ジューンブライド①
折角6月だからそういう話を一つくらい書いてもバチはあたらないかなぁとかなんとか思いましておもいつくまま書いております。
ばばーっと書いた感じは軽いノリな感じだったんですがはてさて。
「ジューンブライド」
「いい加減、何の肩書きもない女性を連れて歩くには限界なんですよ。いい歳ですし」
戻ったホテルの部屋でベッドの片方に腰を下ろすと、燈馬君は深々とため息をついた。
私は水差しからグラスに水を注いで燈馬君に手渡しながら、はいはいと返事をしながら、隣のベッドに座り向かい合う。
主催に取って貰ったツインルームは流石に広い。二人で泊まるに不自由はしない。
……まぁ、いつもの通り私は燈馬君の手配した別室を使っているので、燈馬君はこの広さを独り占めするわけだけれど。こうやってくつろぐぐらい分けて貰ったってバチは当たらないと思う。
心なしかベッドの柔らかさも違う気がするけれど、それはそれ。全部出して貰ってるんだから文句の言いようも無い。
「そこまで気にしなくても平気じゃん?」
「平気じゃないです!」
ネクタイを緩めながらこちらを半目で睨む赤ら顔に、凄みはない。
付き合いで空けたグラスは何個だったか。お酒は強い方だと思うけれど、それでも度を超していたと思う。ペースも大分速かった。
ふらつく肩を抱えて慌てて帰ってきたけれど、今日の酔いはあまり良くはないらしい。
私だって何杯か飲んだからそれなりには酔ってるとは思うけれど、燈馬君のこの絡み酒には敵わない。
でも、ここまで絡まれたことは今まで無かったから私はとっても楽しい気分だった。
「水原さんがこうやって僕に便乗して海外に来るのは観光目的じゃないですか」
「まぁ、そうねぇ」
「手伝ってもらったりもしてますけど、気が向いたらなだけで、基本は美味しいとこ取りですよね」
「うん」
「今日みたいにパーティに呼ばれたら一緒に行きたがったり」
「 美味しい物を食べたいのは自然の摂理じゃん」
にこにこ相槌を打つ私に、燈馬君は「あのですねぇ」と先程より大きな溜息をついた。
「パーティやらそういう場に一緒に出たりするには、配偶者でない限りは不自然なんですよ? 僕は水原さんをなんて紹介すればいいんですか? 大事な友人だと言っても、ああいう場ではそう取られないんですよ? 恋人だとか婚約者だとか、それを否定して回るのは現実的じゃないくらい判るでしょう?」
くどくどと語られるお説教の様なものに頷きながら、私はあれ?っと思い当たる。
燈馬君と出会ってからこの十数年、今日みたいになんらかのパーティに便乗して参加したのは数えるのを放棄するくらいに何度もあった。
その際に燈馬君は、私の事を毎回毎回友人だと言って紹介している。そりゃあもう、初めてロキに会った時のように律儀にも。
学生の頃はそれできちんと意思疎通は出来たかもしれない。仮に勘違いされたとしてもガールフレンド止まりで。
でも、今はどうだろう。
妙齢の女性を伴ってパーティに出席していれば、男女の関係を勘ぐられない訳はない。
燈馬君は、私の事を説明するのに骨が折れるのではないだろうか。
考えたことも無かったけれど、燈馬君も私も、いい歳なのだ。
年相応の振る舞いを考えた方がいいのかもしれない。
ふむふむと考え込む私にようやく気が付いたのか、燈馬君は聞いてますか?と私の顔を覗き込んだ。すごく訝しげに眉根を寄せている。
そうだなぁ。そんなに見た目は変わったとは思ってなかったけど、よくよく見たら普通に大人の男性だよなぁ。そりゃあ、私もアラサーの女だよ。
なんだか急に、いつの間にやら過ぎ去ってしまった年月の重みに気がついた。
そして、そんなに長い間だというのに、全く変わらず付き合いを続けてくれている燈馬君の優しさにも。
いつもいつも利便を効かせてくれる相手に手を焼かせるのは不本意だ。不義理は私の信条ではない。
一番の名案はどんなものだろうか、と考えを巡らせてみる。
私と燈馬君の関係性を簡潔に証明するためには、どうすればいいのだろう。
「そっか、なっちゃえばいいのか、配偶者に」
ぽん、と思わず手を叩く。
そうか、そうすれば変な勘ぐりもなしに、ただ一言、パートナーですと言えばいいのか。
あぁ、コレ、ホントに名案じゃない?
