忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

拍手(現在3種ランダム)web拍手

some_thing ③

やばいです。コミケの原稿まだ手を付けてません。やばいです。(大事なことなので二度)
それなのに暢気に書いてますかきかき。とりあえずこれが終わったら本気をだそうと思いつつ!!


泥沼急展開の3回目です。泥沼です。(大事なry)




 油断した。
 この一年ちょっと、知り合いと会わないように、なるべく避けて生活をしてたのに。よりによって見つかっちゃいけない人に見つかった。

「水原……さん?」

 聞き覚えのある声に背筋が凍る。聞こえなかったフリを、他人のフリをしようと思ったけど、一瞬早く、相手が近づく。
 以前は見下ろしていた頭が、今では同じくらいの背丈。それでも面差しはあまり変わっていなくて、私は声だけでなく、見た目でもすぐに誰かを認識できた。
「やっぱり。水原さんだ! すごく久しぶりだね」
「森羅君……なんでこの辺歩いてんの?」
「ヒマだからさ、ちょっと足を伸ばして探検してたんだ♩」
 すごく嬉しそうにニコニコと、森羅君は私に駆け寄った。
 すぐ目の前までやってきて人懐こい笑顔を私に向けた後、すぐに胸の辺りに視線が動き、目を文字通り、まん丸にして固まる。
 目が合って嬉しかったのか、スリングの中の子どもはきゃっきゃと声を上げる。無邪気な笑い声が、無言の二人の間に響いた。

「あのさ……その子、もしかして……」
「実はさ! 親戚の子のお守りしてるんだよ」
 努めて、明るい声で私は言った。
「コレでも結構評判いいんだよ『可奈ちゃん保育園』ってね! これがいい商売でさぁ、意外な才能発見ってヤツ? このまま本業でベビーシッターとか始めちゃおうかなぁ?」
 あはははは、と笑いながら言っても、森羅君の表情は全然柔らかくならなかった。
 人差し指を小さな指に握られたまま険しい症状で、まじまじと子どもの顔を見ている。

「嘘はよくないよ、水原さん」
「……騙されて、くれないか……」
「うん。騙されない。……この子、想兄ちゃんそっくりだね。男の子?」
「うん」
「……かわいいね」
「うん……」

 森羅君は、嬉しそうにそっと頭を撫でてくれた。森羅君にとっても親戚になるわけだから、そういう意味でも、感慨深いのかもしれない。
 
「私の身体から出てきたのにさ。普通男の子って母親に似るって言うじゃん? それなのにこんなに瓜二つでさ……ほんともう、ヤになっちゃう……」
「なんで? 想兄ちゃんに似てたらいけないの? どっちに似ても、想兄ちゃん喜んでたでしょ? ……っていうかさぁ、こういうの教えといてくれないからお祝いも渡せなかったじゃん! 水原さん、じゃなくて可奈姉ちゃんって呼ばなきゃ。もう、想兄ちゃんってこういうところ無頓着だよねぇ……」
 森羅君はくるくると表情を変えて、笑ったり怒ったり忙しくしている。
 森羅君は、何も知らない。
 私と燈馬君の間に起きた事を。それによってもうずっと連絡すら取り合っていないことを。

 言うべきだろうか?
 言わないで、このまま誤魔化してうやむやにして別れたら、多分、森羅君のことだから燈馬君に連絡して、そこからなし崩しにバレてしまうだろう。燈馬君も森羅君も傷つけて、きっと、最悪の結果になってしまうに違いない。
 森羅君も、父親を知らない子どもだ。
 幸いにして彼は父と呼べる人が三人もいて寂しい思いはしていないかもしれないけれど、それは客観的な面でしかなくて、本当の森羅君の胸の内は解らない。
 私が出した結論を聞いて、どう思うだろう?けれど、もう、そこまで考えてしまったら、言わないなんて選択肢は無い。
 意を決して、私は口を開いた。

「知らないよ、燈馬君は。私……燈馬君には、この子のこと何も言ってないんだ」

 森羅君は、驚いた顔で視線を跳ね上げた。

「なんで?」
「そもそも付き合ってないから」
「付き合ってないのに、そういうコトしたの?」
「話せば長くなるけど、弁解のしようが無い」
「それなのに、付き合わなかったの?」
「燈馬君にして見たら事故みたいなもんだしさ、もう終わった事なんだよ」
「水原さんは……想兄ちゃんのこと、キライ?」
 直球でそう尋ねられると、相当きつい。
 キライな訳がない。未だに引きずってる。
 でも、それを森羅君に今ぶつけたところで何もならない。
 私は言葉が出ないまま、俯いて首を振った。
 スリングの中の、何も知らない燈馬君そっくりな無垢な視線と目が合って、さらに胸が痛くて息苦しくなる。

