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花になる

続きを唐突に思いついたので更新しました(爆




一昨日はいいニーハイの日デシタ。

一年前にお題をやりまくっていてクラロリ燈可奈描いてたなぁと思いだし。
あれからどれだけ成長したかもいっちょ描いてやるか→あ、いいニーハイの日だ!
じゃあニーハイ履かせるか。燈馬君に
となってこうなりました。

ど う し て こ う な っ た。

燈馬君は絶対女装させたら美少女になるに違いない!!!
そう月真は確信しておりますっ( ✧Д✧) キラーン

2014.11.30 初稿
2015.01.14 追加
「花になる」


 女性というものはかくも大変なのか。

 燈馬は身動きが取れないままもう30分、床の上に座り込んでいる。
 布地もこれだけ嵩むと重いのだなぁ、と円形に広がる自らから伸びた裾を横目で見ながらため息を吐く。
「だから、目線は上だって言ってんじゃん!あー、ついちゃったよ……」
 可奈の責めるような声に視線を戻すと、相変わらずに顔が近い。

 ぺたぺたと色粉を塗ったりはたいたり、よくわからない金属の器具を瞼に押し付けられたり。やれ、目を閉じろ、開けろ、こっち見てろと注文多く、いじり倒された自分の顔はどうなっていることやら想像もつかない。
 女性の世界は、踏まえなくてはならないステップなんての多いことか。
 服を着せていかれるときも、見えないところに身につけるもののなんて多さだろうと驚いた。
 下着は流石に女性物は断固拒否をしたけれど。下履きにスリップにパニエ。
 靴下は所謂ニーソックスと呼ばれる物で。
 ガーターストッキングなど提示されたもんだからそれは断固拒否をして。
 燈馬君、色白いしむだ毛も目立たないし処理とかしなくていいからラクで狡いとかぶつぶつ文句を呟かれたけれど、そんな事を言われた所で全く嬉しくもない。
 けれど美しく見られるための見えない努力の片鱗を垣間見て、現在自分を飾り立てている少女の凄さを改めて感じた。

「睫毛長いし多いし……つけまいらないじゃん。なんか悔しい」
 物の量も名称もさることながら、耳に入る単語の意味が解らない。
 どういうものでどう使う物なのか。
 名詞なのか動詞なのか。
 可奈もこういうもやっとした気になることがあるんだろうか。
 ロキやエバと話しているときに、ぽかんと眺める視線を思い出す。
 自分たちには常識でも、知識がない人間には異次元の言語だ。
 こういったものかとあたりはついてもそれが正解かどうかは尋ねなければ解らない。
 けれどいちいち尋ねるのもな、と大概において無視をする。
 知らなくても生きてはいけるけれど、もし気になるなら改めて訊けば教えてくれるだろう。
 少なくとも自分は可奈にはそうしているなと想は思い返す。

 「ほら出来たよ」と鏡を見せられ暫し固まる。
 付け毛によって伸ばされた後髪が肩にはらりとこぼれ落ち、耳元のイヤリングもきらきらと陽光を反射し顔をより明るく照らしだす。
 目元は縁取りされ睫毛は強調し、頬は血色がよい赤みが差し、唇はつやつやとまるで濡れたよう。
 この女性は誰ですか? と喉元まで出かかってすぐ飲み込む。
 これは鏡だ。と、いうことはこれは自分の顔である。
 そっと頰に手を回すと、鏡の中の女性も同じ側の手を頰に当てる。
 成る程。やはり自分の顔だと結論が出た。
 鏡の中に可奈の手が映る。
 いつの間にやら後ろに回って、今度は頭になにやら飾りをつけているらしい。
 ずっとせわしなくくるくると動き続けている手を眺めているのは楽しい。
 なんと器用に動くことだろう。
 いつもは荒っぽい力仕事やら何やらをしているところばかり目につくというのに。
 こういう所はやっぱり女性だなぁとしばし見蕩れて眺めているとぽんぽんと肩を叩かれて満足げに頷く顔が、自分の顔のすぐ横に映った。

「はい、完成」
 頭には華やかな飾りのついた帽子。
 落ちないようにと顎の所でリボン止め。
 現代日本においてこのような格好はロリータファッションと呼ばれており。
 世間一般ではゴスロリだの呼ばれてすべて一緒くたにされることが多いけれど、実際には種類が多種多様にあり、その中でもこれはクラシック・ロリータという種類だそうだ。
 レースや布地がふんだんに使われているけれど、他のと比べたらまだまだだよと雑誌を見せられ絶句した。

