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some_thing ②

書いてて、コレgrid outと同じような暗い系統だからwebにあげるよりも冊子のみ配布にしたほうがいいんじゃないかなぁ、とかおもってみたり……
ちょっとアレな感じですよね……大丈夫かな……アウト?

でもまぁ上げてしまったものは仕方がないので!!!
続きUPします~




 水原家の玄関で、立ち尽くす。
 正直、どんな顔で水原さんに会えばいいのか解らなかった。
 昨日の今日で。あんなことがあったばかりで。
 ちゃんと話さなきゃいけないという気持ちはあっても、何を、どう尋ねたらいいのか解らない。
 まず事実確認からだろうか。
 何故水原さんはそういう結論に達したのか、その根拠を。言葉の真意を。彼女の気持ちを。
 呼び鈴をならそうと手を伸ばした瞬間、がらがらと扉が開く。
 ずっと佇んでいた僕の気配を、水原さんのお母さんが気付いたようだった。

「燈馬君? どうしたの? 随分早いのね」
「あ……おはようございます」
 普段と変わらない調子で、お母さんはふふふ、と笑った。
 どうやら、水原さんは昨日帰宅した後、特に変わった様子も見せずにいたようだ。何かあったと気付かれていたのであれば、きっと怪訝な顔をされたり門前払いをされたに違いない。

「あの、水原さんは……」
 おずおずと、訊いてみる。
「まだ寝てるのよ。なんか具合悪いみたいね。もしかして約束してたりする?」
「いえ……そういうわけではなくて」
 具合が悪いのは、昨日の行為のせいだろう。
 経験なんてないから、身体にどのような影響を及ぼすかなんて知識でしか無い。ただ、男性と違って女性は身体的負担が大きいだろう。ましてや、あんな無理矢理続けられた行為なんて。
「あの、」
 水原さんに会いたい、そう思って声を掛けようとしたその時。
「母さん、燈馬君来てるの?」
 水原さんが、気怠げに玄関に顔を出した。
 僕が来た気配を感じてすぐに起きてきたらしく、パジャマの上に上着を羽織った状態でふらふらと立っている。
「大丈夫?」
「うん……平気。ちょっと疲れてただけだから」
 心配そうなお母さんに微かに微笑んだ後、こちらに視線を向ける。感情のない、冷たい視線。
「入んなよ。用事があるんだろ?」
「…………はい」
 招かれるまま、僕は玄関に上がり、手を引かれる。

 積もる話があるからさ、と水原さんはお母さんに告げ、居間ではなく、彼女の部屋へと案内される。階段の先を行く水原さんの表情は見えない。ただ床を踏む足音だけが耳に届く。
 部屋のふすまを閉めるまでの間、ずっと無言で。僕はその空気を壊せないまま、指された場所に腰を下ろし、ベッドに座った水原さんの顔を、ようやく見上げた。
 
「どうしたんだよ、青い顔してさ。帰国の準備があるんじゃないの?」
 なんてことの無いような声で、表情もあまり変えずに水原さんは言った。あんな事があったのに、微塵もそれを感じさせない様子で。
 まるで昨日の事が夢だったかのように、水原さんは佇んでいた。
「あぁ、もっかいしたいの?」
 したいの? の言葉を発する瞬間に、昨日の狂気を孕んだような炎を瞳の中に見つける。ほんの一瞬。けれど確かに。
 それだけで、僕の気持ちは昨日に巻き戻る。夢ではなくて現実だと、むざむざと、見せつけられる。
「違います。水原さんの真意を……訊きたくて」
「言ったじゃん、燈馬君が私のことを忘れられないようにしたかったから。それ以上の意味はないよ」
 本当に本当に、まるで今日の予定を伝えるかのように何の気もないかのような、そんな軽い声。
「忘れませんよ、そんなことしなくたって」
「どうだかな。今までだって思考の外に追いやったりしてたじゃん。その瞬間は忘れてるよね」
「それは……」
 言い淀んで言葉が詰まる。
 考え事をする時に集中し過ぎてしまう癖は自覚している。けれどそれを不便に感じたり不都合を覚えたことはないから気にはしていなかった。
 『忘れている』訳ではなくて『考えていない』だけだ。けれど、水原さんはそれを指して僕を責めている。
 どう答えたらいいのか解らない。
 どの答えなら正解なのか。

