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some_thing ④

思ったより長くなりました……まだおわんない……orz
多分、⑥か⑦で終わる感じです……お付き合い下さいっ!






「ちゃんと食べてる? 毎回毎回思うけどさ、こんなことならうちのアパルトマンに来れば良かったのに。別に想の研究所に通えない距離じゃないんだからさぁ」
 私は沢山の袋を抱えながら玄関のドアをばたんと開けた。
 想はこちらに視線を一回投げると、やれやれといった感じでデスクから立ち上がった。迷惑、という感じではない。どちらかというと、自分に対して呆れている感じの、そういう溜め息を吐いて手を差し出す。
 持っている袋の片方を手渡すと「ありがとう」と素直に呟いてくるりとダイニングの方に向かう。その後ろ姿は、私の同級生男子よりもずっとずっと細い。
 月に何度か、私は想の所へ食材を持って遊びに来ている。想がアメリカへ帰って来てからずっと。
 最初はただ遊びに来ただけだったんだけど、なんか心配になっちゃって、食事の面倒や健康面を確かめるために定期的に通うようになってしまった。
「仕事は一人の方が捗るし、優にそこまで面倒掛けるわけにいかないだろ?」
「別に気にしないのにさ。赤毛のアンのマシューとマリラだって年取るまでずっと二人だったじゃん? まぁ性別逆だけどさ、同じようなモンじゃん?」
 私が想の言葉に答えると、彼はひどく悲しそうな顔で、笑った。
 私は、可奈が日本に居た頃に想にしてくれていた事を真似ている。
 想の今の様子は、どちらかというとハイスクール時代のそれと似ている。あまり周りと交流せずに、自分の気の向くまま、好きなことや興味のあることに没頭して自分を省みない。多分放っといたら、物理的に生活力のない想は死んでしまうだろう。
「死なないでよ?」
 私がそう言う度に、想は苦笑して頷いた。
「可奈に電話が繋がんないんだけど?」
 と想の部屋を訪ねたのは、もう一年以上も前。
 携帯の番号は知ってたのに家の電話番号を教わるのをすっかり忘れていた私は、想の所へ電話番号を聞きに行った。
 たまたま可奈と話したいなぁ、と思っただけだったから、想の部屋に行くいい口実が出来たなぁ、とお気楽気分で立ち寄ったんだけど、想は「水原さんとはもう会えません」と、ただ一言。
 ……よく解らないけどなんかあったらしくて、電話をかけることを禁じられた。
 色々聞き出そうと頑張ってはみたものの、元々そういう自分の内面とかに関わる事を話したがる兄では無かったな、といつしか思い出して諦めて、多分、可奈と何かあったんだろうな、と想像に留めて黙って寄り添うことにした。
「……私はてっきり可奈と結婚してこっちに来ると思ってたんだけどなぁ」
「僕たちはそういう関係じゃなかったから……」
 うっかり言ってしまった一言に、想もまた、うっかり答えたことがあった。
 そういう関係。
 それは、体のって事?
 私は失言してしまったことにも気付かずに想の言葉だけを気にした。
 自分の周囲の友人と比べるとそんなの些細な事だと思う。寝ようが寝まいがそれはコミュニケーションの一環であって、重要なのはそこだけではない。けれど、日本とここじゃ交友関係やら付き合うやらの定義が全然違うから、日本人にとっては大きいのかもしれない。
 私は、想のいう「そういう」は、一線を越えてない、と勝手に思って言葉を続けた。
「でもさ、そういう関係じゃなくたって、仲良かったじゃん? いつも二人でいたし。日本じゃそういうのでも付き合ってるってコトになるんでしょ?」
「だから、そういう関係じゃ、ないんだよ」
 少しイラついた感じで言うもんだから、私もついつい調子に乗って軽口で煽る。
「あー、解った。なんかあったんでしょ? 可奈にフラれたんだ」
 少しの、間。
 考えるように、俯く想。
「フラれたって言うのかな……?」
 ぼそりとそう呟いたのを、私は聞き逃さなかった。
「え、やだ、ごめん、本当? …………本当、に?」
 静かに頷いて、また自分の作業に戻った横顔を、私はただ呆然と見つめた。
 だってまさか、「肉体関係以前の問題」だとは思ってなかったから。
 想と可奈の絆というか、仲の良さというか、そういうのは傍から見ても十分すぎるほど感じていた。妹として嫉妬するくらいには。だからただ単にケンカか誤解か何かをして仲違いをしてるだけだと、だからからかっても平気だと勝手に思っていた。
 なのにそういう関係じゃないとかフラれたとか、そういう言葉が想から出て来るなんて思ってもみなかった。
「僕は……水原さんを、好きだったのかな……?」
 唐突に、独り言のように、想は呟いた。
 自問、というよりも、私に意見を求めているようで。
 不用意に私が可奈のことを聞いて勝手に動揺していたのを察して、ほんの少し、想は心の中を見せるように、譲歩してくれたのかもしれない。
「…………好きだったんじゃ、ないの?」
 少なくとも私には、想は可奈を想っているように見えていた。
 一番最初に可奈と会った時にはまさかと思ったけど、彼女を見つめている横顔やちょっとした動作、あの気の利かない典型の想の見せる今まで見たことの無い表情に、私は目を白黒させたものだった。
 人に対して執着をしないタイプなのに、可奈に対してだけは違う。だからきっと想にとって可奈は特別なんだと、そう思っていた。
 けれど想は、私の言葉に首を振る。
「……解らない」
 言って、苦々しい顔で手を組み、背もたれに体重をかけて天井を仰ぐ。まるで解けない問題にぶち当たったような、諦めとも取れそうな遠い目で、重々しい溜め息を吐く。
「人として水原さんに対して敬意も好意もある。とても。けれど……それが男女間の恋愛感情か、と問われると自信がないんだ」
 恋愛感情かどうかなんて、考える必要なんてないと思うのに。異性に好意を持って、色々モヤモヤ考えたりするのイコール恋愛感情だと思うのに。そもそも、感情のような曖昧なものを見極める必要性が感じられない。ただ思うまま、感じるままに取ればいいのに。
「そんな小難しい事考えてたら人類が滅ぶよ」
 軽く呆れながら私が呟くと、それでも考えなければ、とまた首を振った。
「水原さんが、そう言ったんだ。実際、考えてみるとハッキリと言い切れないし。……自分は数学には敵わない。だから自分の事を忘れられなくて悩めばいいって……だから今、僕はずっと悩んでる。どうしたら良かったのか。これからどうすればいいのか」
 そう言って難しい顔をする想にどう言葉をかけたらいいのか私には解らなくて。
 曖昧にしたまま、首を傾げるしか出来なかった。
 
