ジューンブライド②
新刊と本誌のダブルパンチでくらくらしてました。。。。あああ燈馬君格好いい……
当日落書きした物はコチラ ※本誌(iff第3話)ネタバレです→1 / 2
20150624追加。3/4
こんなお話にするつもりなかったのになぁ、と言う方向にどんどん向かってしまってどうしていいやら。まだ続きます。
燈馬君も私もお互い溜まった仕事を片付けるのに精一杯で、帰国してからロクに顔を合わせないまま数日が経過した。
あんな話をした割には特に何の変化もなくて。まぁ変化があったらそれは本意ではないんだけれど。もしかして忘れてんじゃないのかなぁ、とかふと思って、私は仕事帰りに電話をかけてみた。
いつも通りに三コールも待たずに、燈馬君は電話を取った。
「よ、燈馬君。この前ぶり!」
微かに笑うような気配の後、落ち着いたトーンの声が受話器越しに聞こえる。
「今晩は水原さん。今帰りですか?」
「うん。今平気?」
「大丈夫ですよ」
耳元で優しい低音が響く。
もう何年も同じやりとりをしているけれど、何度やっていても飽きはしない。私は何気ないこのやりとりが好きだった。
「この前のことなんだけどさ。いつやる?」
瞬間、息を呑む音が聞こえて言葉が止まる。
「……あれ、本気なんですか?」
気乗りがしない、という感情が籠もった、若干重みのある声だった。
「いいと思ったから言ったんじゃん。それとも燈馬君は冗談で『結婚してくれますか?』って聞いたの?」
溜め息の後にいいえ、と短く答えたのを聞いて、なんだよ、と思うと同時に、僅かに私の胸は痛んだ。……なんで痛んだのかは判らない。
「明日明後日休みじゃん? 書類自体はどっちかで私持って行くから一緒に書けるけど、折角だから、燈馬君の誕生日とかに届け出そうか?」
偶然にも、幸いにして、今は燈馬君の誕生月だ。合わせて出しても手間的にそんなに変わらない。
思い立ってからまだ一週間しか経ってないけれど、やろうと思えば多分、さくっと出来るだろう。
「……お任せします」
答える声が、さっきよりもさらに低い。
何だろう、呆れられたりしているのとはまた違う空気を感じる。
「何よ、やっぱり気が乗らない? ……止める?」
私の声も、出してみたら感染したかのように不安げに揺れていた。
もし燈馬君が嫌なら、私は多分、ショックなんだろうと思う。拒絶されたような気になって。燈馬君の隣に立つ資格がないと突き付けられたようで。
名義だけでもとかいう話をしていたにも関わらず、なんて傲慢なんだろう。
燈馬君は私だけのものってワケじゃないのに。
思ったよりも私自身が動揺していて、私はなんとも言えない気分になった。
燈馬君はそんな私の様子が電話越しでも解ったのか、焦ってさっきの返事を言い直した。
「いえ、そういうワケでは……水原さんが言い出した事なので水原さんに全部任せます」
気を遣っているのが丸わかりだ。
取り繕うように、私もわざと明るく振舞う。
「そう? ……んー、じゃあやっぱり覚えやすいし誕生日にしちゃうよ?」
……おかしい。そんな、お互いに変に気を遣う関係にしてしまうつもりは無かったのに。
ただ、二人の関係の呼称だけを、変えるつもりだったのに。
「一緒に出しに行こっか? なんか新婚っぽいじゃん?」
「都合がつけば付き合いますよ」
「つれないなァ」
「水原さんにずっとからかわれながら1日過ごすのも、悪くはないですけどね」
お互いに言いながら笑い、取り敢えず明日会おうと約束を取り付けて電話を切る。
なんか、長引けば長引くほどボロが出そうな気がして、こちらから、さっさと。
通話が終わって真っ黒になった携帯画面をじいっと見つめる。
どうしても、違和感の正体が、気になる。
確かに元々打算的な話だったし、燈馬君や自分の気持ちなんて二の次にしてたのかもしれない。いくら利便性を考えた便宜上とは言っても、年齢的にこういう関係というのは微妙だろう。
身体だけの関係、というのは聞いたことがあるけど、紙切れだけの関係というのはあまり聞かない。いや、仮面夫婦とかそういうのに当たるのか。でも、別に二人の仲が本当に計略だけで繋がっていて冷え切ってるわけではないし。言葉に表すには、私の言い出した関係は、難しいのかもしれない。
酔った頭で考えた計画は、口にした当初は名案だと思ったしさっきまでずっとそう思っていた。
だってこの先結婚するつもりも予定も無いんだったら、そういう同盟みたいなものを結んだって害はないじゃない?
