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傾き10度(可奈燈)

久しぶりに文章書きました。
でも、なんだかえらく文の雰囲気が違くないかしら(汗

以前漫画で描こうと思ってたネタだったんですが、冒頭の書き出しがするりと出来てしまいまして、そこからどういう話をつなげようかなぁと考えて、つなげてしまいました。

しかし、漫画で描こうと思ってたのとこれとだとラストが全然違う……
いや、まぁ燈馬君のキャラ自体が違うので当然なんですが。



どうして漫画と文章のキャラがこんなに違っちゃうのかなぁ。
自分でギャップに右往左往。



設定としてはお付き合い始まりなんで■にしてありますが、文章的には□に近い糖度ですです。
なんか、続きそうな感じ。






 気持ちに気付くと貪欲になる。
 ましてや、相手も同じだと解ると、さらに。

 独占欲とか、そういう諸々、いろんなものがもやもや渦巻く。
 以前からなかったわけではないけれど、色濃く影を落とすのは自覚してからだ。
 そのもやの名前や性質が、解ってしまえばなんのことはない。気にする類のものではない。
 自分自身をしっかり持っていれば迷わないし惑わない。
 頭でしっかり理解していても、視界は奪われたまま、割り切れない感情の中に立ち尽くす。

 例えば。
 「私と仕事、どっちが大事なの?」
 女性が男性にする、とよく言われている台詞だけれど。
 普通に考えて、大事にするベクトルが違うのだから対比なんて出来ない。
 馬鹿馬鹿しい問い。
 でも、そんな問いでも、このもやの中に投げ掛けられると重要な命題のように思えてくる。
 何故だろう。
 本質的には変化はないのに。
 そんなにも、このもやってものは厄介な物なのか。
 晴らす方法は、ないのだろうか。






 つまらないな、と可奈は思った。

 すぐ隣に座っているのに、こちらを一瞥もしない。
 構ってよ、と一回自己主張を兼ねてこつんと頭を寄せたけれど、それさえもおざなりな感じで、ぽんぽんと数回肩を叩かれて終わった。
 意識はもう、完全に本の中だ。
 そこには数ミリだって、居場所はない。


 そりゃー確かにさ、明日までにその本を返さなきゃいけないって言ってたよ。
 予約もいっぱい入ってるから延滞出来ないし、また借り直すのも手間だから、急いで読んじゃいたいのは判ってる。
 判ってる、けど。

 私が、いるんだよ?


 投げかける視線の先の人物は、先程から一心不乱に本を読む。
 目線は本に釘付けだ。
 それを見つめて、ちくりと小さく胸が痛んだ。
 胸が痛むことに気がついて、さらに気持ちまで重くなっていく。


 ……本にまで嫉妬するのか、私は。
 もはや生き物でもないし。
 最終的には数字と私とどっちが大事なのとか思いそう。
 あー、もう。
 バカみたい。



 どちらともなく、些細な事から気持ちが漏れて。
 そんなこんなで、今までよりも近い距離で過ごすようになってからというもの。
 どうも、おかしい。
 どうでもいい事で悩んだりイライラしたりする回数が増えている。
 これは由々しき事態だ、と膝を抱えて憤る。

 今までだって、想は可奈を置き去りにして、思考の中に入り込む事は何度もあった。
 そのことを気にしたり、ましてや腹を立てたことなんて、これまで一度もなかった。
 それが、当たり前だったのに。

 膝を抱えたまま、視線だけ移動し隣をまた見る。
 憎たらしいくらいに、真剣に向き合っているその視線。
 その、視線を受けることが。
 宝石みたいにキラキラ透き通った瞳が向けられるのが。
 堪らなく、好きなのに、なぁ。
 知らず、重々しい吐息が漏れる。
 触れてる肩は、暖かくって心地がいいのに。
 なんともいえない、変な気分。


 ねぇ、燈馬君。
 私、燈馬君の彼女だよね? 
 彼女が部屋に来てるのに、ほったらかしってどうなのさ。


 どうせ話しかけても聞こえないだろうから、心の中の声で囁く。
 まだ、照れくさくて、自分のことを彼女と言えないから、というのもあるけれど。


 人並みに、手は繋いでるし、ハグもしてる。
 キスは……まだだけれど。
 でも、これでも随分距離が縮まったと思わない?
 もうちょっと縮まったって、いいと思ってるんだけど、なぁ。


 整った顔立ち、長いまつげ。
 横顔をじっと見るのも悪くない。
 だけれど。
 やっぱり、こちらの視線に気づいて、ふわっと微笑んでくれるのが、一番いい。



 どうしたら、こちらを見てくれるか、考える。
 声をかけたって聞こえてない。
 体に触れたって、気がつかない。
 それなら。
 それなら。
 

 身体を離し、横顔を改めて見る。
 じつに無防備な横顔だ。
 そっと、腕を首に回す。
 それでも、全然動じない。
 本当に、本当に。
 悲しいくらいに。
 身体以外は本の中。
 


 じゃあ、その身体を使って無理やりにでも。
 こちらを振り向かせてみせる。









 反射的に、身体が仰け反る。
 痛い。
 熱い。
 なんと形容していいのか判らない。

 咄嗟に、耳を押さえて隣を見ると。
 真っ赤な顔の可奈が笑う。
 やっと見てくれた、と嬉しそうに。


 想は、改めて痛みを感じた耳朶を触る。
 そして何をされたかに思い当たると、湯気が出るんじゃないかというくらいに、頬が熱くなる。
 思考が全くまとまらない。
 なんと声を発していいのか判らない。

 あわあわと、焦る様子を眺めながら、可奈は憤っていた気持ちを治める。
 そんなに面白い反応をしてくれるなら。
 もっとしたら、どうなるんだろう。






 渦巻く感情は、独占欲とかだけじゃなくて。
 もっと一緒にいたい、触れたいって気持ちとか。
 もっと、知りたい、知ってほしいって気持ちとか。
 いろいろありすぎて、言葉に出来ない。

 自覚すればするほど自分の中の天秤も揺らぐし、相手と自分の均衡も揺れる。
 微妙で、微細な、匙加減。
 曝け出せばもやは晴れる。
 けれど天秤は大きく傾く。
 その後どうなるかなんて、皆目見当もつかないけれど。
 
 踏み出してみるのも悪くない。





 今のところは一歩リードかな、なんて、真っ赤になった頬に手を当てて考えてみる。
 きっと相手は手強い。
 ここまでだったら大丈夫、というラインを見つけてしまったら一気に詰められる。
 その前までに、ある程度は優位に立っていたい。


 今度は噛み付かず、そっと耳元に手を寄せる。
 こそっと、一言呟くと。


 想はまた目を見開いて、一層、顔を赤くした。
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