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some_thing ①

新刊発売日お祝い動画今回つくりませんでしたー!!!!!
楽しみにして下さってた方申し訳ありませんっm(_ _;)m


どうにもこうにも今回この数ヶ月ろくにかいてないというね。情熱はあるけどネタはない、みたいな。五月病的な何かですかね。

けれど本誌の感想絵は描きたいと思う今日この頃。


少し前にちらっと書いてみたヤンデレ可奈ちゃん→燈馬君、のお話をリハビリがてら書いてみようかと書き始めたので、終わるようにと祈りながら尻叩きのつもりであげ始めてみようかと思います。
描写はないけれどそういうシーンはありますのでご注意下さい。
あと燈可奈ではないです。
可奈燈です。
可奈燈です。(大事なので2回)




『some_thing』






「ざまぁみろ」

 表情とはアンバランスな声色で、水原さんはそう言った。
 両肩を押さえていた手が、腕ごとがくがくと震えている。啜り泣くように、彼女は笑っている。

「これで燈馬君が誰と付き合っても、誰としても、私の事を思い出す……忘れさせて、やるもんか……」

 絞り出すように苦しげな声。
 この後に及んでも、僕はどうしていいのか解らなかった。
 背中は床に縫い付けられたように動かない。それは彼女の力だけではなく、多分、僕自身が迷っているせいもあるのだろう。
 救いを求めるように視線を上げると、水原さんの顔が苦々しく歪む。
 瞬間、つきりと、僕の胸の奥に痛みが走った。

『どうしてこんな事を?』

 そう問おうと口を開くけれど、何故か言葉が出てこない。訊きたいことはただそれだけの筈なのに、どう伝えたら良いのか。どういう言葉を発すれば良いのか解らない。
 どうすれば、彼女に「届く」のか。
 人と深く付き合う経験値がほぼ無い僕には、解を出すのがとてつもなく遠く感じた。
 その様子が彼女の目には滑稽に映ったのか、堰を切ったように、急に高らかに笑い声を上げる。
 ……楽しげに?
 いや、感情はそこには見いだせない。
 「笑い声」に聞こえるけれど、状況にも表情にも、その片鱗は感じられない。
 それでも。
 僕はただ、それを組み敷かれた下から眺めているしか出来なくて。哭き声とも取れる「声」を上げている姿を呆然と見つめている。


 髪を振り乱し頭を振る水原さんの身体は、窓から入る夕日のせいで赤く染まっていた。酷く煽情的で、それでいて触れてはいけないような神々しさがあった。この視界から入る情報は本当は夢ではないだろうかと疑ってしまう程。
 あまりにも現実味のない光景。けれど視力以外の感覚から入る生々しい感触は、それが事実だと冷淡に告げるばかり。
 手を伸ばせば白い指が絡まり、吐息を溢せば唇が重なる。あまりに綺麗で。綺麗すぎて。胸が鷲づかみされたように、ずっとつかえて重苦しい。
 頭の奥底だけが冷えて、身体は熱を帯びている。
 その乱暴な熱を、水原さんは僕に口付けるだけでやすやすと暴いていく。
 暴かれる度に、彼女に対する問いかけも、構築していた筈の推論も、何もかもが溶けていく。
 どうしたら? という狼狽えだけが、白く染まっていく意識に染みのように取り残される。
 拒むことも手放しで受け入れることも出来ない僕は、一体、自分でどうしたいんだろう?
 もう自分に理性があるのかすらも、解らなかった。


