを掛けようと思うけれど。
 「燈馬君は、……イヤなの?」
 どんなに、どんなに、自分を律しようと思っても、可奈は容易くそれらを破り、踏み込んでくる。

 「イヤなわけないじゃないですか」
 「じゃあ、問題ないじゃん」
 再び侵攻が始まりそうになるのを、今度は逆に抱きしめて押さえ込む。
 押し倒されて唇を奪われるというのは酔いが醒めたときのことを思うと怖かった。
 可奈が羞恥で泣きそうになる姿が、容易に想像でき、胸が痛む。
 その痛みで、なんとか自我を保つ。
 抱きしめた暖かさも、柔らかさも、自らを苛むけれど、なんとか耐える。
 後で罵られる方が、悲しませるよりよっぽどいい、と心底思えた。


*****
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