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縺れた糸の解き方 (前)

個人的には、「ときかた」と読むより「ほどきかた」と読むほうが好きかなぁ。

 あっちの情景描写がうまくいかずに、いろいろ寄り道して(いやまぁ現在進行形でまだいろいろ寄り道したいんですがこのムラッ気さんめ!ツイッター参照)せめてじゃあSS!SS書いて前向きに!と書きかけてたものに手を付けたら……あれ……終わんない?(滝汗)

 ト書き程度にアウトライン引いてあったんですが、大幅にずれ込みはじめました。
 これさ、同時進行で終わらせるとかムリじゃないの?



 と、思いましたので、とりあえず、キリのいいここで投げっぱなしジャーマンとします。
 よりによってココかよ!!的な場所になってしまいましたが、まだ終わってないのですみません。

 あとはエピローグ前~だけなんで(でもそこが鬼門。書くの楽しそうだけれどもその分長くなりそう感……)
 
 この後が(中)となるか(後)となるかは、この後の文章量次第だったりします。


 しばらく、裏が終わるまで全部封印して頑張ります。
 終わらせないと、多分脳内黒燈馬君祭なネタ出し止まんないもんorz

 反動で真っ白い燈馬君を思う存分書けたので、いいリフレッシュになりました(超爆)
 








「水原さん、僕の事、好きですか?」
「何よ、唐突に」
「僕、水原さんのこと、好きです」

「ずっと好きでした」
「……私も、好き……だと思う」

「うん、好きだ。大好き」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

縺れた糸の解き方

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 白い吐息が、凍える空気に溶けていく。
 今までなら二人で歩く通学路だが、今日も別々に登校する。下校も多分、また単体だ。
 見慣れた風景だって、ここのところ灰色に見える。
 あんなに全てが色鮮やかだったのは、燈馬君と二人でいたからなんだと、嫌になるほど理解した。

 寂しくないわけがない。
 ただ、そうなってしまったきっかけは自分で。
 どうにかして、それを打開しなければとは思うけれど。
 やれ、受験勉強だとか何だとか理由を付けて先送りしてしまっていることは事実だったりする。 
 時間が絶てば経つほど気まずさが増すというのは目に見えているのに。

 どうしても、仲直りするためのきっかけを作るのが出来なかった。

 なんで、あのとき、私は逃げたりしたんだろう。
 後悔だけがしんしんと降り積もり、心が埋れていくようだ。
 指先だけでなく、身体も、内面も、全てが、氷のように冷たい。
◇◇◇◇

 2学期の終わり。
 いつものように燈馬君ちでだべる私たち。
 もう今年も終わりなんだね、とか、他愛ない話をしていたと思う。
 そうしたら、燈馬君が、急に
 「僕の事、好きですか?」とか聞いてきた。
 急に訊かれてびっくりしたけど、すぐに燈馬君が僕は好きです、とかって告白してきた。
 ホント、いきなりだったから答えに迷ったけど、すごく真面目な顔でそんなこと言うもんだから、自分でもよく考えて私も好きだ、と答えた……と思う。

 思うっていうのは、そのへんの記憶がかなり曖昧だからだ。
 その後、結構いい雰囲気になって、あわやキスか?!という時になって私は逃げたのだ。
 本当に、情けないけれど。

 怖かったのだ。
 今の関係のその一歩先が、どういったものなのか。
 そして、足を踏み入れたら、自分はどう変わるのか。
 燈馬君は、どう変わってしまうのか。

 燈馬君はすごく傷ついた顔をしていたけれど、すぐに曖昧に微笑みながら、無理させてすみません、と謝ってきた。
 今思うと、どうしてあのときに仲直りしとかなかったんだろうと悔やむ。

 いや、だって、まさかちょっと怖いから待ってって言っただけなのに、ここまで燈馬君に避けられるとは思ってなかったんだもん。
◇◇◇◇
 凍える指先に吐息を掛けながら、重い足取りでやっとげた箱に到着する。
 やけに寒さが身に堪えるのは気候だけのせいではないだろう。
 燈馬君のげた箱をみると、もう革靴が収まっている。
 校内にはいるのだろう。
 ……この数日は、靴だけしか見てない日々だけれど。

 三年に上がってクラスが変わってからは、授業中に会うことはほとんどなくなった。
 だからこそ、学校にいる間は登下校と昼休みは常に一緒に過ごしていた。
 それが無くなってしまえば、接点が無いのは当たり前だ。
 一回、屋上にいるのかと思って行ってみたが、そこには姿がなかった。
 会いたいときは屋上に行けばいいや、と軽く考えていたのに、どうやら向こうは避けるために別の場所で時間つぶしをしているらしい。
 あてが外れて、焦って家に押し掛けても居留守を決め込まれてしまうし。
 もう、どうやって仲直りしていいのか解らない。
  