そう思って燈馬君に視線をやると、
「………………は?」
目をまん丸にしたまま、燈馬君が固まっていた。
急に話が飛んだからか、燈馬君の思考が停止してしまったようだ。
「なろう、夫婦に」
私が重ねて言うと、燈馬君はさっきの勢いはどこへやら、明らかに狼狽して両手を振った。
「え?……いやあの、解ってます? 配偶者とか夫婦とかって……結婚するって事ですよ?」
「あ、燈馬君は嫌だった?」
「嫌じゃないですけど、いや、そんな、単純な話じゃないですよね?」
さっきよりも明らかに顔に赤みが増している。いつも澄ました顔してるのに、柄にもなく照れてるのかと思うと可笑しくて仕方がない。燈馬君にとって、よっぽど思いもよらない事だったんだろう。……それはそれで、若干傷つくけど。
「ならいいじゃん。お互いこの歳まで恋人の類いは一切出来なかったし、結婚とかお付き合いとかもあんまり考えてなかったけどさ、燈馬君だったらいいかなーって」
四六時中燈馬君も私も一緒にいるもんだから、そういう縁の類いが逃げて行ってる気もしないでもないのは、都合よく忘れることにする。
でもまぁ、私も燈馬君もそれを不服と思ってなくて、逆に変な虫が付かなくて好都合だと思っていたんだから仕方がない。
「……本気ですか?」
いつの間に冷静になったのか、真剣な目で燈馬君がこちらを見つめる。
それを見て、私の頭も少し冷静になる。
思いつきとはいえ、一応これはプロポーズというものに当たるのか、と今更ながらに気がついた。
いくら流れで、とは言っても、流石にこれでは誠実さに欠けるのかなぁとかぼんやり思って私は姿勢を整える。
見据えた眼力は、衰えることを知らずにずっと私を見つめ続けている。
「私は燈馬君好きだよ。一緒にいて楽しいし居心地いいし。ずっとこんな感じで一緒に居られればなぁって思ってる」
その好意は、最初は恋愛のあれこれだったのかもしれないし、家族に向けるそれだったのかもしれない。なにせ、長年ずっと一緒だったものだから、もう燈馬君に対しての気持ちがどういうものか判らない。一緒に居るのが当たり前になってしまっている。
逆に考えると、もう燈馬君がいない生活なんて考えられないから、男女の仲でなくてもこうやって夫婦として一緒に居られる関係を結んでしまえるのは好都合だと思う。
「別に紙切れ上の話でいいじゃん。燈馬君も私もそういう相手が居なくてこの先もそういうのを考えられないならさ。便宜上妻で」
明るく笑う私とは対照的に、燈馬君は真面目な顔だ。
酔いはすっかり飛んでしまったようで、さっきまでの頼りない雰囲気なんて微塵も感じさせなかった。
「……いいんですか、それで? 後悔しませんか?」
「何かあったらそん時はそん時だよ。書類だけなんだから後腐れなくスッパリで構わないじゃん」
私の言葉に、燈馬君は僅かに気分を害したようだった。
何か言おうと口を開いたけれど、結局何も言葉を発せずに飲み込み、目を伏せた。
……書類だけ、というのが嫌なんだろうか?
でも、男性で結婚式とか夢見る人っているのかな?
