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エントロピー

微睡んでる二人を書きたかったんですが、
なんか違うようなと思いつつ。







「寒い!」
 耳元でその声を拾ったのは、もそもそと布団の端が動いて何やら自分以外の異物がぴたりと身体を寄せてきてからだった。
 まだ寝入り端でゆるゆると意識を混濁させていたところだったので、隙間から入る空気やひやりとした肌触りでいとも簡単に眠気は遠退く。

「……何してるんですか?」
 暖を取っているだろう相手に、訊いてみる。
「燈馬君が寂しいかと思って」

 思ってもいないだろう事をいけしゃあしゃあと呟いて、冷え切った手で放熱している手を取った。
 あーあったかい生き返るー、と幸せそうに布団の中で空気が跳ねた。

「水原さん」
「何?」
「ここはどこですか?」
 分かりきったことを訊いてみる。
「燈馬君ちだね」
「もっと範囲を狭めて下さい」
「燈馬君ちの布団だね」
 布団だね、じゃないですよ。何考えてるんですか。
 一般的に友人関係の男女で同衾なんてありえないでしょうが。
 何も考えてないようにあっけらかんと答える可奈に、燈馬はぎりぎりと胃が締め付けられるようだった。
「水原さんは向こうで寝るって毛布とか勝手に持って行ったじゃないですか。それに空調効いてるから寒いはずないですよね?」
「いいじゃん細かいことはさ」
 ぎゅ、と手を強く握られる。
 眠さで火照った掌に冷たい手指が心地よい。
「手を繋いで寝たくなったんだよ、なんとなく」
 寂しいのは水原さんの方じゃないですか。そう思っても口に出さず。
 可奈はこつんと燈馬の肩に頭を寄せた。

 布団の中はいつの間にか端と端の温度差が無くなり、ぼんやり全体が暖かい。
 体温を奪われているのか。分けあっているのか。どちらなんだろうな、と考えるうちに程よくまた眠くなる。
 普通なら異性がすぐ至近距離でいる状況で眠れる訳なんてないのだろうけれど、暖まった手から伝わる熱が緊張を解してしまったのかもしれない。

 人の体温は優しい。じんわりと暖かい。それを知ったのはこの瞬間ではなく、何気なく取られた手であったり、寄りかかられた肩であったり、心配をかけて抱き締められたりした時。一人でいた時には知らなかったその温もりが、心にも身体にも伝わる。
 教えてくれたのは、現在進行形で熱を共有している可奈だ。
 この少女は、常識や理屈などを軽々と超越し、それをさも当然といった具合に行使する。
 だから多分。こういう場合でも性的な雰囲気にならないのは当然だ。彼女がそう望んでした行為ではないから。

 傍らから、規則正しい寝息が聞こえる。
「水原さん、寝ちゃいましたか?」
 寄せられた顔を覗き込むと、幸せそうに目を閉じて微笑む姿が目に入る。

 水原さんも、同じように僕の体温が心地良いのだろうか。
 同じように、幸せな気分になるのだろうか。

 ほんの少しだけ、身体を寄せて。
 暖かさに感謝をしながら目を閉じる。

 目が覚めた時に、二人で幸せな気持ちを共有する為に。







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