-----------------------------------


「卒業したら、どうすんの?」
 いつものように僕の自宅で寛ぐ水原さんが、こちらを見ないまま何気ない様に呟いた。

 今は三月。ついぞ今まで進路とかそう言った類いの話をすることはなかった。水原さんからは相談されたりはしていたけれど、いざ自分となると。
 何も考えていない訳では無かったけれど、現状の居心地の良さから柄にもなく迷っていた。アメリカに帰るか、このままで居るか。
 多分ここに来たばかりの僕ならば、想像していた高校生活とはかけ離れた現実に、「こんなものか」と納得をしてしまいまた別の生き方を模索していただろうと思う。
 数学の研究自体はどこでも出来るし、ただその環境をどこで構築するかだけだから決して難しい事では無かったし。
 けれど、水原さんに出会って僕を取り巻いていた世界が一変すると、たちまち世界を構築していた『色』が変わった。
 それまで自分の興味のある物しか色づいて見えなかったのに、全ての物が、事柄が、極彩色に輝きだした。何でも無いようなことが、特別に感じられるようになった。
 それは偏に水原さんのお陰で、僕自身それがとても楽しく魅力的で、そういう環境を手放したくなくて……以前では考えられない合理的ではない理由で、まだこの場所に居たいと感じる僕がいる。
「……まだ、決めかねてます」
「へぇ珍しい。即答しないんだ」
 頬杖をついたまま、水原さんは目線だけをこちらに投げた。
 水原さんには、僕が何を天秤に掛けて悩んでいるかなんて知りようがない。まさか自分が理由の一つとは、思いも寄らないだろう。
「確かに、帰れば最先端の論文をいち早く読めたり、ディスカッションする仲間がすぐ側にいたり、学会に参加する機会が増えて有意義に毎日が過ごせますけど……研究はどこでもできますし。現状に満足したりもしてるんです」
 そう、高校生活と研究の二足のわらじは研究の方がどうしたって遅れてしまうから若干不利ではあったけれど、卒業を控えた現在は高校のカリキュラムに割かれる時間もかなり減り、潤沢に自分のことに使えるように変化した。
 卒業して時間が自由に使えるようになったら、そこまで大幅に日本とアメリカで環境が変わる事はないだろう。

「結局、考えるとこはそこだよね」
「僕は、結局どこまで行っても『数学者』ですから」
 
 研究バカなのは変えられない。
 けれど、研究だけでなく、別の物にも目を向けられるようになった。
 そして、その好奇心を満たせるのは、水原さんがいるからこそだ。
 仮にアメリカに帰ったとしたって、きっと水原さんとは繋がったままだろうことは推測できる。
 ただどうしたって物理的に距離が離れるからこれまでと同じようには出来ないだろう。
 だから僕が悩んでいるのは純粋に「水原さんとの距離」ということになる。
 近いか、遠いか。ただそれだけ。
 水原さんの事だから僕を口実にしてしょっちゅうアメリカに遊びに来そうだけれど、やっぱり隣に常に居てくれるというのは魅力的で。
 でもこんなのはただの僕の我が儘みたいな物だから水原さんには言えないし言いたくない。
 だからずっと、ここの所悩んでいた。
 どちらの方がいいのだろうかと。


「いいじゃん。帰れば? アメリカに」

 水原さんは刺すように、言葉を吐き捨てた。
 変に声が上擦っていて、冷静でないのは丸わかりだ。
 驚いて水原さんの方を向くも、さっきまで向いていた視線が今は自分の足下を見ている。
 何か気に触るような事を言ったかと思い返してみるも、自分自身に心当たりがなかった。
「……何怒ってるんですか?」
「怒ってないよ。ただ、思い知っただけ」
 俯いたままの顔が左右に振れる。表情は見えないままだから、抑揚の強い声だけで判断する。
 今は泣いてはいないけれど、涙が決壊するのは時間の問題だろう。
 だからと言って、僕はそれを宥める術を知らない。長く一緒に居たからといって、水原さんの全てを僕は理解している訳じゃない。
 僕は柄にもなく酷く狼狽えた。
「思い知った、とは?」
「私なんか居なくたって燈馬君は平気だし、私よりも有意義な時間を過ごせる相手だってゴマンといるし……どこまでいっても、私は数学に敵わない。私はただの……そのへんの石ころなんかと同じなんだなって」
 水原さんは、きっと僕の様子を解って言ったのだろう。声は先程とは真逆に歪んで、明るく弾んでいる。端々に苦々しさを込めながら。
「……何の話をしてるんですか?」
 目的が、理解できない。
 僕を戸惑わせるつもりでそんな話をしているのだろうか? それとも何かの比喩表現なのだろうか?
 のろのろと立ち上がった僕に、水原さんは口角を上げた顔を、ようやくこちらに向けた。目だけ笑ってはいない。前髪を掻き上げながらじっとこちらを射抜くように見つめて吐息を溢す。
 その仕草に、何故か胸がざわりと騒ぐ。
 まるで警告のように、速度を上げた鼓動が、頭の中で反響している。
「きっとこのままアメリカに帰って、大好きな数学のお勉強をして、こっちの三年間なんかすぐに忘れて、向こうで話の解る彼女を作って……私の事なんか思い出しもしないだろ?」
「何言って……」
 無意識に後ずさった弾みで、後ろの机に踵が当たり、がたんと大きな音を立てた。それに僕が怯むのを、水原さんは見逃さなかった。