アリクイはいつまで経ってもアリクイだし、燈馬君の考えることは正直解らない。
だから多分、私の思いも寄らない事を考えているんだろうな、とそう感じた。
「……では、水原さん。僕と結婚してくれますか?」
何か思案したらしいちょっと長めの沈黙の後、燈馬君が手を差し出してきた。
その表情は、憂い顔のような笑顔のような、かなり複雑な様相だ。
きっと先回りして余計な事ばかり心配しているんだろう。
こいつはいつもそういう奴だ。
「うん、宜しく」
だから私は、そんな思惑なんて関係ないんだとばかりに。
明るく笑顔で弾む声で、燈馬君の手を取った。
ばばーっと書いた感じは軽いノリな感じだったんですがはてさて。
別に「6月の花嫁は幸せになれる」とか、
そういうジンクスを信じたり頼ったりした訳ではなくて。
ただ単に思い立ったのが6月だったってだけだった。
そういうジンクスを信じたり頼ったりした訳ではなくて。
ただ単に思い立ったのが6月だったってだけだった。
「ジューンブライド」
「いい加減、何の肩書きもない女性を連れて歩くには限界なんですよ。いい歳ですし」
戻ったホテルの部屋でベッドの片方に腰を下ろすと、燈馬君は深々とため息をついた。
私は水差しからグラスに水を注いで燈馬君に手渡しながら、はいはいと返事をしながら、隣のベッドに座り向かい合う。
主催に取って貰ったツインルームは流石に広い。二人で泊まるに不自由はしない。
……まぁ、いつもの通り私は燈馬君の手配した別室を使っているので、燈馬君はこの広さを独り占めするわけだけれど。こうやってくつろぐぐらい分けて貰ったってバチは当たらないと思う。
心なしかベッドの柔らかさも違う気がするけれど、それはそれ。全部出して貰ってるんだから文句の言いようも無い。
「そこまで気にしなくても平気じゃん?」
「平気じゃないです!」
ネクタイを緩めながらこちらを半目で睨む赤ら顔に、凄みはない。
付き合いで空けたグラスは何個だったか。お酒は強い方だと思うけれど、それでも度を超していたと思う。ペースも大分速かった。
ふらつく肩を抱えて慌てて帰ってきたけれど、今日の酔いはあまり良くはないらしい。
私だって何杯か飲んだからそれなりには酔ってるとは思うけれど、燈馬君のこの絡み酒には敵わない。
でも、ここまで絡まれたことは今まで無かったから私はとっても楽しい気分だった。
「水原さんがこうやって僕に便乗して海外に来るのは観光目的じゃないですか」
「まぁ、そうねぇ」
「手伝ってもらったりもしてますけど、気が向いたらなだけで、基本は美味しいとこ取りですよね」
「うん」
「今日みたいにパーティに呼ばれたら一緒に行きたがったり」
「 美味しい物を食べたいのは自然の摂理じゃん」
にこにこ相槌を打つ私に、燈馬君は「あのですねぇ」と先程より大きな溜息をついた。
「パーティやらそういう場に一緒に出たりするには、配偶者でない限りは不自然なんですよ? 僕は水原さんをなんて紹介すればいいんですか? 大事な友人だと言っても、ああいう場ではそう取られないんですよ? 恋人だとか婚約者だとか、それを否定して回るのは現実的じゃないくらい判るでしょう?」
くどくどと語られるお説教の様なものに頷きながら、私はあれ?っと思い当たる。
燈馬君と出会ってからこの十数年、今日みたいになんらかのパーティに便乗して参加したのは数えるのを放棄するくらいに何度もあった。
その際に燈馬君は、私の事を毎回毎回友人だと言って紹介している。そりゃあもう、初めてロキに会った時のように律儀にも。
学生の頃はそれできちんと意思疎通は出来たかもしれない。仮に勘違いされたとしてもガールフレンド止まりで。
でも、今はどうだろう。
妙齢の女性を伴ってパーティに出席していれば、男女の関係を勘ぐられない訳はない。
燈馬君は、私の事を説明するのに骨が折れるのではないだろうか。
考えたことも無かったけれど、燈馬君も私も、いい歳なのだ。
年相応の振る舞いを考えた方がいいのかもしれない。
ふむふむと考え込む私にようやく気が付いたのか、燈馬君は聞いてますか?と私の顔を覗き込んだ。すごく訝しげに眉根を寄せている。
そうだなぁ。そんなに見た目は変わったとは思ってなかったけど、よくよく見たら普通に大人の男性だよなぁ。そりゃあ、私もアラサーの女だよ。
なんだか急に、いつの間にやら過ぎ去ってしまった年月の重みに気がついた。
そして、そんなに長い間だというのに、全く変わらず付き合いを続けてくれている燈馬君の優しさにも。
いつもいつも利便を効かせてくれる相手に手を焼かせるのは不本意だ。不義理は私の信条ではない。
一番の名案はどんなものだろうか、と考えを巡らせてみる。
私と燈馬君の関係性を簡潔に証明するためには、どうすればいいのだろう。
「そっか、なっちゃえばいいのか、配偶者に」
ぽん、と思わず手を叩く。
そうか、そうすれば変な勘ぐりもなしに、ただ一言、パートナーですと言えばいいのか。
あぁ、コレ、ホントに名案じゃない?
