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realize

改めまして。明けましておめでとうございます。
新年早々体調崩してぐっだぐだな月真でございます……
冬コミレポもまとめたいしやりたいことづくしなんですがままならない……うううorz


そんなわけで更新がないのも何なので、お礼状として夏コミ~冬コミ前にかけて通販分に付けてたSSなんぞを。

実は毎回通販の方には新刊に沿った四コマかSSを送りつけていたのでした。
今回は冬コミでペーパー配れなかったのでお渡しするSSは現在注文受けてる分を発送したらブログで出すつもりだったりしますですっ。よろしくお願いします。





「realize」



「楽しそうですね」
 鼻歌を歌いながら雑誌を捲る水原さんに、僕は思わず声をかけた。
「まぁねぇ。プレゼントとか選んでる時が一番楽しいし」
「誰かにあげるんですか?」
「うん、香坂がねぇ、もうすぐ誕生日なんだぁ……」
 手元から目を離さずに、寝転がって上がっている足がパタパタと動く。
 フローリングの冷たい感触がいいのか、水原さんはうちに上がり込むと大体デスクからちょっと離れた先の床に寝転がる。まだ知り合ってから数ヶ月だというのにこの寛ぎ方はおかしいんじゃないかと問いたいけれど、それを口にしたら大変な目に遭うのは目に見えている。
 言いたい気持ちをぐっと堪えて、僕はまたパソコンの画面に視線を戻した。

「アメリカの、さぁ」
 不意に、水原さんが僕に対して呼びかける。
「何ですか?」
「アメリカとかってなんかホームパーティーとか多いんでしょ? 誕生会とかどんなのやんの?」
「そうですね……」
 思い返しても、誕生会の記憶はあまりない。MIT時代のゼミやらロキ関係の友人周りならば多少の経験はあるけれど、自分自身が祝われる側、というのはあまり経験していなかった。
「……僕には経験があまりないので参考になるような楽しい話はないですよ?」
「えー、アメリカ生まれアメリカ育ちのくせに?」
「偏見ですよね、ソレ」
 いつの間にかすぐ近くまで来ていたようで、パソコンの画面の向こう側からぬっと三角の目が現れた。
「……アンタ、誕生日祝われた事ないの?」
「いえ……無いわけじゃないですけど。両親も毎回居るわけでもなかったですし、同年代の友人も早いうちにいなくなりましたから、家政婦さんや妹、大学時代の友人くらいには祝われてますよ」
 ああでもここ数年はそうでもないか、祝うようなものでもないし。と思い出して口に出すと、キリキリと音を立てているかのように、水原さんの目尻がどんどんつり上がっていく。
「誕生日、いつよ」
「え……六月の……、」
「終わってんじゃん! もっと早く言えよ!!」
「その頃水原さん僕のこと認識してませんでしたよね!」
 売り言葉に買い言葉の要領で、僕の語尾も自然と強くなる。
 水原さんは僕の言うことを聞いて「それもそうか」ところりと態度を変える。拍子が抜けて呆気にとられてしまう。……水原さんは、いつも予想外の反応をして掴みづらくて話していて疲れる。
「今年のはお祝いとかしなかったの?」
「そうですね。まだゴタゴタしてましたし」
 向こうから送った荷物の荷解きも程々に学校生活を開始したものだから、全部が片付いたのがつい最近。当の水原さんに怒られながらペースアップしたのだからその辺は推して知るべしだろう。
「じゃあ、今日やるか」
「は?」
 唐突に言われて、僕は思わず目を見開いた。
 にやり、と水原さんの口角が上がる。
「十六歳の誕生日は一回しかないんだよ!」
「そりゃ誕生日は一年に一回ですから。てか、もう過ぎてます」
「『誕生日』は過ぎてるけど『誕生会』はいつやったって構わないじゃん」
「強引な理屈ですねぇ」
 眉をしかめる僕に対してまぁまぁと手をひらひらとさせながら、水原さんは携帯電話をさっと取り出した。話の内容から察するに多分、水原さんちにかけているのだろう。「あのね、燈馬君のね」から始まった電話はものの数分で用件がまとまって、また元の場所に携帯をしまった彼女がニコニコと笑う。
「まぁ、急だったからさ、今日の所はうちでご飯で許してよ! 母さんも父さんも大歓迎だってさ。夕飯ごちそうにしてくれるってから、ケーキ買ってウチに行こう!」
 すぐに回れ右をして自分の広げた私物を鞄に押し込んでいく後ろ姿に、僕はどう声をかけたらいいのか迷いながら、辛うじてなんとか、不満を口にする。
「あの……僕は一言もいいって言ってないです、よ」
 口にして、若干の居心地の悪さが残る。なんだか、拗ねている子どものような言い分だ。
「来年こそはきちんとお祝いするからさ。可奈ちゃん特製ケーキだって何だって作ってやるから」
 水原さんは気にすることもなく、もしかしたら聞かなかったフリをしたのか、背を向けたまま楽しそうに言う。鼻歌交じりでささっと片付けて、燈馬君も早く早く、と振り返って僕を急かす。
「一人で誕生日も祝わないなんて寂しいじゃん……だから、祝うようなもんじゃないなんて言うなよな」
 慌てて準備する僕の背中から、ぼそっと、彼女の本音が聞こえた。

 水原さんは、僕を心配してくれているんだろうか。……なんて強引な優しさなんだろう。思えば、強引でないことなんて水原さんにあっただろうか? 僕が他人からの好意や親切を素直に受け取らないから、強引にならざるを得ないのか。それでも受け取らないという可能性は考えないのだろうか。否、そもそも、僕自身が毎回なんだかんだと受け取っていて……受け取らない自分なんて、考えもつかない。
 それは、何故だろう。
 それは、僕が水原さんに対して、好意を抱いているということなのだろうか。


 玄関先で僕が来るのを、水原さんは待っている。その姿を見て、僕は胸が暖かくなるのを感じる。あぁ、これが。この気持ちは、好意というものなんだな、と理解する。

 肩を並べて歩くさまも、話すときに真っ直ぐ射貫くその視線も、颯爽と歩く姿も。全て。いつの間にやら、僕には大事な物になっていたんだと気付く。水原さんから与えられる小さな気づきは自覚があるのに……こういう気づきはなんで遅かったんだろう。

「水原さん」
「ん?」
 呼び止められて振り返る。夕日に染まった髪や顔が映えて、綺麗だなぁと純粋に思った。また一つ、僕は気付いた。
「水原さんて、誕生日いつなんですか?」
「四月三日。アンタよりお姉さんなんだぞ、敬えっ」
「もう僕だって同い年じゃないですか」
 手に持ったケーキの箱がふらふらと揺れる。僕に寄ったり、彼女に寄ったり。
 他愛の無いことばかりを話していたら、もうあっという間に水原さんの家の前だ。
「燈馬君」
「なんですか?」
 玄関を開ける前に、水原さんが声をかけてきた。
「十六歳おめでとう」
 満面の笑み。
 誕生日でも何でも無い日に……言われて悪い気はしない。
「ありがとうございます」
 僕がそう応えると、水原さんは満足げに頷いて玄関をがらがらと開いた。



















(燈馬君が迷路を抜ける前の話)
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