 不意に、両肩を掴まれ床に倒される。強かに頭と背を打ったはずだけれどカーペットがあるためそこまで衝撃は走らない。それに身体的な衝撃よりも精神的な衝撃の方が僕には勝った。痛いと思うより先に、何故? という驚きが脳内を占めた。

 身体能力から言えば多分水原さんに敵わない。必死で抵抗すれば或いはどうにか出来るのだろうけれど、何故僕を押し倒したのか、押さえつけているのか、それが解らないうちは出来るだけ刺激をしたくなかった。
 危害を加えるということは考えられない。コミュニケーションの一環として殴られたりもあったけれど、こんな切羽詰まった空気を纏ってそういったことをする水原さんでは無い。
 ならば、どういうつもりでこうなったのだろうか。
 見上げた表情は、相変わらずに笑っているけれど影を帯びている。
 瞳に光を映さないまま、あ、そっか、と水原さんは軽い声を上げた。
「忘れちゃうんなら、忘れられないようにすればいいんだ」
「嫌なら抵抗してもいいよ。力尽くでさせないけど」
 そう言って体勢を変え、僕に跨がるように水原さんはのし掛かる。
 抵抗してもいいよ、の言葉通り、彼女は拘束したりはしなかった。逃げようと思えば逃げられる。けれど僕は、投げ出された手足をそのままに、ただ呆然と水原さんを眺めていた。
 白昼夢でも見ているんじゃないだろうか、と思った。
 あまりにも現実味のない光景で。

 夕日を背に浴びた水原さんの髪が、身体が、淡く赤みを帯びて発光している。
 着崩された襟元から見える首筋の産毛の一本一本に、光が灯っているようで。
 その姿はあまりにも妖艶で、目を逸らすことが出来なかった。
 ただ、綺麗だと、そう思った。

 動物としての本能なのか、理性が残った上なのか、それすら今の僕には理解が出来なかった。水原さんの事は好きだけれど、それがどういったものなのかまでは未だに自分自身で整理しきれていない。
 他の男性からどのように見えていたのかは知っていた。けれど近すぎたせいなのだろうか。有り余る魅力に対して、僕は手を出そうと思わなかった。
 これからどんなことが自分の身に起きるかなんて、理解している。
 拒否しなければいけないということも。
 けれど指一本すら、僕は動かなかった。












「……燈馬君は、私を好きかどうか解んないんだよ。大事に思ってんだろうな、てぇのは理解できる。でもそれだけ。私は一番じゃないから。だからどんなに天秤にかけようが簡単に切り捨てられる」

 ぼうっとする意識の外で、水原さんの声が響いた。
 さっきまで重厚に漂っていた空気や熱気はほんのり冷えて、いつもの静けさと本のすえたような香りに戻り始めている。

「毎日側に居るんだったらそれでもいいと思ってた。だけどアンタがアメリカ行っちゃったら、もう、アンタの中に私の入る余地なんか無いじゃない……」

 水原さんの言葉が、上手く自分の中に入っては来ない。
 多分、水原さんは僕が聞いているとは思っていないから、彼女の感情を吐露しているんだろうな、と思う。
 だったら、きっとそこに、僕の知りたかった答えがあるはずだ。
 けれど、天井だけがただただ遠くて。
 瞼が重くて。
 思考を巡らせようとしても、叶わない。

「切り捨てた覚えなんて……ないです……」

 唯一拾えた言葉に、なんとか反論をして見たけれど、水原さんは悲しそうに一瞬顔を覗き込んだだけで、ふいと視線を逸らし、踵を返した。


「捨てられるのが怖いから、その前に捨てるの」


 そう言い放った水原さんの顔を、僕は見ることが出来なかった。冷たい氷のような言葉の刃先が、胸を貫いたまま消えない。
 けれど、どうしても。
 僕はもう、目を開いていることが出来なかった。
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