そう思って燈馬君に視線をやると、
「………………は?」
目をまん丸にしたまま、燈馬君が固まっていた。
急に話が飛んだからか、燈馬君の思考が停止してしまったようだ。
「なろう、夫婦に」
私が重ねて言うと、燈馬君はさっきの勢いはどこへやら、明らかに狼狽して両手を振った。
「え?……いやあの、解ってます? 配偶者とか夫婦とかって……結婚するって事ですよ?」
「あ、燈馬君は嫌だった?」
「嫌じゃないですけど、いや、そんな、単純な話じゃないですよね?」
さっきよりも明らかに顔に赤みが増している。いつも澄ました顔してるのに、柄にもなく照れてるのかと思うと可笑しくて仕方がない。燈馬君にとって、よっぽど思いもよらない事だったんだろう。……それはそれで、若干傷つくけど。
「ならいいじゃん。お互いこの歳まで恋人の類いは一切出来なかったし、結婚とかお付き合いとかもあんまり考えてなかったけどさ、燈馬君だったらいいかなーって」
四六時中燈馬君も私も一緒にいるもんだから、そういう縁の類いが逃げて行ってる気もしないでもないのは、都合よく忘れることにする。
でもまぁ、私も燈馬君もそれを不服と思ってなくて、逆に変な虫が付かなくて好都合だと思っていたんだから仕方がない。
「……本気ですか?」
いつの間に冷静になったのか、真剣な目で燈馬君がこちらを見つめる。
それを見て、私の頭も少し冷静になる。
思いつきとはいえ、一応これはプロポーズというものに当たるのか、と今更ながらに気がついた。
いくら流れで、とは言っても、流石にこれでは誠実さに欠けるのかなぁとかぼんやり思って私は姿勢を整える。
見据えた眼力は、衰えることを知らずにずっと私を見つめ続けている。
「私は燈馬君好きだよ。一緒にいて楽しいし居心地いいし。ずっとこんな感じで一緒に居られればなぁって思ってる」
その好意は、最初は恋愛のあれこれだったのかもしれないし、家族に向けるそれだったのかもしれない。なにせ、長年ずっと一緒だったものだから、もう燈馬君に対しての気持ちがどういうものか判らない。一緒に居るのが当たり前になってしまっている。
逆に考えると、もう燈馬君がいない生活なんて考えられないから、男女の仲でなくてもこうやって夫婦として一緒に居られる関係を結んでしまえるのは好都合だと思う。
「別に紙切れ上の話でいいじゃん。燈馬君も私もそういう相手が居なくてこの先もそういうのを考えられないならさ。便宜上妻で」
明るく笑う私とは対照的に、燈馬君は真面目な顔だ。
酔いはすっかり飛んでしまったようで、さっきまでの頼りない雰囲気なんて微塵も感じさせなかった。
「……いいんですか、それで? 後悔しませんか?」
「何かあったらそん時はそん時だよ。書類だけなんだから後腐れなくスッパリで構わないじゃん」
私の言葉に、燈馬君は僅かに気分を害したようだった。
何か言おうと口を開いたけれど、結局何も言葉を発せずに飲み込み、目を伏せた。
……書類だけ、というのが嫌なんだろうか?
でも、男性で結婚式とか夢見る人っているのかな?
アリクイはいつまで経ってもアリクイだし、燈馬君の考えることは正直解らない。
だから多分、私の思いも寄らない事を考えているんだろうな、とそう感じた。
「……では、水原さん。僕と結婚してくれますか?」
何か思案したらしいちょっと長めの沈黙の後、燈馬君が手を差し出してきた。
その表情は、憂い顔のような笑顔のような、かなり複雑な様相だ。
きっと先回りして余計な事ばかり心配しているんだろう。
こいつはいつもそういう奴だ。
「うん、宜しく」
だから私は、そんな思惑なんて関係ないんだとばかりに。
明るく笑顔で弾む声で、燈馬君の手を取った。
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