spill
ここ連日幸せいっぱいの月真です……
新刊が発売してからずっとなんだか幸せ気分が持続してます。
途中で燃料投下がものすごかったのでw
いや、もう、なんですかね、燈可奈最高(何
冬コミ用の原稿にそろそろ本気で取り掛からないとなんですがw
浮ついた気分でふわふわやってます、てへ。
spill
卒業してからもう数年も経つというのに。
水原さんは相変わらずに、ほぼ毎日のようにやってくる。
やって来てはやれ先輩がどうだかとかレポートがどうだかとか、延々と僕に向けて愚痴を溢す。20才を過ぎてからは酒も持参して深酒しながら、真っ赤な顔で管を巻く。
それを僕は、毎回毎回はいはいと聞き流すのだ。
聞いてないと怒るから要所要所でそれなりに内容に沿うような相槌を打ちながら。
「キッチン借りるから」
上がりこむなり挨拶もなしに開口一番にこういう時は、かなり不満が溜まっている証拠。
今日もまた、何度もリピートするとりとめのない文句やらダメだしやらを聞き続ける苦行を強いられると思うと、もう今から頭が痛い。
夕飯をご馳走してくれるのは多分迷惑料として、だと思う。
毎回それなりに凝った料理を出しては、僕の食べる姿を見ながら満足げに頷いている。
そういう時は、不機嫌の片鱗は一切見えない。機嫌がいいとは言い難い表情のままだけれど。
食事中はそういう話をしたくないし、というのは何回めに愚痴りに来たときだったか。
あらかた片付いて程よく酔いが回った頃、またいつものように水原さんがため息をつき始めた。
正直なところ。出てくる人名は知らない人が多いし、その文句が生まれた過程もわからないから聞いていても全然解らない。
質問すれば簡単に説明はしてくれるものの、本当に簡略なもので。途中で解らなくてついていけなくなってから生返事をし始めると「聞いてるの?」と怒られる。
一方的で理不尽だ。
今日もまた、水原さんは誰彼がこうでね、と、不満を羅列し始めた。
高校時代から顔が広いほうだとは思っていたけれど、大学生になってからはさらにその人脈は広がったらしく。昔と違い、気を使わざるを得ない人間が増えた(というか使うことを覚えた)事が相当ストレスになっているらしい。
「ねぇ燈馬君!燈馬君はさ、こう、イラっとする事ないの?」
何かあれば聞いてあげるよ、と、水原さんが急に話を振ってきた。
喋ることに疲れたのか、はたまた飽きたのか、両方か。
「水原さんが喋ってる人の名前が分からなかったり、話してる内容が要領を得ないので理解できなかったり。小さいことなら色々ありますよ」
思わず、思っている通りの答えが口から零れた。
しかしそれは水原さんの待っていた答えではなかったらしく、先程よりもかなり険しい表情でこちらを睨んでいる。……言えって言ったから答えただけなのに。
「でもね、水原さん」
付き合って飲んでいたせいか、強めのアルコールが頭にもやをかけていた。
でもね、なんて言う気なんてなくて、ただ一言、嫌味を言ってやろうと思っただけなのに。
「こうやって、僕に愚痴りに来てくれるの嬉しいんですよ」
瞼を閉じると、ふんわりいい気分になってくる。
「水原さんを取り巻く環境なんて今は知らないですし、別々の生活をしてるから共感なんてほとんど出来てないです。だけど、そういう、弱音を吐いたりするのに僕を選んでくれているのなら……」
光栄だし、純粋に嬉しいと思う。
きっと何遍も出てくる人名やら何やらよりもずっと信頼してくれている証拠だから。
二日も開けることもなく通いつめてくれるほどだ。身近なんてレベルではないかもしれない。
もう、それなら。帰らないでここから出かけてここに帰って来ればいいのにな。そうすれば時間を気にしないでずっと水原さんの話を聞いていられるし。
もしそうなるのならあればもっときちんと話を聞いてあげてアドバイスをしたっていい。多分、そうしたらこんな、出てくる人名とかに、嫉妬とかもしなくなるだろうし。
あ、そうか、僕嫉妬してるのか。負の感情ぶつけられてるからイライラしてるのかと思ったけれど。そうか、嫉妬か、それじゃあ仕方ない。
そこまでぼんやり考えて、ふと目を開けて視線を上げた。
水原さんが、困惑した顔でこちらを見つめている。
「燈馬君……?」
そりゃそうか、愚痴られて嬉しい人間なんて普通居ない。
嬉しいなんて言われたらどうしたらいいか解らなくなるだろう。
「大丈夫? ……かなり酔ってない?」
「酔ってますね、多分」
笑いながら重い頭をゆっくり傾げると、水原さんが困ったような表情をして頬に手を置いてくる。ひんやりと冷たくて気持ちがいいので思わず目を細めて頭を預けた。
「片付けしとくからさ、燈馬君もう寝ていいよ?」
……普段より僕が酔っているから心配しているんだろうか。
再度頭を上げるとぐらりと視界が揺れた。思った以上に今日は回ってしまっているらしい。そのまま、また元の位置に伏せるとほどよく眠気が襲ってきた。
このままここで寝てしまいたいくらいに、眠い。
「ちゃんとベッドで寝なよ。……連れてこうか?」
「いえ……冷めたら、自分で移動できますから……」
自分の内包している気持ちの性質が理解できたからか、とても気分がいい。多分、ほっとしたせいでアルコールがいつも以上回ってしまったのだろう。
酒量はさほど変わらないから、ほんの数時間眠れば抜けるだろう。
「水原さんは気にしないで……」
帰ってください、と言おうにも、もう意識が混濁してきていて言葉が止まる。
愚痴を聞いていた筈なのに、こんなふんわりした気持ちになっているなんて可笑しい。
きっと水原さんから与えられる物だったらどんな物でもこうやって幸せな気分になるのだろう。僕の知らない僕を見つけるきっかけを、いつも水原さんはくれるから。
落ち行く意識の中でぼんやりそんなことを考えていると、頭をぽんぽんと撫でられる感触を感じた。ほらまた。こうやっていとも簡単に、新しい気持ちを、与えてくれる。
・
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「『帰らないでここから出かけてここに帰って来ればいいのにな』って、それって……プロポーズに聞こえるよねぇ……」
燈馬君の寝顔を見ながら、私は真っ赤になったほっぺたをつんつんとつついてみた。
くすぐったそうに、燈馬君は身じろぎをした。
こういう顔は、昔っからちっとも変わらない。
私に話す風でもなく、ぶつぶつと独り言のように呟いていた本音。
多分、全部口に出ていたなんて気づいてないだろう。
そんなに飲ませたつもりはなかったんだけどなぁ、と潰れた様子を見てため息ひとつ。
愚痴を言いに来る、という体裁をとっていれば燈馬君ちに入れてもらえる。単純にそう思ってずっと続けていたのだけれど。
もしかしたら、もう理由なしに来ても不思議な顔をされないのかな、とさっきの気持ちの吐露で気がついた。
「……『今夜は帰したくない』とかなら確実なんだけどね。ねぇ燈馬君、私の好きにとっていいの?」
気持ちよさそうな笑みを浮かべたまま。
規則正しい寝息を立てて。
燈馬君は、答えない。
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