 教室に着き、人知れずはぁ、とため息をつく。
 今日もまた、仲直りできないのかな。
 朝っぱらから鬱々とした気分になってゆく。

 「よう、可奈」
 後ろから、香坂がぽんと肩を叩く。
 普段通り、にこにこと人懐っこい笑顔だ。
 「……課題なら紀子に聞いて。私やってないよ」
 正直、それどころじゃなくて。
 ぽっかりと空いた心の淋しさに、折り合いがつかなくて、ここのところなんにも手につかない。
 もうすぐセンター試験だっていうのに。
 試験が終われば、登校日だって限られてくる。
 実質、ここ数日が仲直りのチャンスだった。
 それなのに、まだ一度だって会えていない。
 どうすればいいのか。
 そればっかり考えてしまう。

 「あんたさ、最近燈馬と一緒じゃないよね? 何? 喧嘩したの??」
 香坂は相変わらず、ずけずけと思うまま口に出す。
 いつもなら、そんな軽口もハイハイと受け流せるけれど。正直今はちょっとツラい。
 「別に、そんなんじゃないよ」
 辛うじて答えるけれど、内心は気にしてるんだからそっとしておいてほしいなぁ、と気持ちが尖る。
 「何よ、図星?もしかして痴話喧嘩ぁ?」
 容赦なく、香坂の言葉の刃が刺さる。
 ちわげんか。
 このままじゃ、それすら出来なくなるかの瀬戸際だって言うのに。茶化しながら訊かれると余計に腹が立つ。
 「冗談でも、そういう風に言わないでよ」
 自然、語気が荒くなる。
 誰も好き好んで、喧嘩をしたわけじゃない。
 早く仲直りしなきゃしなきゃと気が競いでる。
 それなのに。

 凄んだ声のせいか、周りがしんと静かになる。
 大きな声で言ったつもりはなかったけれど、この様子では教室中に通ってしまったのだろう。
 苦々しくため息を出し、空気を悪くしたことにとりあえず謝ると、私はそのまま廊下に出る。
 中は、もう、みんなが聞き耳を立てているようでどうしても居心地が悪かった。
 自意識過剰かもしれないけど、クラス中の視線が集まっている感じだ。
 勉強以外、目立った話題がないからだろうか。

 廊下に出た途端、言葉通りばったりと、燈馬君と逢えた。
 しばらくぶりに見たその顔は、疲れたような憔悴しきった感じだった。
 そりゃ、クラスが違えども同じ校内で会わないように会わないように気をつけていたら気疲れもするだろうに。
 やっと、会えたことによる安堵と避けられた憤りと、いろいろごっちゃになった頭で、燈馬くんに近寄る。
 が、なんだか、よそよそしい。
 目を、合わせてもらえない。

 「燈馬君、なんか、久しぶりな感じだね」
 違和感を感じたまま、なんとか声をかける。
 胸のところがつかえた感じで、喋る声も、なんだか震えている。
 「ええ、そうですね」
 こちらを見ないまま、暗い表情で、燈馬君は答える。
 それ以降、会話が続かない。

 どう話を自然に持って行こうか考える。
 普段なら、こんなに重い雰囲気じゃないし、燈馬君だって、こちらが話したい素振りを見せればもっと話をしようと心を砕いてくれる。

 こういう何気ないことだって、燈馬君のおかげで成り立っていたんだな。
 また、私が気づかなかった燈馬君の威力を今更ながらに知った。

 「ずっと謝りたかったんだ、ごめんって」
 もう遠回りして話すのも馬鹿馬鹿しいので、本題を吐き出す。

 避けられる、というのは理由がある筈だ。
 それは、先日の告白逃げた事件に他ならない。
 具体的に、どこが悪かったのかは実際のところよく解らない。
 逃げたのが直接の原因の気もするし、その前の受け答えだって曖昧だ。
 全てにおいて、自信がない。
 「でも、もう大丈夫だから!」
 もう、逃げないよ、と強調するため、真っ直ぐ見つめる。
 相変わらず、廊下の窓を眺めてる泣きそうな顔はこちらを一瞥もしない。
 回り込んで視線を合わそうとしても顔ごとまた別を向くので、両手で頬を持ち、固定する。
「だから、その……」
 告白の、やり直しをさせて欲しい、とそのまま言うつもりだった。

 けれど、燈馬君の制止で、その言葉は宙に消えた。
 「無理しなくていいですよ」
 ぐ、と両手を剥がされる。
 視線は、顔を合わせてる間から、ずっと下を向いていた。
 剥がした手を、燈馬君が持ったまま降ろし、離す。
 久しぶりに触れた頬の、指先の、感触が名残惜しく手に熱を残す。
 でもそれも一瞬で、廊下の冷気に吸い込まれる。
 「すみません、いろいろ気がつかなくて……」
 下を見つめたまま、絞り出す様に。
 泣いてるんじゃないかと思うくらい、か細い声で。
 あの日と同じ。
 ひどく傷ついた、顔。


 頭の内で警報の様に、冷たく鼓動が響く。
 わたしは、何か間違えた。
 行動?
 言葉?