だけど、冷静に思い出してみると、燈馬君も同じ考えなのかは訊いていない。
果たして燈馬君はどう考えているのだろう?
……もしかして、こんな軽はずみな計画に、燈馬君は仕方なしに付き合ってくれてるんじゃないだろうか…………
考えれば考える程、私の背筋は不安で凍る。
……でも、燈馬君は、いいって言ってくれた。
自然と狭くなった歩幅を、また改めて広げて歩く。
どうせ、明日また話すし現物を見るし、その時にまた考えれば良いことだ。
私は携帯を鞄にしまうと、真っ直ぐに自分の部屋へと向かって行った。
次の日。
私は一足先に書類を窓口で受取り、燈馬君の家に向かった。
朝から雨は続いていたし、どうせ書くのはうちでやるんだし、こんな所から二人一緒で! なんて浮かれてるみたいな気がして気恥ずかしかった。いや断じて浮かれてなんかいない。楽しんでいるのであって。
要するに、ごっこ遊びの延長だ。実際に公的に書類を出しはするけれど、本人たちが本気でない限りはおままごとみたいなもの。お互いに了承しているのであれば何にも問題がないはず。
……だから、きっと昨日感じた違和感なんて気のせいだろう。燈馬君と直に会って話せば、そんなの消え失せてしまうくらいの、そういうものなんだろう。
私はうんうんと頷きながら、燈馬君のうちの入り口に向かい立った。
「燈馬君、来たよ」
返事を待たずに、いつものように私は燈馬君ちのドアをがちゃりと開ける。
黴たような、甘いような、古書特有の紙の香りが開けた隙間から外へ逃げていく。外気とは違う、空気の密度。紛れも無い、燈馬君の匂いだ。
梅雨時で外は雨だというのに、室内は空調が行き届いていて不快感はまるでない。いつもながら完璧な湿度管理だ。
階段を降りながら、部屋の隅で本に埋もれるようにしている燈馬君を、探し当てる。
難しい顔をしながら俯いていたけれど、私の声に気がついたのか、こちらを見て、手を振った。
仕事中なら邪魔しちゃ悪いかなぁと思ったけど、私が荷物をテーブルに置くのを見ながらゆっくりとこちらに寄ってきた。
「書類、貰ってきたんですか?」
「うん。取れるもんはね」
こっちに居ますとかそういうのは聞いたけど、実際燈馬君の戸籍とかそういうのは全く知らない。
アランに国籍がどうたらとか言われた時に不安になったりはしたけれど、本人の言葉で「大丈夫」といざその時になって言われたら途端に安心してしまった。
結局そのままになっちゃったので、自分の分は用意して、燈馬君のは燈馬君に任せようと思って、そのように説明する。
自分の本籍があるとこに出すなら戸籍謄本は要らないとか、証人二人に書いてもらう欄があるとか、多分燈馬君は知ってるだろうなぁと思うことを、窓口で聞いたままに私は伝えた。
燈馬君は一つ一つに素直に頷きながら、私が指差す先を見る。普段とは全く逆の姿に、私は思わず吹き出してしまった。
「……何ですか?」
怪訝そうに、燈馬君が睨む。
その顔も、また可愛くて、面白い。
身体の震えを何とか止めて、私はごめんごめんと手を振った。
「いつも私が教わってるのに、燈馬君に私が教えてるみたいで、おかしくて……」
くすくすとまだ肩が震える私に、燈馬君は心外そうに口を尖らせていた。
「実物を見たりするのは、初めてですから」
なんとか一通りの説明はし終わって、私は自分の名前やら住所やらを書いた。
くるりとペンを燈馬君に向けると、燈馬君もさらさらと淀みなく書き上げていく。
燈馬想と水原可奈。
几帳面な字と、丁寧に書いたつもりでも結構くせの出ている字。
隣り合って並ぶ二人の名前。
改めてこうやって見ると、なんだか急激に恥ずかしくなってきた。
「なんか、ホントに夫婦みたいだね」
「本当も何も……これを出せば紛れもなく夫婦になるんですけど」
照れ隠しで呟いた言葉に反応してこちらを振り返る、横顔。
その目は僅かに尖った言葉のワリに優しくて。急に、昨日の胸の痛みを思い出した。
本当に、燈馬君は、こんなことを望んでいるんだろうか。
「…ごめんね」