「昔さ、私が初めて東京の、想の所に行ったこと、覚えてる?」
 コーヒーをデスクに置きながら、私は思い出して想に話しかけた。
 私が万引き犯に間違われたことを否定しなかった事とイチエンの事、その他諸々。想は薄情なんだと私の事なんて本当は嫌いなんだとあの時まで決めつけていた。
「相手のことが大事だった。相手のことが好きだった。その気持ちさえあれば、きっと忘れない……たとえもう二度と会えなくてもなにも寂しくない。新しい世界に向かっていける」
 横浜の海を見つめながら、ぽつりぽつりと語ってくれた横顔と、今の表情が重なる。
 想にとっては、きっとそれが真理なのだ。
 自分以外どうでもいいと思ってた訳じゃない。
 自分自身が大事に思っていればいい。そして相手も同じ思いであればずっと繋がっていられると、そう信じているから手放せると、そう言った。
 可奈に対しても、同じ思いだった筈だ。
 可奈のことが好きだから、忘れない。そして可奈も想のことを大事に思ってるから忘れない。その事実だけでいい。それだけがあれば生きていける。
 なのに想は、心が安らぐどころか悩んでる。それは可奈に忘れられずに悩めと言われたから。
 そんなの、悩んでるかどうかなんて自分にしか解らないんだから気にしなきゃいいのに。それでも悩むのは……やっぱり、可奈に執着があるからだ。可奈が好きだからだと思う。
 可奈は、想に悩めと言った。それは、自分の事を覚えていて欲しいから。こんな回りくどいことをしなくたって、両想いなのは明白なのに。
 でも可奈からしたら、あんまり自分のことを話したがらない想の気持ちなんて解らない。自分は一番じゃないと勝手に解釈して、疎外感を感じたとしても不自然はない。
「こんなこと、急に今更言ってもなんだけどさ。私……可奈の気持ち、なんとなく解った気がする」
「……どういう事?」
 想はびっくりしたような顔で、私を見上げた。
 ずっと禁句のように避けていた可奈の話。やっぱりそれでも想はずっと考えて、気にしていたよだった。
 