 立ってごらんと促されよろよろと立ち上がると、可奈がすぐ隣で手を取った。
 踵が高い分、視界が広い。
 一応太めのヒールだから大丈夫だとは思うけど、と声をかけてきた真横を見る。
 可奈も同じようにフリルの沢山ついた服を着ている。
 同じ衣装の筈なのに、可奈は髪を結い上げている分、動きやすくて活発そうに見える。
 どんな服でも着こなせるんだなぁ、と想は心の中だけで賛辞した。



 客引きは誰がやるかという話になり。
 公平にじゃんけんで!という中に無理矢理入れられ、全員グーで二人だけパーという出来レースっぷりに可奈も怒っていたけれど、提示された衣装でものの見事に懐柔され。
 全力で想を美少女に!との命を受けた彼女は、見事にその役目を果たしたということでにこにこ笑いながら、しかしゆっくりとエスコートし教室の外に出る。
 剣道部の面々は二人が出てきたことに気がつくと、皆が一斉に振り返り、その姿にほぉぉと感嘆の声を漏らしていた。
 





「燈馬君、お疲れ〜♪」
 ぽんと肩を叩かれて、燈馬は大きなため息を吐いた。
「本当に、凄く、疲れました」
 重たい頭から落ちる長い髪を掻き上げて、首筋に風を通す。
 服も頭も暑いし重たい上、すれ違う人間に次々と話しかけられ、聞きたくもない賛辞を聞きながら無言で作り笑いを繰り返すという苦行。
 一時間と経たないうちに限界だと訴えたけれど、可奈は平気平気とカラカラ笑って取り合ってくれなかった。
 可愛いって褒めてくれてるんだよ素直に喜べ! と言われても全然嬉しくない。寧ろ、自分自身の性別を否定されているようで辛い。
 踵の高い靴を履いても、可奈も同じく高い靴だ。元々の身長差も無いわけだから、その差が生まれる訳も無い。
 だからなのか、誰も燈馬の仮装に気づくことなく、さらに性別すらもばれることがなかった。

「もう終わったんだし、着替えていいですよね?」
 自分では解き方がわからない扮装をどうしていいか判らずに、靴だけさっさと脱ぎ捨てて、燈馬は可奈に視線を投げた。
 慣れない靴の傾斜のせいで、足の所々の筋肉が痛い。
 解放された途端に足の裏が歓喜するかのように弛緩していくのを、ひんやりとする床越しに感じる。
「うん、今日は終わりでいい、あ」
 微笑みながら頷く可奈の口が、「あ」の形に開いたまま止まった。
「……あ?」
 些か嫌な予感がして、燈馬が聞き返す。 
「……メイク落とし忘れてきた」
「え?」
 重大なことのように、そう言って固まる可奈を見て。それは絶対に必要な物なんですか?と燈馬が首を傾げた。
 うんうんと細かく大きく首を振りながら、可奈は燈馬の後ろに回ると一日中歩き回ってよれよれになった後ろのリボンを結い直し、ずれた付け毛を留め直し始めた。
「ちょ、もう脱ぎたいんですけど!」
「悪い、ウチまで延長!」
 もそもそと抵抗するも無理矢理に引っ張られ、若干だらしなくなっていた着こなしがみるみる甦っていく。
「そんなの出来るわけないじゃないですか! イヤですよこんな格好のまま家まで帰るなんて!!」 
「仕方ないじゃん! 『剣道部の出し物に現れた謎の美少女』って触れ込みでやってんだから!! 燈馬君が顔そのままで着替えたらバレバレじゃん!」
 可奈は不満な叫び声を背中に浴びながら燈馬の制服を素早く鞄に詰め込んだ。
 幸いにして学園祭のため、荷物は制服と鞄のみだ。
 下駄箱から靴を持ってきてもらって別口から出れば見咎められることも無いだろう。
 可奈は文句を言う燈馬をはいはいとあしらいながら、外で帰宅準備をしている香坂に帰る算段を打ち明けた。
「要するに、顔洗えばいいんですよね?!」
 半ば自棄になりながら付け毛を外そうと燈馬は肩に掛かる毛束を掴んだ。
 しっかり留まっているせいで引きつった痛みが頭に走る。
 それでも構わず無理矢理取ろうと力を込める直前、可奈は手を押さえ、呻くように呟いた。
「ウォータープルーフ使ったから下手にいじると大変なことになる……」
 ふざけている訳では無い、沈痛な面持ちで。
 だからそれが、どういった大変な事かは全く解らなくとも本当のことだと悟る。 
 そのまま帰った方がお互いのためになると思うよ、と可奈に言われ、燈馬はへなへなと床に崩れ落ちた。
「ほらさ、せめて、私も付き合ってこのままの格好でちゃんと送り届けるからさ!」
 とぽんぽんと肩を叩かれても、気力が無い。
 恨みがましく、上目で見つめ返すしか、燈馬は出来なかった。


つづく。
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