 思い出せ。
 燈馬君に謝る。
 燈馬君に会う。
 廊下に出る。
 香坂に、

 いつから。
 いつ、燈馬君は、この教室の前に立ったのか。


 「やっぱり、誤解されるのは、嫌です、よね」
 今にも涙が零れそうな瞳を、この時やっと捉えた。
 胸がぎゅぎゅぎゅ、と軋む音がする。

 そんな顔、させようと思っていた訳じゃないのに。
 ちゃんと謝って。
 誤解を解いて。
 なーんだ、そんなことだったのかって笑いあいたかっただけなのに。

 スローモーションのように、踵を返すのを見た。
 わたしは、後悔で頭が一杯で、反応が一瞬遅れた。
 残像を掴もうと手を伸ばすが、もう遅い。


 違うの!
 違うんだよ!
 あのとき私が逃げたのは。

 さっきの、あの話だって、
 いつもだったら聞き流してたじゃない!


 告げられなかった言葉が、雑踏に溶ける。
 ホームルーム前の、人気の絶えない廊下に、後ろ姿が消えていく。
 追いかけても、追いかけても、人波にぶつかり、思うように走れず追いつけない。


 見失い、途方に暮れて屋上に行く。一縷の望みをかけて。
 でも、やっぱり、燈馬君の影はない。


 自然と、涙が溢れる。
 その場に、がくりと膝が折れた。
 冷たい風が、濡れた頬を容赦無く凍らせる。

 ああ、私。
 私が言葉足らずのせいで。
 燈馬君を、傷つけてしまった。



 嗚咽だけが、屋上に響く。
 いつだって、ここに来れば笑い声が響いてるはずだった。
 もう、遠い昔のように感じる。
 あんなにもあったかくて。
 あんなにも幸せだった時間を。

    
 私が、壊した。





◇◇◇◇


 燈馬君が、アメリカに帰るらしい、という話を人づてに聞いたのは、燈馬君と最後に会ってから半月した頃だった。
 センター試験も終わり、学校に来る三年生も登校日とはいえまばらだ。そんな中で聞いたので、話として挙がったのはずいぶん前なのかもしれない。
 初めて聞いたときには、教えてくれた友人が驚いていた。真っ先に私は知っていると思っていたらしい。
 以前までの関係ならば、それは当たり前のことだっただろう。
 けど今は。

 正直、試験とか入試とか、そういったものはなんとかこなしてはいたけれど大部分頭を占めていたのは燈馬君のことだった。情けない。

 弁解しようにも、どうしても、燈馬君は会ってくれなかった。
 居留守はしなくはなったけれど、顔を合わせられない。
 それだけのことをしてしまったんだな、と玄関先で何度も自覚しては涙を零した。

 燈馬君は、会ってはくれなくても、こんな私に試験はちゃんと受けられましたか?、風邪を引くからもう引き上げた方がいいですよ、入試は落ち着いて受けてくださいね、とインターホン越しに毎回優しい声を掛けてくれた。
 そんな声だけで、悲しかった心がすぐに上向きになるんだから現金なもんだ、と自分で思う。
 許してもらってもいないのに。

 ただただ、今もこうやって燈馬君に甘えて。
 馬鹿な私は、さらに燈馬君の傷口を広げているんじゃないかな、と不安になる。
 でも、私は。
 それでも、燈馬君の所に通うことを辞められなかった。
 諦められなかった。
 燈馬君と、一緒にいたい、という気持ちを。


 香坂が、申し訳なさそうに声を掛けてきた。
 どうやら、人づてにこじれている原因が自分の不用意な一言だったと聞いたらしい。
 人目を憚らずのあの修羅場だったわけだから、当然一部始終を見てた人間も居ただろう。
 これを香坂に伝えた人間は、面白半分だったのか、それとも。
 どちらにせよ、悪意を感じるその行動に、気持ちは憤る。
 「からかってたわたしが言うのも何だけど……あんたたち大丈夫?わたしのせいで喧嘩になっちゃったんなら、ホントごめん」
 最初の方は、元来のあけすけな物言いだったけれど、最後の方は、掠れて消えた。
 虚勢を張っても、そんなのはお見通しだ。
 どれだけ長い付き合いだと思ってる。

 あんたのせいだ、なんて思わない。
 きっかけはそもそもわたしの中だ。
 そう言って、泣きそうな背中をぽんぽんと叩いた。
 こいつは悪気は全くない。
 いつもだったら、どつきあうくらいで済んでいた話なんだ。
 本当に、間が悪かっただけなんだ。

◇◇◇◇
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