 何とも言いあぐねている僕に、水原さんは一つ、大きく溜め息を吐いた。『解ってないなぁ』という表情で足の間に着いた手に体重をかけて、こちらに上体を傾ける。きしり、とベッドが音を立て、しんとした室内に響いた。
「……私、別に何かして貰おうと思って燈馬君としたんじゃないよ?」
 何故? と顔を見上げると、ようやく真っ直ぐ目線が合った。昨日見せた妖艶な笑みとも、普段の胸がすくような明るい笑みでもなく、形容しがたい、自嘲めいた微笑みで、僕を覗き込んできた。
「責任とか何とか言って繋ぎとめようとか、帰国を阻止しようとか考えてない。したって無駄だし多分。だから……ただの嫌がらせ。向こうで相手見つけてエッチしようとして、私のことなんか片鱗も思い出さないくらいに相手に溺れるなら仕方ないけど。する度にちらっとでも思い出すならそれでいい。……ずっと悩めばいいんだ」
 表情を崩さずに、淡々と水原さんは言った。
 最後に呟かれた『悩めばいい』の言葉に、水原さんの本音を見つけた気がする。悩ませるために、ああいった暴挙に出たのであれば……効果は抜群だ。悩まない訳がない。けれどあまりにも捨て身過ぎる。
「悩む事が、水原さんへの贖罪になるんですか?……それで、水原さんは幸せなんですか?」
 僕が悩むことと水原さんの身体的苦痛を天秤に掛けた所で、どう考えても釣り合わない。それなのに、水原さんが望むことはそんな目には見えない抽象的な事。それで済んでいい筈がないのに。
「好きな人の心の中に一生消えない傷が残せるなら……自分が残せるなら、悪くないんじゃない? 『一生』ってぇのは私の希望だけど」
 くす、と水原さんは鼻で笑った。
「勘違いしてる。私は、『したかったからしただけ』だよ。傷ついてない。幸せに決まってんじゃん」
 笑いながらも、水原さんの目は笑ってはいなかった。こちらを射貫いたまま。僕がどんな表情でどう返すのかを、一挙手一投足を見逃すまいとでもいうように。余裕ぶっているのに、余裕がないように見える。
「……なら、なんでそんなに苦しそうなんですか?」
 水原さんは、本当に『僕を悩ませる』ということだけを望んでいるのだろうか?
 それ以外には望みは無いのだろうか?
「水原さんとどうなりたいか。……考えたことありませんでした。二人でいるのが普通で、自然で、あまりにも当たり前の事になっていたから。それは、僕がどこに行こうとも変わらないと思ってた。そういう繋がりだと、勝手に思ってました」
 水原さんが豹変したのは、僕が帰国しようかしまいか悩んでいる、と発言した直後だった。
 僕と水原さんの性格上、物理的な距離は変われど関係性は変わる可能性は少ないと勘違いし安心しきって、あの瞬間の水原さんの変化を、よく見ていなかった。
「僕は、水原さんが傷つくのを見たくない。悲しい顔を見たくない。……笑っていて欲しいです。ずっと。僕を恨みながら、僕が水原さんの事を忘れられないでいることを願いながらそんな顔をするのなら、それは……すごく、辛いです」
 僕の不用意な発言で、行動で、水原さんを傷つけていたとするならば謝りたいし糺したい。けれどもう、許しを請える状況ではない。
 どうしたら、水原さんを救えるんだろう。頭の中で何度答えを出そうとしても、いい考えが浮かばない。
 
「どうしろって言うのよ。無理して笑って送り出せって?」
 自嘲的な笑みは絶やさないまま、水原さんは両手をひらひらと振った。
「もう、遅いですか? 僕が水原さんを好きだって認めるのは。同情じゃなくて、本当に大切で……愛しいという事を」
「錯覚だよ。セックスしたから、気持ちよかったから、好きかもって思ってるだけだろ? もしくは無意識で同情してるだけ。その好きは一過性の物だよ。一生モノじゃない」
「順位なんて、そんなものないです」
「燈馬君の一番は、数学だよ」

 数学、と言われて言葉を失う。水原さんも数学も、どちらが一番なんて考えもしなかった。
 気がつけば、水原さんはもう笑っていなかった。眉を寄せぼろぼろと涙を溢し、俯いて肩を震わせている。
「数学には敵わないって、もう判ってんだよ……。もう、放っておいてよ。私はこれでいいって言ってるんだ。……不毛な思いを続けたいと思わないんだ」
 
『捨てられるのが怖いから、その前に捨てるの』
 昨日、去り際に言われた言葉を思い出す。
 水原さんに特別何かをした訳でもない。だからこそ、命題のように繰り返し解いている数学と自分を見比べて、自分には執着がないと感じたのだろう。

 捨てるはずがない。……むしろ、捨てられるなら優柔不断な僕の方だ。どっちつかずな煮え切らない態度で呆れられるに決まっている。

「好きだと思ってくれるならさ……私の事を、忘れないでくれれば、いいよ」
 
 忘れられる筈がないのに。
 この国で唯一と呼べるほどの親友で、近しい存在だった彼女を。
 こんな風にわざわざ深く彼女自身を傷つけてまで、記憶に刻み付けることなんて無かったのに。


 僕はもう、何が正解なのか解らなかった。

 これ以上水原さんを傷つけない為には、彼女の言うとおりにずっと水原さんを想い続けて、悩んで、彼女の目の届かない所で生きていくべきなんだろうか?
 そうすれば、彼女は心安らいでくれるのだろうか?


 俯いたまま、すすり泣く水原さんの細い方をそっと抱いて。
 僕はただ、
「解りました」
 と呟くことしか出来なかった。
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