「……普通さ、たかだか一回した程度で妊娠なんて考えられないじゃん? だから、きっとね……バチが当たったんだよ」
「罰?」
 絞り出すようにか細い声を、森羅君は拾って聞き返す。それだから私は、懺悔のように言葉を紡ぐ。……そういえば、この子が生まれてから、私は誰にも弱音を吐かなかった。もしかしたら、私は誰かに、聞いて貰いたかったのかもしれない。
「燈馬君に『私のことを忘れられないで苦しめばいい』とかって呪ったから。人を呪わば穴二つ、とはよく言ったもんだよね。私も……この子の顔を見る度に燈馬君を思い出す」
 楽しかった事ばかり思い出す。もう二度と戻れない、見られない、表情や声や姿を思い出す。その度に胸が軋む。私が勝手に逆ギレして、壊してぐちゃぐちゃにして踏みにじったのに。
「……後悔してる?」
「する資格なんてない。……全部私のせいだし……でも、この子が生まれてくれた事に関しては、感謝こそすれ不満はないよ」
 こんな私でも、母親として必要としてくれる。この子は燈馬君ではない。私の子だ。きっかけは褒められた物じゃないけれど、正真正銘、私が望んで生まれた子だ。大好きな、燈馬君との。
「想兄ちゃんに伝えなくていいの?」
 森羅君は不満そうな顔で、私の動向を窺っていた。そりゃ、森羅君から見たらこんなの私の我が儘だろう。森羅君は燈馬君の親戚で。だから燈馬君寄りになっちゃうのは当たり前だ。
「言わないで欲しいんだ。ただでさえ苦しめてるのにさ、これ以上頭痛の種を増やすことない。私はこの子がいれば幸せだし、燈馬君も私を忘れて、幸せになれる。お互いにお互いの事を忘れてしまった方が幸せなんだよ」
「知らないことが幸せなんて、誰が決めたの?」
 辛辣な一言が胸を刺す。
 森羅君はやっぱり燈馬君の従弟だけあって、真っ直ぐに真実を射貫く姿勢はそっくりだ。まるで燈馬君に責められているようで、言葉が詰まって出てこない。いや、燈馬君よりも森羅君の方が純粋な分だけ残酷で、容赦がない。
「僕は想兄ちゃんの従弟だから、想兄ちゃんに味方する。だから水原さん、僕は言わないなんて約束はしない。だって、僕は知りたいもの。たとえ僕自身がその事柄に傷つくとしたって、無知でいる方が耐えられない。そんなの……想兄ちゃんだってそうだよ。……その子だって」
 ちらり、とスリングに視線を投げる。
「大事な人のことなんだから、何でも知りたいって思う。思うでしょ? 水原さんだって」
 呼びかけられても、顔を上げられない。
 燈馬君も、この子も、本当の事を知りたいと思うんだろうか。でも、私は……
「知らない。……知りたくない」
 大きく首を振る。
 森羅君が怒ったように「水原さん」と叫ぶけど。それでも、私は知りたくないし、教えたくない。
「だって、相手のことを知っちゃったら……諦めるのが辛くなるもん……」
 どう考えたって諦めざるを得ない相手なら、未練を残すよりも、さっさと切ってしまった方がいいじゃない。
 身勝手な言い分。だけど、本当に、知らせた所でどうしようもないんだから、お互いに傷つくだけだ。

 森羅君は、私の剣幕に気圧されたのか、それ以上何も言わずに静かに頷いた。
 そうして、またスリングの中を覗くと、悲しそうな微笑みを浮かべて、小さな頭を撫でた。
PR
拍手(現在3種ランダム)web拍手

この記事にコメントする

お名前
タイトル
メール
URL
コメント
絵文字
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
パスワード

 


燈可奈アンソロ企画始めました!ご参加お願いしますっ!(切実)
SSはメインページから
気が向いたときにしか収納されない本サイト(爆)

このサイトについて

Q.E.D.証明終了想可奈無節操二次創作何でも置き場です。
拍手は各記事。拍手レスはコメントにて返させていただきます。
>>>はじめに(リンク等)
>>>通販について

Twitter

結構燈可奈絵をあげたりしてるのでお気軽にフォロミー。

貴方の還る場所(日記)