無意識に、私は謝っていた。
「私の思いつきに付き合わせちゃってさ。いくら拘束無しって言ってもどうしたって私の名前がついて回るじゃん? 書類として正式に出しちゃえば、何があろうと一生燈馬君の戸籍とかに私が載る。汚しちゃう。ホント、もし嫌なら、まだ間に合うし!!!」
「水原さんに振り回されるのなんて、今に始まった事じゃないでしょう? 迷惑なんて思ってませんよ」
俯いてた私の頭に、燈馬君はぽんぽんと手を乗せた。
「水原さんにずっとついていきますから、安心して下さい」
優しい、優しい声でそう言われると、涙がぼろぼろ零れそうになる。いつも、私は燈馬君に頼りっきりになってしまう。
罪悪感が胸を占め始めて、辛うじて、私は、燈馬君を自由にするための言葉を口にする。
「もし燈馬君に好きな人が出来たらすぐに言ってね。せめて、燈馬君の迷惑にならないようにしたいんだ」
私なんかの我が儘のために、燈馬君を不幸にしたくない。
「…………心配しなくて大丈夫ですよ」
燈馬君は、まだ、私の頭を撫でてくれていた。
撫でながら、掠れる声で私を慰めている。
安易な思いつきで、気楽に、考えていたはずなのに。なんで、こうなっちゃったんだろう?
数日後、私と燈馬君が書いた書類は、無事受理された。
おめでとうございますと言われるのはくすぐったかったけれど、燈馬君も隣で笑ってくれていたので、私も、笑顔で応えることにした。
幸福感はあるのに、胸は痛いままだ。でも気付かれないように、それは隠して。
なんとなく、私は書いた婚姻届を燈馬君には内緒にして、コピーして手元に残していた。
なんか、記念みたいにしているのを見られたら恥ずかしい気がしたから。
私は、それをこっそり綺麗に折って、お守りのようにいつも持ち歩くことにした。
当日落書きした物はコチラ ※本誌(iff第3話)ネタバレです→1 / 2
20150624追加。3/4
こんなお話にするつもりなかったのになぁ、と言う方向にどんどん向かってしまってどうしていいやら。まだ続きます。
燈馬君も私もお互い溜まった仕事を片付けるのに精一杯で、帰国してからロクに顔を合わせないまま数日が経過した。
あんな話をした割には特に何の変化もなくて。まぁ変化があったらそれは本意ではないんだけれど。もしかして忘れてんじゃないのかなぁ、とかふと思って、私は仕事帰りに電話をかけてみた。
いつも通りに三コールも待たずに、燈馬君は電話を取った。
「よ、燈馬君。この前ぶり!」
微かに笑うような気配の後、落ち着いたトーンの声が受話器越しに聞こえる。
「今晩は水原さん。今帰りですか?」
「うん。今平気?」
「大丈夫ですよ」
耳元で優しい低音が響く。
もう何年も同じやりとりをしているけれど、何度やっていても飽きはしない。私は何気ないこのやりとりが好きだった。
「この前のことなんだけどさ。いつやる?」
瞬間、息を呑む音が聞こえて言葉が止まる。
「……あれ、本気なんですか?」
気乗りがしない、という感情が籠もった、若干重みのある声だった。
「いいと思ったから言ったんじゃん。それとも燈馬君は冗談で『結婚してくれますか?』って聞いたの?」
溜め息の後にいいえ、と短く答えたのを聞いて、なんだよ、と思うと同時に、僅かに私の胸は痛んだ。……なんで痛んだのかは判らない。
「明日明後日休みじゃん? 書類自体はどっちかで私持って行くから一緒に書けるけど、折角だから、燈馬君の誕生日とかに届け出そうか?」
偶然にも、幸いにして、今は燈馬君の誕生月だ。合わせて出しても手間的にそんなに変わらない。
思い立ってからまだ一週間しか経ってないけれど、やろうと思えば多分、さくっと出来るだろう。
「……お任せします」
答える声が、さっきよりもさらに低い。
何だろう、呆れられたりしているのとはまた違う空気を感じる。
「何よ、やっぱり気が乗らない? ……止める?」
私の声も、出してみたら感染したかのように不安げに揺れていた。