 想の真理はとても綺麗だ。
 自分が想った分、相手も想ってくれる。
 それはとても理想の形で、だからこそ想は安心して躊躇もせずに別れを告げることが出来る。
 けれど実際はどうだろうか。
 抱える気持ちは人それぞれだし、お互いに相手を尊重しあっていても、それが釣り合っているかどうかはまた別問題だ。
 ましてや、相手は想だ。
 未だに自分の感情に疎い彼が、天秤の内を知るはずもない。
 そして自分が理解していないのに、相手がそれを理解出来るわけがない。
「想は、可奈とたとえ別れても、お互いが想いあっていれば忘れないし、絆は切れないと、大丈夫だと思ってた。でも、実際はそんなことなくて……想いの比重が違いすぎて、破綻したって、そういう事でしょ?」
 想は、無言で聞いている。
 構わず、私は続ける。
「好きな人には自分の事だけを見て欲しいって思うのは自然な事だと思うんだ。可奈が数学を引き合いに出したのもそのせいだと思う。そして想は、本当に数学の事を考えている時は数学にしか目が行ってない。そういう風に見える」
 驚いたように、想の目は見開いた。
 誰だって夢中になったらそれしか見えないと思う。けれど想はその上を行っている。
「物事を考えるときに自分を入れない。他人も入れない。その事柄だけを見つめてる。その瞬間はこっちがどんなに気を引こうとしたって見て貰えない。相手の中に自分の居場所がない。それは……恐怖だよ」
「恐怖?」
「同じ場所に居るはずなのに、ずっと遠いところにいるみたいな。やっぱり、想は別世界の人間なんだなぁって、その様子を見た人間は思う」
 私自身も、そう感じたことがあった。だからこそ私のことなんか気にしてない、嫌われてる、と勘違いをした。
 想は、呆然と私を見つめていた。そんなの、思ってもみなかったといった風に。
「……そんなことないのに」
「そう思ってるのは、想だけだよ」
 もし仲違いなどしていなくて、二人とも、以前と変わらず同じくらいに想いあっていたならば。たとえ離れて暮らしていても、今も変わらない距離感で付き合っていたのだろうと思う。
 
「『恋に落ちる』って言葉があるでしょ? 恋をするんじゃなくて、落ちるの。理屈じゃない。自分の中で正解だと思ってたことがいとも簡単に覆る。非合理でも嫉妬するし、一喜一憂する」
 本気で恋をしたら、平常ではいられない。
 綺麗な真理を守る事なんて、できやしない。
 想の口元で組んだ指に、力が籠もる。
 彼は立っている。思考の淵に。
 いつものように、彼の頭の中には、一つの事柄しか浮かんでいない。もうこちらの声も届かないだろう。
 そんな想に苦笑しながら、私も反芻する。
 好きというのは理屈じゃない。
 平常ではいられなくて、ずっと相手のことばかりを考えてしまう。
 忘れないんじゃなくて、忘れられない。
 頭の中から、相手のことが離れない。
 こうやって可奈のことだけを考えて心を傾けているというのは、ずっと引きずって以前の想に戻れないというのは、「可奈を好きだ」という何よりの証拠じゃない。
 
 想は戻ってくる気配がない。
 これは、コーヒーを淹れ直ししなきゃだなと、私は想の手元からそっとカップを受け取り、静かに部屋を出ることにした。
 こんなに真剣に想に考えて貰えるなんて、可奈は本当幸せ者なのにな、と。
 勝手に私は胸を痛めた。
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