もし燈馬君が嫌なら、私は多分、ショックなんだろうと思う。拒絶されたような気になって。燈馬君の隣に立つ資格がないと突き付けられたようで。
名義だけでもとかいう話をしていたにも関わらず、なんて傲慢なんだろう。
燈馬君は私だけのものってワケじゃないのに。
思ったよりも私自身が動揺していて、私はなんとも言えない気分になった。
燈馬君はそんな私の様子が電話越しでも解ったのか、焦ってさっきの返事を言い直した。
「いえ、そういうワケでは……水原さんが言い出した事なので水原さんに全部任せます」
気を遣っているのが丸わかりだ。
取り繕うように、私もわざと明るく振舞う。
「そう? ……んー、じゃあやっぱり覚えやすいし誕生日にしちゃうよ?」
……おかしい。そんな、お互いに変に気を遣う関係にしてしまうつもりは無かったのに。
ただ、二人の関係の呼称だけを、変えるつもりだったのに。
「一緒に出しに行こっか? なんか新婚っぽいじゃん?」
「都合がつけば付き合いますよ」
「つれないなァ」
「水原さんにずっとからかわれながら1日過ごすのも、悪くはないですけどね」
お互いに言いながら笑い、取り敢えず明日会おうと約束を取り付けて電話を切る。
なんか、長引けば長引くほどボロが出そうな気がして、こちらから、さっさと。
通話が終わって真っ黒になった携帯画面をじいっと見つめる。
どうしても、違和感の正体が、気になる。
確かに元々打算的な話だったし、燈馬君や自分の気持ちなんて二の次にしてたのかもしれない。いくら利便性を考えた便宜上とは言っても、年齢的にこういう関係というのは微妙だろう。
身体だけの関係、というのは聞いたことがあるけど、紙切れだけの関係というのはあまり聞かない。いや、仮面夫婦とかそういうのに当たるのか。でも、別に二人の仲が本当に計略だけで繋がっていて冷え切ってるわけではないし。言葉に表すには、私の言い出した関係は、難しいのかもしれない。
酔った頭で考えた計画は、口にした当初は名案だと思ったしさっきまでずっとそう思っていた。
だってこの先結婚するつもりも予定も無いんだったら、そういう同盟みたいなものを結んだって害はないじゃない?
だけど、冷静に思い出してみると、燈馬君も同じ考えなのかは訊いていない。
果たして燈馬君はどう考えているのだろう?
……もしかして、こんな軽はずみな計画に、燈馬君は仕方なしに付き合ってくれてるんじゃないだろうか…………
考えれば考える程、私の背筋は不安で凍る。
……でも、燈馬君は、いいって言ってくれた。
自然と狭くなった歩幅を、また改めて広げて歩く。
どうせ、明日また話すし現物を見るし、その時にまた考えれば良いことだ。
私は携帯を鞄にしまうと、真っ直ぐに自分の部屋へと向かって行った。
次の日。
私は一足先に書類を窓口で受取り、燈馬君の家に向かった。
朝から雨は続いていたし、どうせ書くのはうちでやるんだし、こんな所から二人一緒で! なんて浮かれてるみたいな気がして気恥ずかしかった。いや断じて浮かれてなんかいない。楽しんでいるのであって。
要するに、ごっこ遊びの延長だ。実際に公的に書類を出しはするけれど、本人たちが本気でない限りはおままごとみたいなもの。お互いに了承しているのであれば何にも問題がないはず。
……だから、きっと昨日感じた違和感なんて気のせいだろう。燈馬君と直に会って話せば、そんなの消え失せてしまうくらいの、そういうものなんだろう。
私はうんうんと頷きながら、燈馬君のうちの入り口に向かい立った。
「燈馬君、来たよ」
返事を待たずに、いつものように私は燈馬君ちのドアをがちゃりと開ける。
黴たような、甘いような、古書特有の紙の香りが開けた隙間から外へ逃げていく。外気とは違う、空気の密度。紛れも無い、燈馬君の匂いだ。
梅雨時で外は雨だというのに、室内は空調が行き届いていて不快感はまるでない。いつもながら完璧な湿度管理だ。
階段を降りながら、部屋の隅で本に埋もれるようにしている燈馬君を、探し当てる。
難しい顔をしながら俯いていたけれど、私の声に気がついたのか、こちらを見て、手を振った。
仕事中なら邪魔しちゃ悪いかなぁと思ったけど、私が荷物をテーブルに置くのを見ながらゆっくりとこちらに寄ってきた。
「書類、貰ってきたんですか?」
「うん。取れるもんはね」
こっちに居ますとかそういうのは聞いたけど、実際燈馬君の戸籍とかそういうのは全く知らない。
アランに国籍がどうたらとか言われた時に不安になったりはしたけれど、本人の言葉で「大丈夫」といざその時になって言われたら途端に安心してしまった。
結局そのままになっちゃったので、自分の分は用意して、燈馬君のは燈馬君に任せようと思って、そのように説明する。
自分の本籍があるとこに出すなら戸籍謄本は要らないとか、証人二人に書いてもらう欄があるとか、多分燈馬君は知ってるだろうなぁと思うことを、窓口で聞いたままに私は伝えた。
燈馬君は一つ一つに素直に頷きながら、私が指差す先を見る。普段とは全く逆の姿に、私は思わず吹き出してしまった。
「……何ですか?」
怪訝そうに、燈馬君が睨む。
その顔も、また可愛くて、面白い。
身体の震えを何とか止めて、私はごめんごめんと手を振った。
「いつも私が教わってるのに、燈馬君に私が教えてるみたいで、おかしくて……」
くすくすとまだ肩が震える私に、燈馬君は心外そうに口を尖らせていた。
「実物を見たりするのは、初めてですから」
なんとか一通りの説明はし終わって、私は自分の名前やら住所やらを書いた。
くるりとペンを燈馬君に向けると、燈馬君もさらさらと淀みなく書き上げていく。
燈馬想と水原可奈。
几帳面な字と、丁寧に書いたつもりでも結構くせの出ている字。
隣り合って並ぶ二人の名前。
改めてこうやって見ると、なんだか急激に恥ずかしくなってきた。
「なんか、ホントに夫婦みたいだね」
「本当も何も……これを出せば紛れもなく夫婦になるんですけど」
照れ隠しで呟いた言葉に反応してこちらを振り返る、横顔。
その目は僅かに尖った言葉のワリに優しくて。急に、昨日の胸の痛みを思い出した。
本当に、燈馬君は、こんなことを望んでいるんだろうか。
「…ごめんね」
無意識に、私は謝っていた。
「私の思いつきに付き合わせちゃってさ。いくら拘束無しって言ってもどうしたって私の名前がついて回るじゃん? 書類として正式に出しちゃえば、何があろうと一生燈馬君の戸籍とかに私が載る。汚しちゃう。ホント、もし嫌なら、まだ間に合うし!!!」
「水原さんに振り回されるのなんて、今に始まった事じゃないでしょう? 迷惑なんて思ってませんよ」
俯いてた私の頭に、燈馬君はぽんぽんと手を乗せた。
「水原さんにずっとついていきますから、安心して下さい」
優しい、優しい声でそう言われると、涙がぼろぼろ零れそうになる。いつも、私は燈馬君に頼りっきりになってしまう。
罪悪感が胸を占め始めて、辛うじて、私は、燈馬君を自由にするための言葉を口にする。
「もし燈馬君に好きな人が出来たらすぐに言ってね。せめて、燈馬君の迷惑にならないようにしたいんだ」
私なんかの我が儘のために、燈馬君を不幸にしたくない。
「…………心配しなくて大丈夫ですよ」
燈馬君は、まだ、私の頭を撫でてくれていた。
撫でながら、掠れる声で私を慰めている。
安易な思いつきで、気楽に、考えていたはずなのに。なんで、こうなっちゃったんだろう?
数日後、私と燈馬君が書いた書類は、無事受理された。
おめでとうございますと言われるのはくすぐったかったけれど、燈馬君も隣で笑ってくれていたので、私も、笑顔で応えることにした。
幸福感はあるのに、胸は痛いままだ。でも気付かれないように、それは隠して。
なんとなく、私は書いた婚姻届を燈馬君には内緒にして、コピーして手元に残していた。
なんか、記念みたいにしているのを見られたら恥ずかしい気がしたから。
私は、それをこっそり綺麗に折って、お守りのようにいつも持ち歩くことにした。
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